23

襖をきっちりと閉めた咲耶姫様はこちらを向き直ると眉を下げた。少し困ったような顔で私を見つめる。

静かな落ち着きを取り戻した室内に、私はほうっと胸を撫で下ろした。


「すまなかったな。」


「いえ、何かすごく熱かったです。」


額の汗を拭う私に対して、咲耶姫様は涼しい顔をしている。私だけが汗をかいていて、もしかしたら自分で思うよりもはるかに緊張したのかもしれない。すごく怖かったし。

と思ったのも束の間。


「あいつは火の神だから、興奮すると燃えるのだ。」


「えっ!神様?!燃える?!」


「おかげでお前の服が乾いたな。」


咲耶姫様は可笑しそうに笑う。

部屋の隅に掛けてある私の雨で濡れた服を見れば、すっかりと乾いたようだった。

ありがたいけど私は全然笑えない。

そりゃ汗も出るわけだ。

燃やされなくてよかった。

火の神様恐るべし…。


「えっと、火の神様?あの方は何をしにいらしたのでしょう?見舞いがどうとか…?」


私が疑問を投げ掛けると、咲耶姫様の顔が曇る。


「どうもこうも、私の顔の痣を嘲笑いに来ているだけだ。」


ふんとそっぽを向きながら、咲耶姫様は冷たく言い放つ。


「ええ?でもお見舞いって言ってましたよね?それにお花、置いていかれましたよ。」


私は襖の前に無造作に置かれている花を手に取った。そこに置いたのか落としたのかよくわからないけれど、確実に火の神様が持ってきたものだ。

それは花束ではなくただの切り花で、もしかしてどこかで摘んできたのだろうかと思わせる。切り口が雑だが、紫色の花が見事に咲いていた。

これはキキョウ…?


「あ、それに、火の神様って、もしかしてこのぐいのみ作った方ですか?」


私は先ほどまでの咲耶姫様との会話を思い出してみる。

確か、「火の神に作ってもらったお気に入りなのだ」と言っていた。


んんん?

お気に入り?

もしかしてもしかする?

私の(あまり当てにならない)第六感がピーンと反応する。

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