02
望月葵(もちづきあおい)、二十一歳。
私は今、よく知らない山の中で迷子になっている。
まさか二十歳を超えて迷子になろうとは、一体誰が想像しただろう。
まあ、迷子というか、ただ単に途方に暮れているというか、とにかくものすごく困っている。
きっかけは彼氏とのケンカだ。
些細なことでケンカをした。
いや、些細なことか???
思い返せばかなり重要問題な事のような気がしてきた。
彼氏である
近くの大学の学祭に行った時、高志はその大学の学生で、模擬店で売り子をしていた。高志から声を掛けてくれて、それで懐かしいねなんて意気投合してちょこちょこ合うようになって、そのまま勢いで付き合い始めた感じだ。
けれど彼は四年制大学の学生。
私は二年制の専門学校を卒業して就職。
社会人になってすっかり学生気分の抜けた私とまだまだ学生の彼との間には、活動時間も考え方も最近ではすれ違いが生じていた。
それにつけてお互い休みの日が合わず、今日は久しぶりのデートだったのだ。
といっても私は休みではなかったので、仕事終わりに食事でもしようということになった。一応デートだし、それなりに可愛い服を着て久しぶりにスカートなんて履いてみたりしておしゃれにも気を遣った。食事しかしないけど、やっぱりデートとなると心がウキウキするものだ。
しかも今日は職場まで車で迎えに来てくれると言う。同僚に見られるのは恥ずかしい気がしたけれど、恋人がいますと宣言するみたいで少しばかり優越感に浸った。
たまにはおしゃれなレストランでもと提案したのに、高志はお金がないという理由で結局いつものファミレスに連れて行かれ、私は内心ガッカリした。それでも気を取り直してお互いの近況を話したり、たわいもないテレビ番組の話しなどして終始楽しく過ごし、今回もいつも通りのデートが終わろうとしていた。
もう夜も更けてきたので帰ろうとしたのだが、高志は突然無計画に夜景を見に行こうと言い出した。当然私は反対だ。
高志は休みなのか授業が朝からないのか知らないけれど、私は明日も仕事なのだ。
それも早番なので朝7時までに出勤しなくてはいけない。
「私明日も早番なのよ。」
「そんなの余裕だろ?」
渋る私と行く気満々の高志の間には、またもや温度差が開いた。
高志は私の仕事のことをこれっぽっちも理解しようとしない。
私は年中無休の花屋に勤めている。
土日も関係なくシフト制で、早番遅番勤務も週交代だ。まだ入社して一年、経験も浅いので仕入れなどはしていないが、それでも早番はある。開店前の業務は、仕入れた花が長く鮮度よく保てるように、水の管理や温度、それに湿度にも気をつけながら店内ディスプレイを行う等、それなりに忙しい。むしろ仕入れなど任されるようになったら、もっと朝が早くなる。
そういうことを高志に言っても、彼は「ふーん」と聞いているのかいないのか、はたまた興味がないだけなのか、次のときにはもう忘れている状態だ。それに私の仕事をバイト感覚で見ている傾向があり、その点も気に食わない。
そもそも普段デートで車なんて使わないのに、今日は親に借りた車でデートしたいだなんて言ってきた時点で、高志の中では夜景を見に行くことは決まっていたのかもしれない。それならそうと先に言ってくれれば、私だってちゃんと準備したのに。
夜景は魅力的ではあるけど、もっと計画性を持って行きたいし、明日は仕事で早出の私の事なんてお構い無しな行動に正直引く思いだった。
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