第56話 更に残されし者達

「そーか、これが殺意ってものなんだろーね」


 ウノは胸中で、ひとしきり悪態をついた後。棒読みで呟いていた。

 やる気いっぱいだ。いっしょにがんばろーね。


『できる限り、アンタの力は借りたくないなぁ。後で裏切ってきそうだし』


 そんなー。私は裏切ったりしないよ? 多分ね。

 ……けど困ったな。ウノから戦力外通告されちゃいそう。まーいっか。

 私は見学できるなら、それでいいし。

 何か用事があったら言ってねー。何でも手伝うよ!


『自分と積極的に戦いたがるって、なんなのさ』


 勝ち負けは、どーでもいいからかなー?

 対戦相手を募集して、遊んでるだけだよ。

 性能は違うけど、同キャラ対戦とかゴーストとの競争みたいなものかも!


『意味わかんないケド、何となく分かるのがヤダ。止められても別にいいんだね』


 理解が早くて、ありがたいな。

 成功しても失敗しても、思い切り遊べればリエルは全員満足するよ。

 ……でも、つまらない泣き落としなんかは絶対に通用しないから、注意してね?

 リエルもアヤトな部分も、地球とか別に壊れてもいいかもなーって思ってるよ。

 とゆーワケで、ウノの健闘を心の底から祈っているよー! ウノが救世主だー!


『タチが悪すぎる……あたしは負けないよ! 絶対ガツンとやってやる……っ!』


 熱意を燃やしてるウノと会話しながら、空をブーンと飛んでいく。

 雲を突き抜けてグングン飛んでたら、腕の中でもがいてるのが何か言い出した。


「ぐえぇ……っ。ウノさま、お腹が絞まりますぅっ……!」


 レーシュの腹に回している腕に、ウノがギュッと力を込めていたようだ。


「うわっ! ごめんなさいレーシュさん! つい、うっかり……おっとっと」


「もっと絞めてくださいませ!? 落ちてしまいます!」


 慌てて力を緩めて、体を落としそうになって悲鳴を上げさせたりしてる。

 変なマゾの人みたいになっちゃってるなー。

 うるさいだけなんだから、もっと絞めて、また昏倒させちゃえばいいのにー。


『この人にも聞きたい事がたくさんあるんだから、もう落とさないよ』


 大したことは知らないよ、その役立たずなオバさん。

 もー、意地を張らないで私に頼ればいいのになー。


 やんややんやと、腹の中と下を相手に会話するウノを上空に飛ばしていく。

 一面に雲海が見える大空まで辿り着くと、また下が騒がしくなった。


「ウノさま! あちらに向かって下さい! 残された大地がありますッ!」


「大地……? あぁ、切り落とされてた部分ですか。まだ浮かんでたんだ」


 レーシュが指差す先に、空に浮かんでいる変な物体が小さく見えた。

 オバさんに頼まれるのは嫌だけど、私は有能だから飛んであげるよー!

 ウノを無理やり前傾させて、急角度でブッ飛ばすぞー!


『推力全開ッ! よーそろー!』


『ちょ――!? あたしに制御させてよ――ッッ!!』


 ダメダメー! ここはプロにお任せだよー!

 ヘリの操縦は難しいからねー!!

 洋ゲーで慣れた……ゲフンゲフン。えーと、知識のある私にお任せだよー!


 ウノと下のヤツが何かを叫びだしたが、私には聴こえなかった。

 さながら夏の風に散らされていく薄雲のように、声がどこかへ運ばれていく……


『アンタ実は中身はアヤトだったりするんでしょ!? うさんくさすぎるーッ!』


 私は心の優しいリエルだってば。

 アヤトなワケないじゃなーい。やだなーウノちゃんはー。

 ケラケラ笑い飛ばしながら、羽根の回転を緩めて颯爽と大地に着地してあげた。

 ふふふ、これが普通のリエルなら、地面にぞりぞり擦りつけてるトコロだよー?


『くっ! どっちにしろ嫌な存在。なんとかしなきゃ』


 私のモノローグ読みにも慣れてきたウノが、地味な敵意をぶつけてくる。

 やだなー。ホントに味方のつもりなのになー。

 まー、切り札ポジションになるのも美味しいかもねー。


 ボンヤリと見守ってあげる事に決めたら、レーシュが何か泣き出した。ウザッ。


「ああ……! 私の大地がこんな有様に! 他は星の海へと還ったのですね……」


 大地に手をついて、天を見上げて泣く様子が非常に鬱陶しい。


「んっ……? レーシュさん。大地が今どこにあるのか分かるんですか?」


「はい、もちろんです。今はアヤトさまだったモノと同じ場所に在りますね。現在速度を上げながら、この世界から離れ続けております」


 はらはらと涙をこぼしながら語るレーシュに、ウノが冷静に詰問していく。


「そうですか。生きててよかった……いや、全然よくないね。倒さなきゃ。レーシュさん、ここはホントに土星だったりするんですか? 地球って分かります?」


「他世界の詳しい名称は分かりませんね? 我々は銀河に精神を飛ばして漂って、小惑星群の組成を調べた結果、偶然この理想的な場所に辿り着きましたので――」


「ちょっと待って! レーシュさんは何! 宇宙人なの!?」


「はぁ、魔術師ですが? 貴女の知識に相応する言葉で伝わっておりませんか?」


「魔術結社め……あたしに妙な宇宙知識を詰めてきたせいで変な翻訳に……ッ!」


 ウノが責任転嫁して悩んでいる。

 別にそいつの話なんて聞かなくてもいいでしょー? 変なウノだなー。

 その後も詳しく聞いてるウノたちの会話をかいつまんで聞いてみた。


「エッジワース・カイパーベルトまで弾き出されていた隕石の組成からー」とか、


「人工彗星に伴わせた、魂の紐の調査結果により~」とか混沌とした話をしてる。


 オカルトと科学が混じっちゃってるねー。話がグチャグチャだー。

 ウノが聞くのを諦め気味な表情になって、最後に宇宙方面でまとめてくれた。


「エート……他銀河世界から精神を飛ばした宇宙人が、偶然ガス惑星の内部で理想的な物体を発見。住環境を構築。その後、救助信号を他銀河に飛ばしたけど、全然来なかったから、戯れに太陽系内に飛ばしたらアヤトが引っかかったんですね?」


「そうですね。ありえない場所から信号が届いたので驚きました。それほど近い場所にも世界があったのですね! 物質として飛んでもすぐに辿り着けそうです!」


「うぅ……ヤバい。ホントに恒星間航行してリエルが襲来して来ちゃいそうだ」


 あー、それを確認したかったのかー。

 宇宙人から話を聞いて、情報をまとめようとするウノちゃんは狂ってるなー。


「加速し続けているようですし、数カ月もかからずに辿り着くかもしれませんね」


「保証されちゃったよ……どうしよう? とりあえず、地球に帰らなきゃ……」


 ふらつく頭を押さえながら、ウノが方針を固めてくれた。

 おっと、出番かなー? じゃー帰ろっかー。


『勝手に変なことするのヤメテ。ちゃんと会話しないと』


 えー、どうするのー? 私がやらないと帰れないよー?


『他にも方法あるでしょ。まったくもう』


 私に反論したウノが、またレーシュと話しだした。

 あれー、そいつに頼るのー?


「レーシュさん、すみません。あたし、一度急いで帰って色々と確認しないといけないんです。魂を元の場所に戻してくださいませんか?」


「あら? アヤトさまは何故か自由に転移なさっていたようなのですが。ウノさまはそうなさらないのですか?」


「あたしは外道な手段には、あまり頼りたくないんで……できませんかね?」


 レーシュが考えごとしてる。そいつは頼りにならないよー。やめておこうよー。


「まだ世界に蔓延る敵は数多おりますので、そちらの殲滅を頼みたかったのですが……最も頭を悩ませていた、宇宙より襲来してきた敵は排除できましたし、余裕はありますね。何故か魂の接続がゆるんでいるようですし、可能です!」


 何か人当たりが良くなってる。こんなヤツだっけコイツ。

 クソー! ウノにも幽体離脱を体験させたかったのになー!


『やっぱり悪魔だったか』


 良心からのお誘いだよ? ワタシは良いリエルダヨー。


「はいはい、と。ではレーシュさん。お願いします。まだ色々と聞きたいことがありますので、あたしは戻ってきますよ」


「ええ、そちらの世界も大変なようですし。無理には頼めませんからね。私も残った力をまとめて、どうにかこちらの防衛体制を強化しておきます!」


 レーシュが、むん! と拳に力を入れて、強く集中しだした。


 ――強く在りし勇敢なる者よ。導きと救いの加護を持って再び現世へ舞い戻れ!


 なんか変な事つぶやいてる。ウノー! きっと騙されてるよー!

 レーシュなんて信じないで私を信じてよー! ねーったらー!

 ぐわー! 魔法陣が来たー!? ウノの魂に便乗しなきゃ!

 私はウノから離れないぞー! 全てを見届ける天使なリエルだからねー!


『お祓いとかできないのかなぁ』


 ボソッとウノが呟くと同時に、視界の全てが光で満たされた。

 光速よりも速く移動した魂が元の肉体に乗り移り、意識を目覚めさせていく。

 ゲーム筐体の中で動き出すウノを、私は中から見つめることにした。


『まずは天文台にでも連絡する……? どうやって聞こう』


 ウノは現実的な事を考えている。その現実を破壊する時はすぐそこだ。

 きっと大変だろう。どう対応するんだろうなー、ウノは。

 ワクワクしながらその時を待った。


 筐体の扉を開いたウノは、むわっとする香を浴び、熱狂的な信者に襲撃された。


「首領! 我々にメッセージを与えてください! 新たな指針をどうぞ!」


『……忘れてた。この人たちが居たんだっけ』


 幻想を無理やりぶち込む連中に囲まれたウノは、酷く憂鬱な気分になっていた。

 笑顔が眩しい外人さんたちなのになー。ほら、ウノも笑おうよー! わははー!

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