第55話 残されし者たち
砂塵と気流で荒らし尽くされた地上に、ウノが残された。
空の彼方まで続く、長大な飛行機雲を眺めて額を押さえてる。
「うわぁぁ……もう、なんなの? あたしは、どうすればよかったの……」
小さな体に付いた砂や土ぼこりを払って、途方に暮れてしまっている。
うんざりとした様子で周囲を見回して、土で汚れきったヤツに駆け寄った。
「レーシュさん、土でグチャグチャになっちゃった。せめて整えてあげよう」
気絶しっぱなしで、その辺の地面を転げまわってた愉快なヤツに構いはじめた。
軽く地面が沈んだ平原の近くで、汚れた金髪に紛れた砂を取りながら悩んでる。
『この先どうしよう?』とか『あの変なの、空の先で死んじゃってないかな?』
なんて心配しつつ、丁寧にお掃除して構ってあげている。
暇だからバサバサと羽を動かしてみたりしたが、こっちには気づいてくれない。
どーしよーかなー?
「もう……レーシュさんからも、ちゃんと話を聞いてから行けばいいのに……」
なんかブツブツ言ってる。ストレスでも溜まってるのかなー。
大変だなー。この先も、もっと大変だろうなー。がんばってほしいなー。
テキトーにウノを応援しながら、本体から託された使命を果たすために居座る。
そのうち気づいてくれるだろう。面倒だから、放置しておこう。
まだ出番ではなさそうだしねー。
「うっ、ううぅぅ……っ? ここは、いったい……?」
「気が付きましたか、レーシュさん。ここは……あれ? どこなんだろう?」
ぼうっとしながら起きたヤツに、ウノがちょっと悩みながら答えてる。
ここは地上でいいと思うよー。そいつなら自力で把握できるよ。きっと。
ウノは優しく体を支えてやりながら、言い聞かせるように教えた。
「ここは空から落ちた所の、地上の平原です。分かりますか、レーシュさん」
「あっ、はい……それは分かりましたが。なぜ? どうしてこんな場所に?」
「それはですね――」
うわー! 説明だー! 長いよー!
すごく丁寧。細かな事も教えてる。
首を絞めたのを教えた所で怯えられてたけど、全部伝えたら慌てられてた。
「それは……ッ!? 確認しなくては! ウノさま、私を上に運んでください!」
「はぁ、それは構いませんケド。この羽でいけるかな。大変かも……あれ?」
後ろからレーシュの腹を持って、空に運ぶ体勢になったウノが首を捻った。
背中に生えてた羽が動かなくなってて、不思議そう。
別にウノが動かしてたワケじゃないからねー。
よーし、出番だー! 私に任せてー! それじゃあ制限なしで飛んでみよー!
偽装を放棄した私は、変なビジュアルの羽を捨てて変形する。
上空への推進力に特化した回転翼。ウノの体を中心にしたプロペラになるぞー!
以前に見たヘリの羽根とトルクを模倣して、思いっきりブン回してみた。
「は? は? は?」
一語しか言えなくなってしまったウノの体を横に倒して、ビュンビュン回る。
リエルの趣味を捨てて、知識を託された私が作成し直した、理想の形態。
頭に付けた方がいいという変な知識もあったけど、多分これが一番楽だと思う。
「なにこれ、なんなの? ……ッ! まさか、これは……っ!?」
バタバタと音を鳴らして急上昇していく間に、ウノは理解してくれたみたい。
腕の中で、もがいているヤツを無視して、目を閉じて集中しはじめている。
勝手に体が空を飛んでるのに、冷静になれるウノはやっぱりおかしいなー。
『これはねー! 空を自由に飛べる翼だよー!』
ウノにも分かりやすいように、大きな声で呼びかけてあげた。
『リエルー!? まだあたしの中に残ってたのー!?』
『私はリエル3号だよー! ウノの中に残されちゃったよー! 悲しいねー!』
ビックリしているウノに、自己紹介する。挨拶は大事だよね?
『また増えた……分裂したのかな。あたしをどうするつもり?』
『怖がらないでー! 私は味方だよー! ウノに残された最後の希望になるよー』
『なに考えてたの、アイツ……? ああ、地球に戻してくれるために残ったの? なんて、そんなワケないよね。何を企んでるんだろう。洗脳用かな……』
まるで信用されてないみたい。酷いなー。
本体だったリエルの思惑を教えてあげないと。
こう言えばいいんだっけ。
『リエルから伝言が残されてるから聴いててね? えっとねー……
ラスボス戦が消化不良だったので、俺が真のラスボス役をしてみます。
ウノちゃんは真の勇者さま役な? 仲間として俺の一部を用意してみました。
これから地球に向かって体当たりを敢行してみるから、がんばって防いでくれ。
出来る限り速い隕石になって、地球の危機を演出してみようと思う。
最大速度でぶつかれば、きっと地球の皆さんも大いに嘆いてくれるハズ。
ウノちゃんは俺の野望を打ち砕いてみて欲しい。そいつと一緒にがんばれー!
……以上だよー。分かったー? 一緒にリエルの野望を打ち砕こー!』
知識と良心を託された私は、ウノにエールを送った。
私も本体に期待されている。面倒だけど楽しむために、がんばらねば!
決意を新たにしていると、ウノがプルプルと震えはじめた。高所恐怖症かなー?
「あの、あの……っ!! ああぁぁぁァァァア"ア"ア"ア"――ッ!!」
わー、大変だー。雄たけびを上げてる。気合い十分だねー。私もがんばろー!
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