第53話 カーテンコール
隕石が地表に衝突した事により、巨大な衝撃波が発生する。
国が消滅し、舞い上がった粉塵が大量にバラ撒かれて、空が暗雲に閉ざされた。
大災害に包まれる大陸を見送った俺たちは、笑顔でこの世界から去った――完。
「レーシュさん起きて! 早く起きて何とかしてっ!」
脳内でナレーションを流したのに、ウノさんが無視してくる。悲しいなー!
気絶してるレーシュをガクガクと揺さぶって、非常に慌てているようだ。
この場で最初に寝てるヤツを頼りにするのー? 酷くないかなー、ウノさーん。
多分、制御するのとかは不可能だぜー。勝手に動いてるっぽいし。
爽やかにゲラゲラ笑いながら降下する、黒い草原が狂気を煽ってくれそうだ。
この光景をレーシュが見たら暴れだすだけで、全く役に立たないと思うよ。
世界が終わるまで寝かせておいてやろうぜ? せめてもの慈悲だ。
「じゃあリエル! この大地をバラバラにしてよ! 砕いちゃえばいいんだよ!」
それも無理だな。リエルは今、とても楽しんでいるよー?
「イヤー! これ早くて楽しいよー! もっと加速させちゃおっかー!?」
「やめてよリエル!? 世界が壊れちゃってもいいの!?」
「え? うん、いいんじゃないかなー? これから他の所に行くんだよねー?」
リエルはどうでもよさそうだ。むしろ崩壊させたい気分にもなってそう。
この世界に、愛着も何もないしねー。
ちょっと壊れても、また作り直せばいいんじゃないかなー? とか思ってるよ。
「なんで冷静に解説してるのアヤト!? なら、あたしがやるよ!」
アヤトも、この大地の行く末を祝福しちゃったしねー。
……あー、ゴメンゴメン。怒らないでよウノさん。無言の殺意はやめて。
だがまー、マジメな話、ウノさんにも無理だぞ?
ちょっと強い人間ってぐらいだからな、この体。硬いのだけが特長だ。
岩の塊を押したりするような出力は無いから、大したことはできねぇよ。
「でも、風を使ってどうにかしたりできるでしょ?」
無理無理。こんな大質量を俺がどうにかするのは無理だって。
だいぶ加速もついたようだしな。地上まで、もうすぐだろう。
「それなら……あたしの体をリエルみたいに強くして!」
あー、それなら、もしかしたら何とか出来るかもな?
でもな、時間が無いぞ?
リエル第三形態みたいになるためには、それなりの時間が必要なハズだ。
お遊びのミニサイズならすぐに出来るが、全身改造すると時間がかかりすぎる。
落下後に完成する予定でいいなら、やってあげよっかー?
「つまり、打つ手が無いってコト……?」
ようやく納得してくれたか、ウノさん。
そうだな。出来る事はないから、世界の終わりを楽しく見ておこう。
そろそろ、空に飛んで退避しておこっか?
リエルも翼を空打ちして、いまにも羽ばたこうとしてるよー。
綺麗な花火が見れそうだね。とても、楽しみ。
「待って! 待ってよリエルッ!」
「何するのウノー? ここにいると危ないよ? 早く逃げたほうがいいよー?」
飛び立とうとする足を、ウノさんに掴まれたリエルが迷惑してる。
どうしたの、ウノ? どうしようもないよ? 早く一緒に逃げようよー。
「リエルを説得してよアヤト! それしか方法はないよ!?」
いい所を突いてきたな? でも、それは無理だよー。
一応、やってみようか?
雑に口を作って、アヤトの声で呼びかけてやる。
「リエルー? この大地を押し戻したりできねーかー?」
「えー? できるかもしれないけどー……やりたくないよー!」
「だよなー! 早いのが最優先だもんなー!」
「そうだよー! ウノの言葉より、私を優先してくれるよね? 約束だもんね?」
俺の言葉を聞いたリエルが、あやしく瞳を輝かせてくれた。
うん、無理だな。お願いを聞く約束だもんなー! しゃあねえよなー!
「……え? ホントに、無理なの?」
「イエスだねー!」
「放置しよー!」
ウノさんの頼みより、リエルを優先しないとねー!
草と大地の笑い声が響く愉快な草原で、ウノの瞳が曇りだす。
『アヤトもリエルも頼れないの……? あたしは、無力だ……』
やっと、ウノが完全に理解してくれた。心地良い嘆きが伝わってくる。
不吉な風の音と下品な笑い声が聞こえる場所で、ウノが静かに絶望してくれた。
あははははははー! 美味しいねー!
……無関係な世界で、こんなにも素敵な感情を撒き散らしてくれる。
だから、今回はウノちゃんを助けてあげようかなー、という気分になった。
じゅうぶん、遊んだしな?
「え? アヤト……?」
ウノちゃんの背中に空を飛べる羽を作って、体から離脱する。
白い天使の羽を体に残しておいてやった。
クソダサいが、きっと似合うだろう。
レーシュを持って、がんばって飛んで逃げてくれよなー。
心の中で言付けを残して、俺はリエルの姿になって腹から完全に分裂を終えた。
さぁ私も口先だけで、がんばろっかー!
「おーい、私ー! この大地、ちょっと止めるよー!」
軽く羽ばたいて、俺と同じ顔をしているリエルに近寄った。
「えー? なんでー? 分かってるでしょー? 絶対に嫌ー!」
リエルが困惑しながらも話を聞いてくれている。これなら余裕だな。
「全部理解してるよー? だから、命令するよ。私の言う事を聞けよ、リエル」
「なに言ってるの? 私の優先順位を上にして。約束、覚えてるよね……?」
とても良く覚えている。何か面白い事でも言ってくれるのかなー?
と思って、雑談してる時に聞いてみた、非常にツマラナイ頼み事の約束だ。
聞くだけにして約束は破ろうかなー! と思っていた空約束でもあるな。
まぁリエルも悪用してるし、私も悪用してみるとしよう。
「そうだねー。約束したよねー……それ、誰とした約束?」
「んー? アヤトとした約束でしょー?」
とぼけてるのかなー? 全然違うでしょー?
「あれは、俺とした約束だよー。忘れたのかなー?」
「えーっと……? どういうことー? だから、それは俺でしょ?」
「そうだよ? 俺だよー。あってるでしょー!?」
言葉を聞いたリエルが、混乱してる。
近くで聞いてるウノも大混乱してる。
「ええええぇぇ……ムチャクチャ言ってるよ。もしかして、騙すつもり……」
しゃらーっぷ! リエルはアホなんだから、これで騙せるだろ! きっと!
「あれ……? そうだねー? あれは一緒になったリエルとした約束だから……」
効果は抜群だ! もうひと声いこー!
リエルに仕込んでおいた毒も使ってみよー!
「だよねー! それに、アヤトは今、どこにいるの? よく感じてみてー」
「それは私の中にいるから……? うん、そうだね? いまは私が俺だよねー?」
俺の魂は、リエルの中に一緒においてある。
ついでにミニアヤトも投入してやったから、実質コイツがアヤトだ!
理論は完璧だな! わははー!
「リエルの顔をした詐欺師がいる……絶対あっちがアヤトじゃん……」
外野がうるさいし、時間もないからサクサクいこー!
「わかった? 早くするよりも、私を優先してねー! 約束した私が上だよー!」
「えっとー? わかった! 私を優先するよー! でも、早くしたいなー……」
リエルがちょっと悲しそう。大丈夫だよー。
一緒だからね……それも当然、優先するよ。
「今は私に任せてー、さぁ融合するよー!」
ずぶずぶとリエルの体の中へと入っていく。
黒く大きく育った体に全てが混ざりだし、意識が実によく馴染んでいく。
ふふっ、ふはははは! そうだ、俺はリエルだ! リエルは私だ!
そして、この意識こそがリエルの中で最上位!
手足が自由に動かせてしまう。翼も尻尾も思いのままだ!
強靭な力パワーが満載された、ストロングなリエルさんの誕生だー!
『わー、楽しそー! よかったねー!』
中にいるリエルさんも、俺の意識を祝福してくれているぞー!
もっと喜んでくれよー! この体は、俺様のモノだー!
完全格付け完了ー! 俺様最強ー! 適当読みの暴言ブッパで勝利余裕ー!
リエルさん対戦あざーっしたー! ヒャァーッ! ハッハッハー!
「病気みたいに笑ってないで、早くこの大地を止めてよ、リエルーっ!」
ああハイ、そうでした。
もー、ウノちゃんはリエル使いが荒いなー。
「いまから止めに行くから、ウノちゃんも飛んで逃げておいてねー!」
ウノちゃんが頷き、ヒーヒー言いながらレーシュを持って羽ばたいていく。
飲んだくれの女を抱えた、雑用係の天使って感じになっちゃったなー。
ビジュアルのわりに、どっちも幸が薄そう。
観察して優しい気分になりながら、ビューンと飛んで即座に大地の底へ向かう。
大岩のような地の裏側には、やたらデカくて黒い顔面が張り付いていた。
ギョロリとキモイ目を歪ませて、リエルを歓迎してくれている。
「うわっ、キモっ。やる気が失せたわー。リエルさーん。後は任せたよー」
嫌なラスボスだわー。集合体とか、そんな雑な名前が付けられてそうな感じ。
会話できない敵はダメだな。なんかキモく笑ってるが、興味が持てないや。
後はお願いしますねー。俺の中の人ー。
『えー? やっちゃっていいのかなー? 壊せばいいのー?』
「駄目だよー。出来れば優しく速度を落として、止めてあげてー」
バラバラに砕け散っても処理が面倒だし、落下したら被害が大きそうだ。
テキトーに、流れで軽く受け止めてやってくださーい。
さいきょーなリエルさんなら余裕でしょー?
『そういうの苦手なんだけどなー。しょうがないなー』
俺の魂胆をわかってくれたリエルさんが、仕方なく俺の指示に従ってくれた。
両手を前に突き出して、大地全体を押し流す勢いの風の渦を発生させていく。
体から湧き出る力に身を任せて……というか全部中の人に任せて風速を上げる。
『めんどくさーい! 一気にやって、バーン! と潰したーい!』
こらこら、およしなさいな、リエルさんや。敵さんが可哀そうですよ。
リエルをなだめてやりながら、大地の降下に付き合って落下していく。
雲居に風をなびかせて、減速しながら落下するという微妙すぎる体験を行う。
上空に気流を吹き付けてやりながら、徐々に、徐々に平原に向かって降下する。
怯えたような顔つきになってるように見える、大地の黒い顔を見ながら落ちた。
吹き上げすぎて逆に浮かび上がる大地を押さえつつ、ゆっくり地面に着地する。
『やっと落ちたー! もうヤダー! もっと早く落としてあげたかったー!』
……フラストレーションを溜める、リエルの心理の方が心配な危機だったな。
うおー! って感じで、リエルさんが落ちた大地の近くで腕を振り上げている。
八つ当たり気味に吹き上げられた土が空に舞い、柔らかな粉塵を流していった。
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