第47話 とある少女の最終形態

 ウノちゃんには、リエルが考えていたことを大体伝えてやった。

 そしたら急に、壁に体を預けて座り込んで、頭を抱えだした。

 どうしたんだ、ウノちゃん?


「もう手に負えないよ……アヤトはどうしたいの……? リエルを放置するの?」


 手の中に捕まえられてる俺に聞かれてもなー?

 俺がどうしたいかだと……? 俺がしたい事か。


「どうでもいいぞー。死体じゃなくなったから、どうとでもなりそうだしな!」


 正直に言ったら、頭を指で締め付けられて、グリグリと攻撃されてしまった。

 うわー! いたいよー!

 やめてくださいウノちゃん。死んでしまいます。


「もう! 分かった! 何も考えてないんだね!? あたしがやらなきゃ……!」


 ウノちゃんが気炎をあげて立ち上がった。

 謎の使命感に燃えているようだ。


「おー、何かやるのかウノちゃん? 面白そうなことなら手伝うぞー?」


「それでやる気を出しちゃうんだ……? じゃあ話の整理ついでに聞いておいて」


 現状の問題点を、ウノちゃんが説明してくださった。

 リエルを放置したら、レーシュが殺されるついでに世界が崩壊するらしい。

 へぇ、なんで?


「レーシュって多分……昔、ここに来た元魔術師とかだよね? そんなに神っぽくないし、出来る事が転移と結界ぐらいだし」


「そうだねー。ボケてるだけの、ただの人みたいなもんじゃねーかなー」


 少なくとも、全知全能の神様ではねーなー。

 近所にいる、うるさいオバさんって感じだな?


「黒いのが人間の魂でレーシュと争ってるんだから、魔術関係者かもって思うんだ。リエルがおばさん扱いしてるのも、本当に親類だからかも……?」


 料理を平らげてるリエルを遠目に見ながら、ウノちゃんがヒソヒソ話してくる。


 あぁ、はいはい。そんな設定があったな。

 お父さんが黒いのらしいから、そんな感じかもな?

 それが産みの親なのか、育ての親なのかも知らんし、どうでもいい気がするが。


「そういう弱い神様だったら、簡単に殺されそうだよね。で、リエルがしたいのは、レーシュの排除と結界の解除だと思うよ。そしたら、宇宙から来る魂と中にいる魔物でメチャクチャになるから、この世界が酷い事になるよ。止めなきゃ……」


 へー、リエルはそれがしたかったのかー。ホントにー?

 宇宙に出るのも邪魔してきそうだから、多分、間違いないって? そっかー。

 でも、別にいいんじゃねえかなー。レーシュとかどうでもいいし。

 アイツは世界を楽しくしたいだけだから、放置してもいい気がするんだよなー。


 そんな感じで気の無いそぶりを見せていると、変な呟きが聞こえてきた。


「アヤトは普通に説得しても止める気はないか……だったら……」


 悩んだ様子を見せていたウノちゃんが、ボソリと告げてきた。


「リエルが世界最強の敵だよ。野望を阻んで遊んでみない?」


「……なるほど。ラスボスってやつだな?」


「そう。倒さないと、アヤトはリエルの下の立場って事になる。それでいいの?」


「ほうほう。そりゃイラっとくるなー。立場は教えてやらんとなー?」


 そうだな。言われてみると、ずっと弄られ続けてただけだからな。

 一度は対戦に勝利して、マウントをとってやらなければ……!


「こんな理由でいいんだ……扱いやすいなぁ」


 拳を握りしめて闘志を燃やしていたら、ウノちゃんに何か言われた気がした。


「なにか言ったー?」


「扱いやすいレーシュさんからも、事情を詳しく聞いてみようかなって言ったよ」


 ウノちゃんが、とびきりのアルカイック・スマイルを見せてくれた。

 穏やかな笑顔だ、何かを悟ったのだろうか……? 


「リエルを足止めして、話を聞きに行きたいんだけど、何か案は無い?」


 俺が頼りにされているようだ。

 そんな案は……簡単だな。リエルの事は俺が一番良く知っているぞ!


「任せてウノちゃん! ちょっと手を離してねー」


 俺の体を握る手を離したウノちゃんが、小さく手を振ってくれた。

 期待に応えなければ……!

 ふよふよとメシを喰ってるリエルの所に飛んで行って、声をかけた。


「ヘーイ! 私! もっと体をおっきくしたいんだー! ちょっとちょうだい!」


「おっきくしたいのー? わかったー! 持っていっていいよー! 俺ー!」


 いぇーい! とリエル同士でハイタッチして、この体をリエルに埋まらせる。


「ちょっ……なにしてるのアヤト!?」


 ウノちゃんが何か言ってるが、正攻法でいくのが一番だって。

 コイツを無力化させちまえば、俺の上位は揺るがないだろう。

 リエルを吸い尽くして、体を大きくしてマウントをとろう。それで解決だ!


 と思ったが……うぅん。どうも上手くいかないなー。


「体をイメージしないと難しいよー? がんばってー、俺ー!」


 なるほどなー。なかなか難しいなー?

 しかし、簡単なイメージでも無理だったのだが、どういうことだろう。


「その体をイメージしてみたんだけど、ダメだったよー?」


「そんなに渡したら、意味ないよー? それとも、わたしの中に戻るのー?」


 チッ……リエルの主導権は渡さないつもりか。

 体を大量に奪い取るのは嫌がられているようだ。

 私が中で止めているようだな?


 どういう訳か、私の方が体の支配率が高いらしい。なぜだろうなー……?

 しょうがないから妥協して、あの体になれる量だけ頂こう。


 リエルの大きな翼を狙って、この小さな体に取り込んでいく。

 メキメキと体が大きく育ち、俺の体がリエルさん第二形態に移行していく。

 翼や尻尾が長く伸びて、体がウノちゃんサイズまで成長した。

 ……どうにか成功したようだ。


 黒々とした、相手のリエルの巨翼が無くなり、ちょっと体もしぼんだ様子。

 これでコイツは、しばらく飛ぶことができないだろう。


「ありがとうねー! 私ー! マズい料理を食べて、体を戻しておいてねー!」


「わかったー! いっぱい食べるよ、わたしー! またおっきく強くなるよー!」


 リエル同士でエールを送りあい、ウノちゃんの元にスタスタと歩いて戻る。

 困惑顔をしている、その他の連中を無視して成果を報告した。


「これでどうよー? メシを喰い終えるまでは、完璧に足止めできそうだぞ」


「もう……なんでもいいけどね。じゃあ、ここから離れよう……こっそりね……」


 静かに微笑んだウノちゃんは兵どもに、

「食事を与えて時間を稼いでください」と頼んで、離れていく。

 なんか普通に了解されてるが、なんでウノちゃんは信頼されてるんだろう……?


 俺はペチペチと尻尾を振り回しながら、堂々とウノちゃんに付いて行ってみた。

 離れて行く俺に気付いた私が、声をかけてくる。


「あれー? どこ行くのー?」 


「トイレだよー! 見晴らしの良いところで出してくるよー!」


「えー? そんな部分作ったの……? まぁいいやー、いってらっしゃーい!」


 ニコニコとリエル同士で手を振りあって離れた。

 口元は笑ってるのに、目が笑っていないウノちゃんが、俺を待ち構えている……


「あたしの話、聞いてなかったの?」


「聞いてたけど、問題ないよー? 余裕だって。心配し過ぎだよー、ウノちゃん」


「くっ……微妙にコントロールできない……」


 ウノちゃんがうなだれて、張り付いた笑顔が崩れてしまった。

 うん、元気そうで結構だ。


「それで、どうするのー?」


「レーシュの所に行こうと思うんだけど、どうしよう……流石に警戒されてるかも。アヤトがいろいろやってた時に、怪しまれてるよね……」


 んー? ふたりで行く方法が思い浮かばないのかな?

 とても簡単な話だろうに。

 ウノちゃんに関しては、そんなに警戒されてはいないだろう。きっと。

 だから、こうしよう。


 そっと、ウノちゃんに腕を伸ばして抱き寄せる。小さく体が震えるのを感じた。


「えっ? なに? どうしたの、アヤト……?」


「ええっと、こーすれば入れるのかなー……」


 リエルから分離した時に、ついでに付いてきていた融合する知識を実践する。

 ズブズブとウノちゃんの体にリエルの体を埋めていき、合体した。

 思うは、一度だけ見た少女の成長した肉体。手足を伸ばした大人な形態だ!


「わぁぁっ! またコレ!?」


 ウノちゃんは、成長した体に喜んでいるようだ。

 体が打ち震えているのを、ウノちゃんの中のよく分からない場所で感じた。


 いや……もうこれは完全にウノさんだな。実年齢通りの姿というトコロか。

 スポーティな服が似合うオトナな女の子だ。

 リーチが伸びていて、すごく強そう。

 良いスタイルになるように、俺が育ててやった。

 そして、俺もウノさんになった!


『これで問題ないねー! じゃあレーシュに呼びかけてみてー!』


「うわぁ、気持ち悪い……もう、リエルっぽく喋るのやめようよー……」


 ウノさんは俺の声が不満そう。

 ブツブツ呟きながら、レーシュに呼びかけている。

 いろいろ苦労してるんだけどなー。まぁ、リエルの知識をパクっただけだが。


 魂も弄れそうだが、そんなことをしなくても周囲が把握できる。

 俺はウノさんの一部になっているからな。五感を共有できている。

 頭の中に入ってくる声まで、ちゃんと聞こえてきた。


 ――あなたはウノさま? 地上の敵は……アヤトさまは、どうなりました?


 すげぇ不審そうなレーシュの声だ。

 アヤトは敵と相打ちになって、死んだと伝えればいいんじゃないかなー。

 大体あってる気がするし、これでいこうよ、ウノさん。

 と、意思を伝えてみたが、ガン無視された。なんでー?


「レーシュさん、あなたに危機が迫ってるんです。これから事情を話します。だから、あたしを信じて、そちらまで転移させてください。お願いします!」


 えー、そんな真剣に言う必要ねーだろー。もっと適当に言いくるめよーぜー。

 そんな愚痴を伝えてやる前に、パッと魔法陣が迫ってきた。

 あれー? もう信じたのー? レーシュさんチョロいなー。

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