第46話 全てはその手の中に

 本当に祝勝会はする予定だったらしく、多数の料理がすぐ牢内に運ばれてきた。

 王城から運んできたとか……いや、なんでわざわざここに運ばせた?

 まぁいいか。ここが俺のスイートルームだからな。

 みんながチヤホヤしながら酒を注いでくれるし、満足してやろう。

 ガバガバ酒を飲んで笑っていると皆が頭を抱えだしたが、どうしたのだろうか。


「宴はこれからだぞー、みんなも飲もー!」


 リエルは飲んだ後に、落ち込む様子を見せてくれる連中を眺めて喜んでいる。

 とても美味しそうに、いつもの感情も食べてらっしゃる。趣味が悪いなー。


「体は何ともないの? 暴れだしたくなったりしてない?」


 ウノちゃんが熱心に俺たちの事を観察しながら聞いてきた。

 そんなに心配する事ないのになー。俺たちは正常だぞー。


「俺はそんなに酒癖悪くねぇぞ? ……あぁ、リエルが大丈夫なのかは知らんが」


「暴れたりしないよー? でも、食べ終わったら運動しようねー!」


「おいおい、酔いが回るぞー。大丈夫なのかー? まぁいいやー付き合うぜー!」


「わーい! 行き先は任せてねー!」


 体が真っ黒に染まっても、内面が全く変わっていないリエルと楽しく会話する。

 行き先かー。どこに行くつもりなんだろうなー? まぁいっかー。

 そうして普通に過ごす俺たちを見たウノちゃんが、少し毒気を抜いてくれた。


「おとなしいみたいだし、もう警戒しなくても大丈夫なのかも……?」


「いや……何が効くのか試しておきたい。秘蔵の薬も持ってこよう」


 オッサンが調味料だとか言って、厳重に封がされてるツボを持ち込んできた。

 秘蔵のタレってやつなのだろうか。

 続々と他の兵士も運びこんでくる……ウノちゃんが、ちょっと引き気味だ。


 慌てて運んだせいで、転んで俺にぶつけそうになった赤毛のドジっ子もいた。

 うっかりさんだねー。柔らかく風で受け止めたら舌打ちされた。ツンデレだな?


 給仕も個性的でいいが、料理も異世界感があふれた状況になってきて楽しい。

 ヤバいぐらいに多色のソースをかけまくってくれた、異形の料理の山だ。


 とんでもなく臭い匂いがする、ゼリー状の料理も運ばれてきたな?

 ……何だこの気持ち悪い料理は。ヘビの一部でも入ってるのか。

 どこかで見た覚えもするが、なんだったかなー。

 試しに喰ってみたら、非常にマズくて美味かった……?


「おいしーねー! 体の材料になりそー!」


 リエルさんだけが、美味しく食べている……俺はダメだ! 生臭い!

 感覚切ってくれ! これ食いたくねぇよ! クソマズい! 頼むリエエエル!!


『えー? しょーがないなー……あーして、こーして、そーしてねー!』


 必死で頼んだら、渋々と何かを教えてくれた。いや分からねえよ……?

 ああ、はい。考えてる事を把握して、俺が実行しろって事っすね。

 大体伝わってきてしまった。


 これは……体の分離方法かな。

 体の一部を切り離して、感覚を移す方法だった。

 俺の意識を、別の体に移動させろって事らしい。

 ちょっと前のリエルがやってた事だな? 無茶ぶりしてくるなー。


 だが、何となく分かった。

 はじめて本気になって、伝えられた知識の理解を深めていく。

 自分の左手に意識を集中させて、感覚の全てがそこにあると断定する。

 危機的状況の中で、俺はこの手の中にいるのだと真剣に考えていく。

 そして、内部から爪でぶった斬って、リエルの体から左手を切り離した。


 こんな臭いものを食ってる体になんていられるか! 俺は別の体に逃げるぞ!


「……!? 毒が効いたっ!?」


 ゴトリと落ちた手を見たギャラリーが、なにか騒いでいる。

 早く体を作ろう。動けねぇ。グネグネと手を改造させていって変身する。

 俺が最も想像しやすい体を、想像力の翼を広げて作り上げていく。

 震える手が形を変えて、俺の魂に合った新しい体を作成する。

 ……この体の大きさに相応しい姿は、やはりこれだな!


「リエル2号の完成だよー!」


 小さいエセ精霊さんの姿に、変形完了したぞー!

 わーい! 魂で慣れた肉体を手に入れたよー! と叫び、牢内を飛び回る。

 飛び回る俺の姿を見た連中が、引き気味のリアクションをとってくれた。


「えええぇぇ……リエルが増えた……? どっちが本物なの……?」


 気になるなら、答えてやるとしよう。


「どっちも本物だぞー。ちょっと体から逃げただけだ。アレが臭くてたまらねー」


「……ああ、リエルのおかーさん料理? 本当に食べちゃってるんだ」


 もぐもぐと喰い続けるリエル1号を見て、ウノちゃんが悲しげに呟いている。

 お母さんはねー、娘の血となり肉となってるんだよ……?

 そんな妄言を言ってみようかと思ったが、実際に血肉になってるようだ。

 1号の無くなっていた左手が、食事すると同時に、徐々に形成されていった。


「うーむ。俺が体に戻る時には、リエルがデカくなったりしちまうんだろうか?」


「そんなこと聞かれても困るよ。小さいリエル……何て呼べばいいか迷うなぁ。アヤトでいい? メチャクチャしてたけど、体が手に入ったって事だよね?」


 体……? あー、そんな目的で来たんだっけ……?

 そうそう、これが俺の体だったよなー。便利な体を手に入れたぜー。


「そうだよ。これで任務完了だな? 後は帰って、めでたしめでたしだなー」


「……うん、帰れればいいとは思うんだけどね、アヤト。どう帰るつもりなの?」


 ウノちゃんが、よく分からない事を聞いてきた。

 もう物忘れしたのかな? 宇宙がどうこうとか変な話をしたばかりじゃねえか。

 首を傾げていると、ウノちゃんが持ち込んだメモ帳をめくりながら言ってきた。


「意味不明な口と会話してると頭がおかしくなりそうだったから、顔を見て話したかったんだけど……問題だらけだよ? まず、レーシュをどうするつもりなの?」


 レーシュを……? あの影の薄いヤツがどうしたと言うんだ。

 よく分からないが、問題なんてねぇよ。リエルさんにお任せで大丈夫だ。

 ウノちゃんにも伝えて、安心させてやるとするか!


「リエルがきっと、全部何とかしてくれるぞ。神になってくれるそうだからな!」


「待って。あたし、もう聞きたくない気がするケド……その話、詳しく教えて?」


 頭痛が痛いみたいな顔をしたウノちゃんが、俺の体を捕まえて聞いてきた。

 わー! つかまっちゃったー! と騒いだが、きつく強く握りしめてくる……

 マジで痛いよ、ウノちゃん? 声がでねぇ。

 話すから、握りつぶすのはよしてくれ。何で手が微妙に震えてんだよ。怖いぞ。

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