第45話 密室殺害計画

 俺は、今すぐ東京湾にでも沈められそうな姿にさせられて、捕まってしまった。


 ちょっと力を入れたら鎖が千切れそうになったから、色々と追加で繋がれてる。

 鉄球をモリモリ装備させられた上に、体を水樽の中に入れられてしまったぞ。

 なにこのタル? なんでこんなのあるの? 拷問用? 俺ゴーモンされるのー?


 薄暗い牢屋の中で、俺は大変な危機にあってしまっているようだ。

 石壁に書かれた正の字の山が、ここがとんでもない場所だと教えてくれている。


 なんてこった。過去に日本人も捕まって悲劇にあってしまっていたようだ!

 きっと異世界転移した人間を捕まえて殺す、キチクな世界なんだー!

 ウノちゃん気をつけてー、キミは騙されてるんだよー!


 とか言って遊びたかったが、口を塞がれたせいで喋れない。

 見覚えのある連中が俺を囲み、渋い顔をするのを見て楽しむしかなさそうだ。


「みんな気をつけて! 何をしてくるか分からないよ! 十分注意してっ!」


 ウノちゃんが、みんなを騙してるパターンだったかー。困ったなー。

 どやどやと集まってきてる兵士たちに、率先して警戒するように伝えてる。

 俺が暴れ出すかもしれないから注意してー! とか言ってるぞ。なんでさ。


「何かあるかと思い、牢に彫像を運んでいたのは正解だったか……」


「ありがとうございます、フォルクさん。武器も持ってきてください!」


「こんなこともあろうかと、対人戦が得意な連中も集めている。抜かりはない」


 あれー? 俺に恩がありそうな連中が、殺意を漲らせて見張ってくるなー?

 俺って救世主とかじゃなかったっけ? 何故こんな扱いをされてるんだろう……

 みんなが俺の周囲に集まって、武器を突き付けて注目してくる。

 危機一髪ゲームかな? そのていどの武器が、この体に刺さるかなー!?


「復活した化け物め……死になさい……ッ!」


 変なヤツが、俺の頭をチクチクとレイピアで刺してきた。地味にくすぐったい。

 自由に動く首を使って頭突きで対抗したら、細く輝く刃が折れてしまった。


「リヒトヴァイン家の家宝がぁぁぁっ!?」


 女が伏して叫んで、嘆いてる……急に何なんだよ。

 豪華な武器だったが、知らんがな。美味しいけどねー。


 見学してる皆もザワついてしまった。

 サッと武器を引っ込めてる男も見える。

 ふははー、抵抗は無駄だー! 人間の武器でこの体に勝てると思うなー!


 ウノちゃんだけは冷静に「打撃のほうがいいかな……?」とか呟いていた。

 なんでそんなに殴りたがるんだ。俺は無実だぞ。友達だろー? 信じてー?


 ……がんばって警戒してくれてるが、この状況でも余裕で脱出できそうだなー。

 拘束も壊そうと思えば壊せそうだけど、捕まってるフリをしておこうか。

 少しずつ力をいれると、皆が引きつった顔を見せてくれるのが楽しいからねー。


 ただ、喋れないのはちょっと面倒だ。

 モゴモゴと苦しげに口を動かしてみたら、ウノちゃんが布を取ってくれた。

 よぅし、いまにも死にそうなセリフを言って、みんなを油断させてみよー!


「ククク……我は、いつの日かこの封印を解き、世界に災いをなすだろー!」


「ダメだ、余裕っぽいよ。追加で氷漬けにしてみよう。ティネさん、お願い」


「はぁ。ムダだと思いますが……? そーれ、凍ってくださーい」


 俺の演技がウノちゃんに見破られたー! ひゃあ冷たーい!

 タルごと凍り付けにされて、動きを封じられてしまった。困った困った。

 体の芯までストロングに冷えそうだ……ビール飲みたくなってきたなー。


「ウノちゃーん! おとなしくするから、お酒をくれないかなー? 現地の酒を飲むついでに、戦勝イベントもやろうぜ! みんな集まってくれたしねー!」


「戦いはこれからな気がするケド。それで静かにしてくれるならいいかな……」


 ウノちゃんが俺の言葉を聞いて、ヒソヒソと周囲と会話している。

 サプライズパーティにしてくれるのかなー?


「毒を飲ませよう……」「国内最高の物を用意しよう。馬鹿にも効く薬があるぞ」

「体内から攻撃を……」「針を……極小の槍を仕込もう」「爆薬は如何でしょう」

「遅効性のものも……」「体内の奥深くで、氷を溶かせちゃいましょうかっ!」


 内緒話が盛り上がっている。漏れ聞こえてくる声色は楽しげなものだ。

 俺も混ざりたいなー。誰か来てくれー! と思ってたら、ひとり寄って来た。

 顔をフードで隠したヤツが近寄って来て、俺の耳元でボソボソ語り掛けてくる。


「あの料理。美味しかった。次も、期待してる……」


 フードに隠れてない口元が照れたように微笑み、俺のそばから離れて行った……

 どういう意味だろうか。

 分からない。謎が謎を呼ぶ……心理戦かなー?


 ともあれ、俺が異世界で繋いだ絆がひとつになったようだ。

 みんなの心が一つになっているのを感じる。素晴らしい一体感だ。

 これが、ハッピーエンド後の世界ってヤツだな。良かった良かった。

 あとは、邪魔ものを消しちゃえばいいだけだねー!


 ……むぅ、どこかに強い隠しボスがいる気がしてきたなー。どうしよっかー。

 だが、ひとまずこの宴で英気を養って、戦いに備えるとするか!

 みんながお祝いしてくれるぞー? 楽しめよー、リエルー。そして私ー。


「黙られるのも怖いなぁ……なに考えてるの? 頭は大丈夫?」


 ウノちゃんが俺の事を心配してくれている。

 俺もちょっと不安になってきたところだ。相談してみよう。


「大丈夫だよウノちゃん。やっぱり名前は短く、リエトとかの方がいいかなー?」


「すごくどうでもいいと思うよ。お酒はあるけど……その体、飲めるの?」


 合体名は大事なのになー。不評みたいだからやめておこうか。


「リエルさーん、この体って飲んだりできるー? 飲めるよー! そっかー!」


「ひたすら不気味で怖いよ! ひとりで会話しないで!」


 怒られてしまった……ったく、面倒だから一緒に喋ってるだけなのになー。

 まぁ飲めるみたいだから何でもいいや。

 ウノちゃんが、陶器製のコップにお酒を入れてきてくれたし、飲もう飲もう。

 あれ? なんで他のみんなは銀製のコップ使ってるんだ?

 俺だけ特別って? ありがとうねー!


「ほら、口開けてー」


「いや待てよ。自力で飲むよ。なんで飲まされなきゃならんのだ」


 介護される必要なんてないぞ。酒は自分の手で自由に飲まなきゃな。

 タルの中で凍結させられていた腕に、グッと力をいれてみた。

 バキバキと音がして、中でいろんなものが砕けだす。

 軽い抵抗があったが、余裕だったな。


「はいよ、コップちょうだーい……あれ? なんで逃げてんの、ウノちゃん?」


「爪がどうみても悪役だからかな……お酒をもっと濃くした方がよさそう……」


 カッコいいカギ爪なのに不評のようだ。不評だらけだな?

 まぁ不便な気はするな。ずっと飛びだしてる凶器ってどうなんだ。

 二つの口を使って相談してみるとするか。


「この爪って引っ込めたりできねーのー、リエルー?」


「えー? できるけど、もう作るの疲れちゃったよー」


「気合入れて作ってたもんなー。じゃあ俺が自力で改造してみよー」


 手の指から伸びている爪を、体内に収納するだけだから簡単だろう。

 うおー! と気合いを入れてリエルのマネをして、普通に爪を縮めた。

 マジで楽だったな。俺でもこれぐらいは出来るみたいだ。

 今度いろいろ試してみよう。自己改造には夢があるからなー。


「これで文句ないだろ、ウノちゃん。さぁこの手に酒をよこしてくれー」


「手の甲と喋ってるのも、結構不気味だよ……? 多重人格っぽいなぁ……」


 ぶつくさ言いながらも、お酒を手渡してくれた。

 なんかこれ、色がヤバくねえか? ワイン? 紫っぽいんだけど。

 文句を言おうとしたら、目を反らされて、そのまま乾杯の音頭をとってきた。


「はい、じゃあ、おにーさんの前途を祈ってカンパーイ」


 かんぱーい、と皆が複雑な表情で唱和してくれた。

 これ、普通の酒なのかな? みんなは普通に飲んでるなー。

 しょうがないから、俺も飲むか……うん、ピリッとしたいい味だ。

 ウノちゃーん、おかわりちょうだーい!

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