第44話 無意識領野で馬鹿騒ぎ

 俺は今、暗い場所にいる。

 五感が封じられた、深く虚ろな闇の中だ。

 何も見えない。手を伸ばせない。音が聞こえない。味も臭いもしない。


 ……ついに死んだかな? ここは第六感の出番かもしれないな。

 俺の中で、がんばっている感じの第六感さんに聞いてみよう。

 おーい、リエール! これなにー! また宇宙かー? どうなってんの俺ー!?


『まだ出来てないから、ちょっと待っててねー!』


 あぁ、はい。待ちます。俺の事は全部リエルに任せますよっと。


 そう思って任せてはみたが……スゲェ暇だわ。

 異世界に飛んだのか? また石化中なのかなー。何もやる事なくてキツイわー。

 ちょこちょこと、自分の手足が伸びていくような変な感触はあるけどな。

 背中や尻がムズムズするが、まぁ気にするほどのことでもないだろう。

 しかし、ボーっとしてても楽しくねぇなー……時間かかりそうだ。


 むーむーと唸って考えている感じの、自分の思考が気になるな?

 俺の心の中の、何も考えて無さそうなリエルな部分が、珍しく思考している。

 せっかくだから、リエルな部分が何を考えているか覗いて、暇を潰すか。


 心の闇を斬り裂け、俺の集中力!

 リエルが何を考えているか感じ取るんだ!

 暇潰しに、ピーピング魂を開花させろよやー!

 などと思うほどもなく、軽く集中したら簡単に理解できてしまった。


『ククク、これで何もかも思い通りだよー!』と楽しく笑っている気がする。


 下品な笑い声だなー。誰かの変な悪影響でも受けたのかな、リエル。

 きっと外人どもの知識を覗いたのが原因だろう。悲しい事だな?

 何やら他にも、しょうもない事を考えているようだ。


 リエルになったつもりで実況して暇を潰そう。


『よーし、いい感じー! まさか死んじゃうとは思わなかったけど、よかったー!

 体も心も一緒だよー! 永遠に壊れない体になれるし、もっとがんばらないと!

 どんなに体や世界がメチャクチャになっても、アヤトなら大丈夫そうだしねー!

 かいぞー! かいぞー! 大改造! 強くなるように真っ黒に染めちゃうよー!


 けどなー……いろいろ諦めちゃってたけど、面倒な事になりそうだなー。

 おかーさんが負けちゃうなんて、思わなかったからなー。ビックリしちゃった!

 こうなっちゃうと、アレだねー! 早く、あのおばさんを消さなきゃねー!

 使命なんてどうでもよかったけど、すごく邪魔になりそうだしねー!

 邪魔されないうちに、無敵の肉体にして戦わせちゃうぞー!


 わたしが、おとーさんとおかーさんの代わりに、がんばるよー!

 全部消し飛ばして、遊びやすくて楽しい世界にするよー!

 閉じ込められてると楽しくないから、アヤトを誘導して全部壊しちゃおー!

 こんな箱庭で過ごしたくないもんねー! 穏やかな世界なんて潰さなきゃ!


 新しい神は、おかーさんじゃなくて、わたしでアヤト!

 出入り自由の素敵な世界で、みんなを力に目覚めさせて、早くさせちゃおー!』


 ……嬉しそうだなー。

 リエルが、めくるめく妄想じみた不思議な世界の事を考えている。

 人類全員が風を操って、びゅんびゅんと空を飛ぶ変な事を夢に見ているようだ。

 飛ぶのは無理だろー。そこは、全員が笑顔で走り回る光景だな。修正しろよー。


 リエルの妄想に、高速走行するガッシーを混ぜたが気づいてくれない。悲しい。 

 何も気にせず、ずっと楽しそうにしながら作業に集中してらっしゃる。

 歌を唄うように奇妙な思考を続けながら、ゴリゴリと体を作成しているようだ。

 邪魔しちゃ悪い。俺をどんなオモチャにするか楽しみに待っててやるとするか。


 ウノちゃんをメッセンジャーに、皆をハートフル世界に招待する夢を見つつ。

 自分の体が伸張されていくのを感じとっていく。

 アヤトだった体がリエルに変わり、そのままビキビキとパワフルに変化する。

 

 リエルママそのものの強靭な手足が、コンパクトにまとめられてハイパワー化。

 俺の背中に自由に動く翼が生えてきて、どこまでも飛べそうなハイな気持ちに。

 尻から出てきた尾が勝手にムチのように動き、地面を叩いて何かを破壊する。

 肌にピッタリ張り付く黒い鱗が、大きく育った柔らかい胸肉を包んで防護した。

 俺の意思も軽く突っ込み、黒く染まった手の甲に小さな線を裂けさせてみた。


 明らかに人体では無くなった姿に歓喜した俺たちは、雄々しく叫び声を上げる。


「GRRRrrrrォォォオオオ――おぶっ!?」


「この馬鹿ーっ!」


 気分よく叫んでみようとしたら、布っぽいものが口の中に押し込まれた。


「馬鹿なの! アホなの!? なんで人間やめてるの! それ敵じゃん!?」


 いつのまにか、目が見えるようになっていた。

 俺の前に、なんか怒ってるウノちゃんがいる。

 石造りの狭い室内にいるようだな? 何か懐かしい鉄の格子も見える。

 鎖を持った兵士さんたちもいるぞ? こんにちはー?


「早く縛り付けて! 早く! 危機的状況だよ! また何かやらかしちゃうよ!」


 ウノちゃんが指示すると、俺の周りを兵士たちがグルグルと回りだした。

 回ると同時に俺……というか、成長したリエルの黒い体に鎖が巻き付いていく。

 何重にも巻き付けられて簀巻きみたいになっちまった。これは何の遊びかなー?


「これってリエル? ……それともおにーさん? 判断しづらいなぁ」


 腕を組んだウノちゃんが悩んでいるようだ。

 お悩みの解決するために答えようとしても声が出ない。布でふさがったからな。

 しかし別の口があるぞ。

 遊びで作ってみていた手の甲の口を開き、宣言してみた。


「我こそはー! 魔人アヤトリエルなるぞー!」


 ゲラゲラと笑ってやると、周囲に居た兵士たちが怯えだす。

 ウノちゃんがため息をつきながら、俺の手にもグルグルと布を巻き始めた。

 うわー、喋れなくなっちまったぜー。わははー!


「口が減らないヤツ……変なのになっちゃった。退治したほうがいいかな……?」


 また口が増やせるかな? どうしよっかなー?

 牢屋に縛り付けられてしまった俺たちは、悩みながらウノちゃんと見つめ合った。

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