第43話 劇的宇宙への投射

 朝の運動を終えたガッシーと共に、変な儀式部屋へ行って全員集合した。

 俺の体も綺麗な顔して布団で寝ているな? ……死後ケアされているようだ。

 セルマが聖遺物として祀るとか言ってやがる。

 そうか。がんばってくれよ、俺の死体。がんばれー! 元アヤトー!

 リエルになった俺も応援してるぞー。健闘を祈るよー!


 さぁて、元俺の体を馬鹿にして遊んでみたが、本格的に死んだなー。

 ここでどうするんだ?

 俺の体が生き返ったりするのか? それは無理じゃないかなー?

 疑問に思っていると、ウノちゃんが張り切ってくれた。仕切り屋さんだねー。


「みんな集まった? おにーさん、いる?」


 答えず、風を使ってウノちゃんの髪の毛を左右に吹き流してやった。

 朝のドライヤー代わりだ。

 寝グセが付いていた気がするからな? そんなの見当たらなかったけどねー!

 ショートな髪が散らされると共に、ウノちゃんが俺の存在を認識してくれた。


「こっのっ……! 見捨てるよ! そんな変な状態のままでいいの!?」


「どーだろ? わりと便利なんだよなー。勝手に宇宙に行くのが不便だけどねー」


 俺の風を見て拍手してくれる外人どもが居るしな。とても楽しんでくれている。

 俺の起こす、奇跡の風をみよー! 軽く風を吹かせるだけで喝采してくれる。

 ふはは、喝采せよ! 喝采せよ! ショボい風だけでアピールできるぜ!

 俺の中の私も喜んでくれている。こうして遊ぶのも楽しいかもねー!

 オカルト連中の指導者ルートもいいかもな! 神を目指しちゃおっかー!?


 ウノちゃんだけが不満顔。「宇宙ってなにさ……」とかブツブツ言ってる。

 情緒不安定な子だな? きっと、オヤジさんの事が心配なんだろう。


 セルマに訪ねてみると、ウノちゃん父は既に解放されたそうだ。

 今日も元気に競馬場に向かったらしい。

 ウノちゃんがそれを聞き、スマホで連絡を取って、また元気にキレてくれた。


「どいつもこいつも緊急事態に……っ! 危機意識が無さすぎるよっ!」


 苦労性な子だなー。ちょっと不憫になってきたから、話を聞いてあげよう。


「よーし、指導者の指示だぞー。

 俺の指導をしてくれるウノちゃんの言葉を、みんなで聞こー!」


 指示に従ってくれているセルマが、何やら呟いている。


「指導者の上位? 秘密の隠れた指導者? では首領という事に……?」


 ウノちゃんの階級が定められてしまいそうだが、気にしない事にしよー!

 熱心に見つめる外人どもの視線に、ちょっと怯えるウノちゃんが語ってくれた。


「簡単な話なんだけど……この体が無理なら、異世界の体を使えばいいかなって」


 ああ、別の体に入ってしまえって事か。

 まぁ体はある方がいいし、ちゃんと考えてみるか。

 あっちに入る事は出来るのかな? ええっと……リエル?


「あー……うん。入れるんじゃないかなー? でも、こっちに戻るの大変だよー」


 魂が結ばれた体を利用して往復できたが、体が無いから簡単には戻れないとさ。

 俺の体って、今の魂と結ばれてねぇのかよ……まぁ結ばれてねぇだろうな?

 どうみても、今の俺はリエルだしな? 関連付けが出来ない魂って感じだな。


 あっちの体はアヤトを再現していたから、気軽に転移できたらしい。

 中でリエルの体も作っていたから、今も簡単に入れそうだよー! と言ってる。

 メチャクチャされてるなー、あの体。中に内臓とか入って無かったのかな……


「リエルが喋ってるんだよね? ふざけてない? それが出来るなら……こっちの世界でも体を作っちゃえばいいよね。人形でも作ればどうかな」


 俺もリエルなんだけどなー。と思いながら、検討してみる。

 ……ウノちゃんも無茶苦茶言うなー。謎金属っぽいのがないと不可能だろ。

 それとも、リエルっぽい等身大のフィギュアを作るだけでいけるのか?


「聖像の作成でしたら、すぐにでも可能ですよ」


 やる気マンマンな変な人がいるから、作成は可能っぽいが。どうなんだ?


「すごい生物の材料で作れば、できるかもー!」


 なるほど、簡単な話だな。絵に描いたモチを出せばイケルぞ!

 思考を放棄しそうになったが、ウノちゃんが真剣に考えていた。


「骨とか使って作れば可能なのかな? おにーさんの骨を削る方向でも……?」


「指導者の遺体で作成するマネキン人形。首領の意見で良い象徴が出来そうです」


 俺の死体を見て、猟奇的な発想をされてしまった。

 ガッシーも、そういう作業はお手の物だって感じでナイフを出してきている。


 ヤメロヤメロ! 俺はそんな死体人形に入りたくねぇぞ!?

 面倒な事はせずに、普通の体に入って遊べねぇのか!

 そんな俺の心の叫びを聞いたリエルが、別の解決策を教えてくれた。


「あの体を、こっちにがんばって持ってくれば、いいんじゃないかなー?」


 どの体よ? 異世界の体だよー、って意思を感じるんだが?

 ……えー、あの異世界って、地続きの世界なのー?

 こっちに運んでこれるのか? ちょっと大変だけど大丈夫だって?

 どこにそんな世界があるっての? ……宇宙だよーって? あぁ、そうなの。

 勝手に魂が引き寄せられる先って、異世界だったかー。そっかー。


 ちょっと待てよ。それだと精神世界とか異世界じゃなくて、異星じゃねえか!

 エイリアンの侵略オチかよ!? リエルは火星人だったりしたのか!


「別の世界だよー? 宇宙に世界が作られてるのー!」


「まさか、新しい世界を創造した魔術師……! マスターメイガスの術技!」


 会話の一部を聞いて、一瞬で納得した魔術結社の人がいる。

 納得できるのー? 宇宙だぜー? SF展開じゃねえのー?

 自らの世界を宇宙に作成するのも、魔術の目標の一つだって? そうっすか。


 俺の考えるファンタジー魔法と、だいぶ違う意見が出てきたな……?

 最終的に世界と調和するのが魔術の目標だと、セルマがヤバい話を語ってくる。

 やめてくれ、もうお腹いっぱいだ。

 だいたい分かったから、もういいよ。意識を消失させてしまいそうだわ。


「じゃあ異世界に行って体を手に入れて、宇宙を飛んで帰って来るよー!」


 電波な目標が出来たから宣言してみた。言ってみると、意味不明すぎるな。

 俺が何を言ってるかも分からねぇや! リエルに任せるぜー! わーい!


「すごく問題ありそうな気がするよ、それ……気になるから付いていくよ……」


 ウノちゃんは何故か、俺に付いてくるつもりになったらしい。

 のろのろと、近くに置いてあるゲーム筐体の中に乗り込んでいく。

 ウノちゃんは心配性だなー。

 よく分からんが、体を宇宙に飛ばして、地球に帰ってくればいいだけだろ?

 問題なんてねぇよ。多分。宇宙旅行は今朝やったしな。

 ちょっとした、おつかいイベントって感じだろう。


 細かい事は気にせず、どーにでもなーれ。

 という感じで、ウノちゃんが先に異世界に行くのを手伝ってあげた。

 細かな事はリエルさんがやってくれている。


 ウノちゃんの中にあった綺麗な魂を触り、変な魔法陣を投射してどこかへ運ぶ。

 体から魂は飛んだが、生命活動は失われず、元気に体は生き続けているようだ。

 さて、俺も行くか。

 俺の方は、行きたいと思ったら行けそうな感じだ。

 リエルの保証付きって感じだな。うん、大丈夫だよ。きっと。


 ウノちゃんが移動するのを興味深く見守っていた、外人連中と別れをしよう。


「俺も行くぞ。ウノちゃんの体の方は頼んだ。元気でな、ガッシー。

 セルマが知りたい事はウノに教えるから、後で聞いてみてー! じゃあねー!」


 どうでもいい親友と、ヤバい人に別れを告げて意識を移動させようと思った。

 転移前に、手の甲に微笑んでいるガッシーと、何か喋ってるセルマが見えた。


「我らは首領の導きに従います。指導者の叡智の達成を見届けさせてください!」


 帰ったら大変な事になりそうだなー、ウノちゃん。

 ヤバい人を押し付けちゃったかなー、がんばってほしいなー!

 全部見なかった事にして、意識の中にある瞳を閉じてシャットアウトした。

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