第41話 古典異世界転移

 ずっと霊のフリするの面倒だから、霊の世界を見れる者なのだーと言ってみた。

 外人どもは、あっさりと信じてしまった。コイツら怖ーい。


 肉体の制約を離れた高次元の霊的存在とか、そんな感じで納得されてた。

 そういう神秘的な存在がいるハズだと、結社の伝説にあったから信じるって。

 全部の事情を正直に話す気は無いし、もうそれでいいや。


 ウノちゃんには、リエルに乗っ取られて体に戻れなくなったと簡潔に説明した。


「つまり、リエルに裏切られたりしたってコト?」


「うぅん? 自分から、もっと乗っ取ってくれー! って言ってみたよー!」


「なにしてるの? 本当に何してるの……? その口調で喋るの気持ち悪いよ?」


 こっちの方が自然な気がするのに、ウノちゃんは酷い事を言う。

 なんでわざわざ、オッサンの声で喋らなければならんのだ。

 七色の声で喋る事が出来るアバターで、地声を出す必要なんてないだろ?

 むしろ地声はリエルだな。俺はリエルで、リエルは私。私たちがリエルだー!


「指導者は、アストラル体をリエルで乗っ取られて力を手に入れたと?」


 遊んでいると、セルマが勝手に話題に入ってきた。

 指導者扱いするの、やめてほしい。

 オカルトそのものだが、だいたい合ってるから困るなー。話に乗ってあげよー。


「そーそー。精神を飛ばして、神の側で霊的エネルギーを手に入れたのだー!」


「ムチャクチャ言うのやめようよ……信じちゃうよ、この人たち……」


 ウノちゃんのツッコミを気にしないセルマさんが、大興奮してくれた。


「霊の隠蔽者! 指導者は、神界サタリエルまで、アストラル旅行していた!」


 おかしいのは翻訳かなー? 頭のほうかなー? 月刊ムーの表紙かなー?

 セルマが変な解釈して、勝手に暴走してくれるからドン引きだわー。

 憧れのアイドルと喋ったファンみたいに、狂乱しちゃってる。


 黒い口を見て、ただ笑ってるガッシーみたいに静かにしていてほしい。

 いや、黙って笑ってるコイツも変だな……なに考えてるのかなー?


「ガッシーは、どう思うー?」


「真理は掴めず、ここにあるものだった……リコの声が聴けるなら、それでいい」


 手の甲を眺めて、静かに語ってきた。自分の世界に入ってる。

 悟ったように笑って、恍惚としておられる……見なかった事にしよう。


 やっぱりウノちゃんと話して遊ぶのが、一番いいや。

 ウノちゃーん! と声をかけようとしたら、熱狂的なファンと会話していた。


「セルマさん。アストラル旅行って、昔からなさっていたんですか?」


「ええ、そうです。指導者の信望者の貴女も興味がありますか? 我々の結社では、異端とされる技法も伝承しています。この部屋で秘術を実践してますよ」


「あたしが信望者……? 聞き流そう……詳しく教えてください。お願いします」


 あっ……ウノが、こっちの世界に乗り込んできちゃった。

 メモりながら、ちゃんと話を聞いてて偉いなー。

 なにを書いてるのか気になってたし、ちょっと覗いてみようかな。


 見えない体を利用して、いろいろと書き込んでるメモ帳を見てみた。


[Aの肉体と精神は異常を極めた。自身の生存を放棄して活動中。(要経過観察!)

 魔術結社員Sと接触。異常存在Rに聴取した単語との一致を確認。

 私が体験した白昼夢と同様の技法を結社が所持する模様。以下に内容を記す。


 香や状況で、精神を安定化(異常化?)させて行う自己催眠。または体外離脱。

 特定の象徴物の組み合わせを凝視し、精神を異世界へ転移させる儀式魔術。

 瞑想して神秘を体験する技法の一種か。(ゲーム筐体の内容とも一致?)


 世界移動で宇宙の真理を得ると、普通の人間から進化して超人に至る事も可能?

 とある世界に集団転移して真理を得る方法があったが、現在利用不可能。

 極一部が、その神秘世界の中で、魔術を得たと伝えられている。(R関連?)]


 うわぁっ……なんかヤバいこと書いてるなー。ゴリゴリ書きまくってる。

 ウノも、わりと変なんじゃないかなー?

 セルマとの会話の方も酷い事になってる。


「水晶玉を利用するスクライングも良いのですが、やはり通ならばアストラル投射でしょう。気持ちを落ちつかせ解放感に浸りながら、宇宙と、世界と繋がるのです。我が結社に伝えられし暗号文書を解読しますと、魂の錬磨で真理を探究して高度知能に触れるべきだとありまして――」


「はい、はい。分かります。それで、意識を戻せなかった状況ってありますか?」


「情緒不安定になりがちですが、危険な領域に入り込むことは滅多にありません。意識の一部を置き去りにする感覚が多いですね。過去の記録によりますと、別世界の生物に意識を投射した時に置き去りにされて――」


「……そうですか。サタリエルって何ですか?」


「黒を意味する闇の勢力世界ですね。呪われた魂を喰らう悪魔が、土星を象徴する場所にいるとされます。そちらに移動する秘術が、現在閉じられてまして――」


「へぇ、そうなんですか……話が混ざってるか、伝承が間違ってるのかな……」


 ウノが、マニアックな話を詳しく聞き取ってる。とても真剣だ。

 邪魔しちゃ悪いケド、邪魔したくなるなー。退屈になってきたし。

 暇つぶしに、ウノの中身も覗いてみようかな……


 ウノの中に忍び込もうと思った時。

 部屋の中にドカドカと人が入ってきてしまった……邪魔されちゃったかー。


「搬出作業終わりました。どこに運び入れましょうか」


 引っ越し屋さんだった。

 ……あぁ、俺の家に来てた、業者の格好した連中だな。

 ガッシーが面倒くさそうにしながら、渋々対応してる。

 なに? 勝手にここに運んだの? 俺の新居生活が一瞬で終わっちまったな?

 他の組織に情報を与えないために、家の物を全部持ち出して来たらしい。

 ありがたいんだか、迷惑なんだか、よく分からんな。


「指導者の儀式部屋にあった物品は、全てここに運び入れなさい」


 セルマが業者に指示を出して、勝手に俺の荷物の割り当てを決めてしまった。

 ここを俺の家にするつもりかよ。まぁいいか。触れないし、好きにしてくれ。

 リエルは何か希望あるかー?


『もうちょっと、ボンヤリしててほしかったなー』


 どういう希望だよ。なんでガッカリしてるんだ、リエル?

 

『大丈夫ー。なにしてもいいよー。アヤトの好きにしてねー』


 リエルさんが開き直った感じになってるな。どうしたんだ急に。

 気になったが、ガンガン運ばれる俺の部屋の荷物で雰囲気が台無しになった。

 やめてくれ! 安っぽい水晶玉を、本格的なヤツの隣に並べるのはよしてくれ!

 恥ずかしくて死にそうだ。既に死んでいてよかった。よかったか?


 軽くバラされて運ばれた後、部屋の中で組み立てられたゲーム筐体も最悪だな。

 部屋の荘厳な空気が、一瞬で滅茶苦茶になってしまった。

 部屋に合ってないから、入れるのやめておけよ。ジャンルが違うだろ?

 放置してた布団も搬入されて床に敷かれ、俺の死体が寝かされてしまった。

 グチャグチャだな……なんだこの場所。


「これが我々の新たなる神殿。すべてのロッジに広める事にしましょう」


 熱狂してるセルマを止めた方がいいのだろうか。

 楽しそうだから、放置したい気もする。

 悩んでると、ウノちゃんが、ガッシーの手に向かって話しかけていた。


「聞いてる? 新しい体に入る方法があるかもしれないよ。試してみる?」


 そっちに俺は今いないぞー? しょうがないから急いで口に戻って答えてみた。


「そういうのは明日にしよう。ウノちゃんも疲れたろ? 今日はもう寝ようぜ?」


 真剣な顔で喋っていたウノちゃんの顔が崩れてしまった。

 ガッシーの手を叩くかどうか、迷ってるようだ。

 体が無いと無敵でいいなー!


 ……ともあれ、こういう話は落ち着いてからした方がいいだろう。

 布団を見て思い出したんだ。もう深夜すぎだぜ?

 外はもう真っ暗だ。寝よう寝よう。夜中にイカれた話をするのは疲れたよ。

 それに、夜に寝ないとウノちゃんは体を壊すぞ? 体は大事だからな。

 オラー! 指導者のお言葉だー。お前たち、もう寝なさーい。

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