第40話 死活魔郷

 笑ってる場合か俺ー! 死後の世界で暮らす事になっちまうぞー!?

 いや、もう俺じゃなくてリエルなのかー?

 リエルの顔を使って笑ってやろう。わははー!

 ……うーむ、マジかー。俺死んじゃったかー。

 どうにかならないのかリエルー?


『知ーらなーい。大丈夫じゃなかったねー! ゴメンねー!』


 ちょっとだけ申し訳なさそうな感じで謝ってくれた。

 そうか、本気でどうにもならないんだな? まぁいいか。

 許すぞ。思考は死んでないからな。そのうちどうにかなるだろ、多分。


『いいのー?』


 変な体はあるからなー。

 パタパタと翼を羽ばたかせて、小さいエセ精霊の姿で飛び回る。

 リエルの体が、本体になっただけって気がするな? 変な万能感もあるし。


『いっしょの体だよー!』


 そうか……それに、そもそもずっと現実感が無い。

 ボンヤリしてると、どこかに行ってしまいそうな感覚はある。あの世かな?

 だが、危機感も無いから悩みようがない。ゲーム感覚だな。

 狙われてる体から逃げることが出来て、ラッキーなのかもって気分すらする。

 とりあえず、出来る事を探すために行動してみるとしよう。


『わかりやすくていいねー! そうしよう!』


 そうと決まればさっそく、遊んでやるとするか。

 リエルの体で風を動かして、羽ペンを持ち上げてみた。

 実際に触ろうとしても、突き抜けてしまったからな。うん、幽霊だこれ。

 風で無理やり持ち上げてる感じになった。手慣れたもんだから楽だったぜ。

 ふよふよと動かして、俺の体の額に肉と書いてやった。これが別れの儀式だ。

 さらばだ、俺の肉体よ。


 俺が死んだと理解して、涙目になってたウノちゃんが、ハッとしてくれた。


「この意味不明な行動は……おにーさん!?」


 理解が早い!

 他の外人どもはポルターガイストだ! と騒いでるのに一瞬で理解してくれた。

 やはり俺の理解者であってくれたか、ウノちゃん。花丸を書いてやろう。

 ウノちゃんの額に書こうとしたら、羽ペンを叩き落としてガー! と怒られた。


「馬鹿な事やってないで起きてよ! なにこの状況!?」


 起きる事はできないし、状況は見たまんまなんだよなー。死亡エンド?

 しかし、エンドロールは始まらない。あれ? どういう状況なんだろう……

 説明する事もできない。文字を書いて適当に説明したりするのは、面倒だぞ。

 他にリエルが出来る事って、何かあるかなー?


『風で声も出せるけど、面倒かもー? 口を作ろうかなー』


 リエルがスーッと動いて、ガッシーの中に入り込んだ。

 コイツに何かするのか?

 リエルがチョイチョイと魂に触れて、黒いモノを流し込んでいた。

 そのまま、そそくさと出ていって、ガッシーの左手の甲に注目した。


 ……ああ、黒い口ができてるわ。あのキモイやつだな?

 だが、小さくて、ちょっとカワイイ気もする。キモカワイイってやつだな。

 やっぱ、リエルが敵の親玉みたいなもんなんじゃねえか。

 ついに現実にも浸食したか……人面瘡みたいだな? なに、これで喋れるの?


『重なって喋ってみてー!』


 うぅむ。重なるのはキモイなー。まぁいっか。やってみよう。

 気づいてないガッシーの左手の中に体を埋めて、黒い口を使ってみた。


「ゲラゲラゲラゲラ!」


 化け物っぽい声で笑ってみたぞ。どうかな?


「Holy Shit⁉」


 おー、おー、ガッシーが良い発音でビックリしてくれたぞ。良い感じだな?

 リエルもクスクス笑って楽しんでくれている。上手くいったようだ。


「まさか、死んで悪霊になったの!?」


 ウノちゃんがリエルの事を的確に評してくれた。やっと信じてくれたか。

 笑って遊んでないで、普通に話してみるか。寄生主を落ち着かせなければ。


「ほらほら、ガッシー落ち着いてー。ちょっと憑りついてるだけだよー」


「ガッシーって誰……? この人? 何で知り合いみたいに呼んだの。リエル?」


 コイツの人生の悲喜こもごもを見てしまったからな。

 もはや親友と言ってもいいだろう。

 その親友のガッシーが暴れて、手の甲を床になすりつけたりしてくる。

 そんなに嫌かなー? ちょっと変なタトゥーが入っただけみたいな感じだろー?


「God damn you! God damn it!」


 本気で嫌みたいだ。ガッシーがナイフを取り出して削ろうとしてくる。困った。

 ……この口、自在に声色を変化できるみたいだな?

 ウノちゃんがリエルの声と勘違いしてくれたし。いや、あってるのかな?

 まぁ、せっかくだから情報を利用して、ガッシーを落ち着かせてやるとしよう。


「待て、オレだ。この声を忘れたのか、オージー?」


「リコ……?」


 オカルトに頼ってみた。ガッシーが急に動きを止めて驚愕してくれたぞ。

 テーマは、ガッシーの死に別れた戦友リコの声だ。

 記憶から盗んだこの声色なら、説得できると信じていたぜ。

 もう手段は選ばんぞ。自分自身がオカルト存在になったから、ためらいもない。

 ガッシーは日本語で話す怪しさも気にせず、この言葉に耳を傾けてくれた。


「そうだ。オマエの爺さんの、そのまた爺さんのシャーマンの血が目覚めたんだ。オマエの修行が身を結び、霊界と繋がってオレの声を聴けるようになったんだ」


 軽く設定を話してやったら、なんかガッシーが感極まって泣き出した。

 記憶の中で見た、信用されそうなオカルト設定だからな。

 ガッシーの夢をそのまま語ったようなものだから、楽なもんだぜ。


『悩みをとっちゃったから、楽だったのかもー!』


 ……リエルが洗脳した影響も多分にありそうだなー。


「ええー絶対ウソだー! なに純粋な人を騙してるの! やめなよおにーさん!」


 ウノちゃんは騙されてくれないみたいだ。信頼されてるな?

 叶わない望みを叶えてやったんだから、感謝してほしいぐらいなのになー。


「オレの形見の腕時計、大事にしてくれていたんだな……」


 とか言ってガッシーを感激させて遊んでいたら、見学してた人が寄って来た。

 セルマさんだ。今まで死体を詳細に検分して、羽ペンも子細に観察していた。

 実はマトモだったりするのかな。疑ってくれているのだろうか。


「霊界通信……自動書記……本物の、超人。我らの師になって下さい。指導者!」


 ヤバーイ。コイツにも変な感じで信じられてしまったぞ。

 黒い口に向かって真剣に頼んできた。

 そういえば、魔術とか教えてもらうのが目的なんだよな。コイツら。

 むしろ、こっちが何が出来るか教えてほしいぐらいなんだけどなー。

 どうしよっかー?


『好きにすればー? 任せるよー!』


 体も思考も投げ渡されてしまった。面倒だから他の誰かに頼みたいんだが……

 チラッとウノちゃんを見ると、呆れ果てた感じで見られていた。

 スマホを取り出して、どこかに電話をかけようとしている。


「変な人しかいない……警察呼んだ方がいいのかな……」


「待ってー、見捨てないでウノちゃん。私たち友達でしょー?」


 リエルの声で言ってみたら、すごく不気味そうに注目してくれた。やったー。

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