第39話 無常の風が吹くとき

 女の人の記憶を調べてみた。

 どうやらコイツらは、魔法使いを本気で探す魔術結社だったらしい。ヤバいぞ。

 ガッシーを調べて薄々感づいてはいたが、信じたくはなかったぜ。

 なんで俺は異世界でもねーのに、魔術関連の話を聞かなきゃならんのだ。


 どうやら俺が映っていた動画などから、魔法使いだと断定して調べたそうだ。

 米軍内部にも結社の人が多数いるらしいのが最悪だな。無駄に組織力もある。

 あの日、競馬で大勝ちした客も探して、ウノちゃんのオヤジを捕らえたらしい。

 確保してみたら、俺の事とか全部喋って協力してくれた、との事。


 あの裏切り者ー! とも言えねぇな。そこまで義理もねぇし。

 それに、この人たち、気が触れてらっしゃる。俺も正直、関わりたくねぇ。

 とっとと逃げたいんだが……どうしようかなこれ。

 また捕まったりしたら嫌だし、一応、調べないと駄目か。


 表層の記憶以外も嫌々探ってみたが、本当にロクでもない事しか考えていない。

 女の人の名前はセルマさんだ。だが、魔法名とかいうヤバい名前も持っていた。

 深淵の水滴、という魔法名をお持ちなんだそうだ。

 何を言っているのかは俺にも分からない。標語かな?

 詳しく見ているとオカルトの塊すぎて嫌になったから、理解したくなかった。

 代々魔術結社に所属しているお嬢さんらしく、生粋のオカルトの人みたいだ。


 俺を確保して、魔法の知識を教えてもらいたいらしいんだが、どうしたものか。

 コイツらだけじゃなく、他の組織の連中も俺を狙っているらしいんだよな。

 自宅を押さえられているのが嫌すぎる。

 俺のメアドも流出していて数万人規模で狙われてるそうだ。逃げ道も絶たれた。


 いったい俺が何をやったと言うのだ……まったく、どこでバレたんだろうなー?

 ブックメーカーの全的中が決定打と記憶に残ってたが、見なかった事にしよう。

 いろいろ悩んでると、リエルさんが非常に微妙な口調で俺に話しかけてきた。


『アヤトー? なんかねー、アヤトが死んで嘆いてるよ、この人ー?』


 はぁ? なに言ってんだよリエルー、俺は生きてるぞー?

 死んでるってんなら、この俺は何なんだって言うんだよー。

 ってリエルに文句言っても、しょうがねぇか。


 流石に気になったから、記憶を読むのは中断して外に出てみた。

 俺の体の前で、ガッシーとセルマが言い争っているみたいだ。

 英語で喋っていたが、がんばって翻訳してみたぞ。


「ヘイ、ガッシー! ファッキン腐れ仕事したな! 死んでるぞこの男!」


「おお神よ、やっちまった。アレルギー持ちの貧弱野郎かもだぜ、このモンキー」


「そりゃコトだ、クソッたれ! 笑ってる場合じゃないぞ、勘弁してくれよ!」


「ハハハ! やられちまったな。もういいや、どうとでもなれ。クソして寝よう」


 大体こんな感じで喋っているハズだ! 俺の灰色の脳細胞が唸りを上げる。

 観ていて良かった、B級字幕映画。

 暗い顔と開き直った顔で喋っていたから、きっとこんな感じの会話だろう。

 なかなか楽しそうな会話だ。勝手に俺が死んだと勘違いしてるだけだろうな。

 ウノちゃんに、死んだみたいな対応された時の事を思いだしちまうぜ。


 二人で騒ぐ愉快な外人を見ていると、その寝ているウノちゃんが目覚めた。


「うぅ……なにこの匂い。どこなのここ……?」


 起き上ってキョロキョロしてる。倒れてる俺と外人二名を見てビビってるな。

 手を振ってみたが、ウノちゃんにも俺は見えていないようだ。寂しい。

 セルマが、全力で蘇生させろ! とガッシーに指示してウノちゃんに寄った。


「手荒な事をして申し訳ありませんでした。私がこの家に二人を招待しました」


 日本語喋れるんスね、セルマさん。俺が翻訳していたのは無駄だったようだ。

 警戒しているウノちゃんに、優しく言い聞かせるように事情を説明している。

 ウノちゃん父が、別組織に捕らえられたから俺たちを保護したとか言ってるぞ。


 良い感じのカバー・ストーリーだな。

 実際はコイツらが、ウノちゃんのオヤジさんを捕らえているんだが。

 尋問する必要がなかったから、ホテルに監禁して接待しているらしい。

 俺を捕まえたら他はどうでもいいから、すぐに解放されるそうだぞ?


 まぁ俺が死んだと思ったからか、どうにか味方にしたそうにしてる感じだがな。

 この方が原因で、貴女たちに危険が迫ったから助けましたー、とか言ってる。

 お父さんも、私たちが助けに行きますよー、って感じで味方ヅラしてやがる。

 細かい事情を知らないウノちゃんは、あっさりと騙されていた。


「そんな事があったんだね。全部コイツが原因だったんだ……」


 しまった、憎しみが俺に向かいそうだ。寝てる俺に白けた視線を向けているぞ。

 やめてくれよウノちゃん、俺を信じてくれ!

 俺たちの関係は、そのていどの言葉で……揺らぐようなモノだった気もするな!

 こうしちゃいられねぇ、体に戻って言い訳しないと。

 自分の体に入れば目覚めたりするのかな? どうなんだー、リエルー?


『えっ……? あっ、そうだったねー。元の場所に入ればいいのかもー……?』


 なんで自信なさげ何だよ。まぁいいや。いってみるか。

 ガッシーが心肺蘇生をしている最中の、俺の体の中に入ってみた。

 ……こういうのは、入るとすぐに目を覚ましたりするパターンだよな?

 なぜか真っ暗な中を突き進んで、自分の体を突き抜けるだけなんだが。

 おいリエルさんよー。これって、どこに入ればいいんだ―?


『……ちょっと、がんばってみるねー!』


 リエルさんが答えてくれない。

 俺の制御を離れたリエルの体が、俺の体に入ったり出たりしている。

 あれー? 戻れないなー? とか怖いこと言ってるんだが、大丈夫かよオイ。


 ガッシーが、どこからかAEDを持ってきて必死に蘇生措置を行っている。

 魔術っぽい蘇生はしないんだな? 意外と普通で安心したぜ。


 うん? っつーか、マジで脈とか止まってるのかよ俺。心電図が異常だな?

 ウノちゃんも、ちょっと心配そうに俺の体に近寄って揺さぶってくれてる。

 体から離れて下さいって、AEDさんが言ってるぞ。離れておけよー?


 セルマさんもハラハラしながら、AEDの電撃を喰らう俺を見守っておられる。

 おいリエルー、早く戻してくれよー? みんな心配してるぞー。


『あのねー? ちょっと魂を変えすぎちゃったみたいで、入れないのー』


 リエルさんが、困った様子で仰ってくれた。

 あー、なるほどなー? いじりすぎたんだな?

 じゃあ変形して元に戻せばいいんじゃねえの? それで解決できるだろ。


『うーん……どうすれば戻せるのかなー?』


 戻せないパターンだったかー。そっかー。どうすればいいんだろうなー?

 解決方法など知らない俺も困ってしまった。誰か解決策を教えてくれ。

 何度か電気ショックを与えた後、ガッシーが両手を上に向けて肩をすくめた。


 諦められちゃったな。翻訳すると、ご臨終ですって感じだな。HAHAHA!

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