第36話 伝統料理

「それでな、ウノちゃん。俺はこう思ったんだ。こいつウナギに似てるなーって」


「うん、それで?」


「イギリスの伝統料理にな? ウナギのゼリー寄せってのがあるんだよ。

 これがキモくてなー! こいつにソックリなんだ! しかもクソマズい!

 それをここに再現してみたワケだ。どうだ? 食べて見たくならないか?」


「言いワケはそれでいいの?」


「それで言い訳ー、なんつってなー。ガハハー!」とかやったら殴られちまった。


 ウノちゃんはあの料理が好きだったのかな……? 見た目もグロいのになー。

 戦闘終了したし、気分を変えてやろうと思ったのに酷い事をしやがるぜ。

 沈痛な面持ちをウノちゃんに見せながら、酷い惨状になった光景を思い出す。


 水蒸気爆発を起こした直後、穴の近くにリエルママがぶっ倒れていた。

 必死に水底を掘って退避した俺とは違い、ママさんは爆発の直撃を喰らってた。

 体がボロボロになって地上に放り出されて、半死半生って感じになってたんだ。

 俺も体が焦げたのか少し黒くなっていたが、それより酷い黒焦げ状態だったな。

 その時チャンスだと思って、首を何度も斬り裂いて頭を切断してやったワケだ。


 ボロボロの状態でも暴れだしそうだったから仕方ないな。

 生命力強すぎるんだよコイツ。首だけでも噛みついてきそうになったからな。

 だから、頭だけの状態にして無力化してやった。

 至近距離で渦を発射したり、腕がつるぐらい手刀を放ったりして大変だったよ。

 だが、まだ生きてるっぽくて困る。

 頭に集った黒いのがザワついてやがるぜ……


 それでまぁ、終わったあと、地味にイラッときてたんだよな?

 黒いのが頭に集積された後、他の首が柔らかくなったから切断して遊んでみた。

 軽く残っていた水を寄せて、伝統料理を再現してたら皆が集まってきたのだ。


 思い出したら笑えて来たな。


「結構楽しかったのになー? 調理補助してくれたスイネさんは、どう思う?」


「すごく、マズそぅ……」


 嫌そうな声だ。だよなー、マズそうだよなー?

 煮こごりみたいになった、ドラゴンの首を扱った料理をそう評してもらえたぞ。

 実食はしてくれないかな? 誰かこの酷いドラゴンミートを喰ってみてくれよ。


「リエルはそれでいいの? お母さんの体で遊ばれてるんだよ?」


「えっ? 何かダメなの?」


 リエルさんが不思議そうにしてらっしゃる。悲しげなウノちゃんが寂しそうだ。


 まぁ、戦闘が終わってから、俺から出て来て一緒に遊んでたから問題ないだろ?

 リエルにとっては、親越えの儀式とかそんなノリになってるハズだって。多分。


「とにかく、俺は皆が来てから終わらせた方がいいと思って待ってたワケだよ」


「そんな感じは全然しないケドね……それで、その頭をどうにかするの?」


 口をパクパクさせてる、真っ黒になったリエルママの頭を指差してきた。

 うん、まぁ、そういう事だ。あれを治すかどうか、すごく迷ってるんだよな。


「これってさー、治しても無意味じゃね? トドメ刺した方がよくないか?」


 最善っぽい提案をしてみたが、影の薄かった人が前に出てきた。


「一応、この方は俺たちの国の神様なのだが……治してもらえないだろうか」


 オッサンが悩みながら発言してきたぞ。消極的拒否の票が入ったか。

 他の兵士連中もそんな感じかな? 治せるなら治して欲しいって感じか。

 燃やそうと言ってくれると思ってたんだがな。俺に期待されちゃってるかー。

 と思ったら、跳びはねて積極的に手を挙げてるヤツがいた。


「燃やしちゃいましょう! 私も手伝いますよぅっ!」


 なんかヤバいヤツがいるな? アイツは火属性も持ってるのか?

 一体なんの恨みがあるってんだよ、ティネさんよー。

 あれは放置しておこう。意見は統一されそうにないし、その他大勢は、いいや。

 やっぱり面倒だから、ここはリエルさん任せでいいだろ。


「リエルー? オマエはどうしたいんだよ? 意見を聞こうじゃねえか」


「どうでもいいよー? 気になるなら、触っちゃえばー?」


 首を傾げてきやがった。オマエはずっとそんな感じだったもんな……

 親の情とかそういうものは無さそうだ。この人でなしー。人じゃなかったわ。

 まぁいいや。積極的に燃やすのも面倒だし、掃除機の機能を試してやるかー。


「じゃあ、せっかくだから治そうか。面白い遺言とか聞けるかもしれないしな」


 ガタガタと口を揺らしてる竜の頭の後ろへ行って、そっと手を触れた。

 ギュイーンと、定番の音が流れてきたな。ついでに変な意識も流れてきた。

 我々は星の世界へ向かうProgredior ad lucem siderum……? いや、高次元世界へ向かう、か……?

 なんだこれ、翻訳ミスか? 宇宙人の感情とかじゃねえだろうな?

 かなりサイケな感覚が流れてきた。トリップしてそうな感情の群れだな。


「最初に来た魂かなー? おかーさん、古いのいっぱい吸ってたよー!」


 リエルさんが解説してくれたが、よく分からねえなー。どうでもいいや。


「あー、そーなのー? マジで意味不明だなー。くだらねぇ」


 唾を吐きたくなったが、その前に口から煙が出てきた。うむ、少し愉快だ。

 そうして吸い込んでいると、ツッコミが入った。


「ちょっと待ってよ! それ何か大事な話じゃないの!?」


 ウノちゃんが何かを気にして、異議を投げかけてきた。論破してくれるのかな?

 この話を深掘りされても困るなー? マジでどうでもよさそうな話だぞ?

 俺は精神的なオカルト話は嫌いなんだよ。これ以上の非科学は勘弁してくれ。

 白けた目で見ていると、ウノちゃんは俺の相手を諦めてリエルと会話していた。


「黒いのって魂なの? 詳しく教えてよ、リエル」


「えっとねー、いろいろ混じってるよ? 感情とか、思念体とかもあるよー?」


 ふたりで神秘的な夢の溢れる会話をしている。女の子は好きな話なのかなー?

 俺は聞きたくねえなー。後で結論だけ教えてもらおう。

 ひとり寂しく、掃除機に集中しておくとするか。

 ガンガン吸っていると、奥にこびりついた大きいモノが引っかかった気がした。


 我が魔導の秘奥を授けようとか囁いてきてる感じがする。胃もたれしそうだ。

 師匠になって魔法を教えるとか、クソどうでもいい事を伝えて来てるっぽい。

 大量にゴミみたいな知識も入ってくる。興味無いから早く消滅してほしい。

 しばらくすると悲鳴のような大声をだして、よくある憎悪を残して消えてった。


 吸って吐き捨てる作業をしていると、ウノちゃんが結論を教えに来てくれた。


「あたしたちみたいに魂を飛ばした人がいて、それが最初の敵になったんだって。

 古の魔術結社の人だってさ。意識を汚染させて世界の崩壊を企んでたらしいよ?

 汚染されなくても、影響を受けると思考が制限されるそうだよ。嫌な話だね」


「そうか。どっかにそのボス敵がいるのかな? 他に何か面白い話はあったか?」


アストラル精神体が宇宙から飛んできてて、それをレーシュが防いでる話はどう?」


「そういう話は全然興味ねぇな……俺に関係する話はないのか?」


「すごく関係ある話だよ……? あとは、世界間に区別が付かなくなったら魂が破滅するってさ。魂が黒いのに支配されるとか。それは注意した方がいいよ」


 区別がつかなくなるワケないケドね。とウノちゃんは笑っているが……うむ。

 なるほど……なるほど?

 気になってリエルさんの方を見たが、ニコニコしながら俺を見返してくれた。

 そっかー。世界を往復するのは、注意したほうがいいんだなー。

 ウノちゃんには注意してくれたんだな? ありがとうリエルさん。


「アヤトは大丈夫だよー! もう捕まえちゃったからねー!」


「そっかー! ありがとうなー! リエルー!」


 リエルと情報をシッカリ確認し合っていると、ウノちゃんが変な目で見てきた。


「仲良しだね? とにかく、結構危ない世界だから気をつけようよ、おにーさん」


 俺はいったい何に気を付ければいいのだろう……気にするべきことを知りたい。

 リエルさんは教えてくれるかな? どうかな?


「アヤトはそのままで大丈夫ー! 約束したよ! 最期まで一緒に遊ぶよー!」


 あー、つまり俺は捕らわれて、最期まで離さないと宣言されたワケだな?

 大した情報は増えてねぇな。やっぱり聞かなくても問題無かったみたいだ。

 よかったよかった。何も、問題は無いな?


 和やかに会話して遊んでいると、頭だけになってる竜の眼に光が戻った。

 どうやら目覚めたようだな。


「我が娘よ……我が逆鱗よ、そこにいるのか……」


「はいはーい、いるよー、おかーさーん」


 コイツ、どっから声だしてんだろ? ガタガタ揺れながら喋ってやがる。

 厳かに喋っておられるが、リエルさんは興味なさげだ。感動の会話だな?


「人形を奪ったか……ならば、神を名乗る忌々しき端女を殺せ。最期の使命だ」


 物騒なこと言ってるなー。つまらない嫌な遺言だわ。


「えー、面倒。興味ないよー」


「なぜ継がぬ、なぜ届かぬ……滅びし我の恨みを継いでくれ、我が逆鱗よ……」


「その名前、長くて嫌ーい。もう大体継いだからいいでしょー?」


 リエルは話をする気もなさそうだ。耳を塞いで、俺の中に入ろうとしてきた。


「いいのかー? なんかまだブツブツ言ってるぞー?」


「どうでもいいよー! さっき消えたおとーさんの変な影響受けただけだよー!」


 ふーん。いいのかなー? まぁどうでもいっかー!

 そうして、俺の中にズブズブと逆鱗ちゃんが戻ってきた。

 リバース・スケールちゃんかな?


『やー! その名前やめてー!』


 キレたお子さんが、照れ隠しするように俺の中で暴れている。

 ザクザクと何かを斬っているようだ。鬱陶しい知識を斬ってくれたのかな?

 ありがとうよ、リエル。


『うん! わたしに任せてー! 変な事は覚えてなくていいからねー!』


 リエルとの会話を終え、ふと気づくと、目の前に変な生首の化け物がいた。

 生首がパクパクと口を揺らすと、ゆっくりと動きを止めて静かになっていく。

 大きな眼光が暗くなって消え失せて、デカい雫がポタリと落ちていった。汚っ。

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