第35話 往復する黒い流星
これでダメだったら諦めよう。延々復活してくる敵とか戦ってられねぇぞ。
後ろ向きの決意を固めつつ、テケテケと這って追ってくる敵から逃げる。
どっかの都市伝説に出てくる妖怪みたいだ……ワラスボっぽくも見えるな。
見た目が気味悪い上に、より凶悪な攻撃をしてくるからヤバすぎる。
変な化け物となったゾンビママが、這いずるのを止めて腕を振ってきた。
カギ爪の全てから風の刃が発生して、こっちに飛んでくる。
「びゃぁぁぁっ! 死にますぅっ! こんなトコで死ぬのはヤですぅっ!」
具体的には腹に引っ付いてるヤツが、うるさくなるという凶悪な攻撃だな。
体に当たりそうな刃だけ、必死にそらして逃げ続ける。
「ティネさんよー? なかなか楽しいが、もうちょっと落ち着いてくれねぇか?」
「ひぅぃぃぃっ! ごめんなひぁあっ!?」
……コイツもう駄目だな。会話にならない。
なぜか的確に攻撃してくれているのだけが救いだな。
氷柱なんかを飛ばして攻撃しつつ、加速させるように風を噴射してくれている。
泣き叫ぶ、やかましいオプションがくっついてると思う事にしよう。
這いずる黒い上半身だけの、竜頭蛇尾な見た目の化け物ママから逃げ回る。
本当に何なんだアレ。本体は別にあって死なないパターンか?
『ちょっと生きてるだけだよー! アヤトも死なないよー?』
体の中の味方の声も凶悪だな? 精神攻撃までされてしまう。
俺が死なないってそういう意味か? 物理的に死なないのは勘弁して欲しい。
あのお母さん、実はリエルが操ってたりしないよなー?
『あれは、おとーさんに壊されたおかーさんだよー? アヤトとおんなじだね!』
えー、まだヤバいネタあるのー? 勘弁してくれよー。
……なるほどなー? 俺と同じって事は母親が黒い父親に憑りつかれたってか?
リエルは黒いヤツとのハーフだったりするんですかねー?
『そんな感じー!』と笑ってる声が聞こえてくる……
俺の最期は嫌な末路になりそうだな、オイ。
なんか色々忘れたい知識を入手しながら逃げ続ける。
腹から聞こえる悲鳴を楽しみながら、予備戦力を集めていた場所に向かった。
意外と速度が出てくれたぞ。泣き叫ぶエンジンのおかげだろうか。
目的地にしていたのは、俺が地面を吹き飛ばして大穴にした場所だ。
深く埋まった上に、クレーターをさらに拡張した穴だから使えるだろ。多分。
到着する頃には、少しあの妖怪と距離を離す事ができて一安心。
準備していた人に、用意させておいたモノが使えるかどうか確認してみた。
「スイネさーん。いま、どんな感じですかー?」
「全部、出した。もぅ、空っぽ……」
お疲れのようだな。限界まで水を出してくれていたようだ。
水を出せる魔法使い部隊と一緒に、急いで湖を作ってもらっておいたぞ。
何かに使えるかと思って要請したが、本当に頼る事になるとは思わなかった。
穴にもう一度ハメてやって、どうにか足止めをしたいところだ。
「ヘイ! ティネ! もう一度、氷でトラップを仕掛けてくれないか?」
「むぅっ! 無理です! 限界でしゅぅぅっ……」
コイツもいつのまにか力を使い果たしていたようだ。困ったな。
「じゃあ、軽く表面に氷を張るだけでいいや。それだけやってくれ」
「はひいぃっ、喜んでぇぇっ」
喜んでなさそうな返事をしたティネを連れて、湖の直上まで飛ぶ。
わりと深い穴に、水が溜まってくれているようだ。完全には溜まってねぇな。
……湖っつーか、デカい卵型の落とし穴と水溜まりって感じだな。使えるか?
どう使おうかと悩んでいると、水の一部が浮き上がり、薄い膜のようになった。
魔法で水を持ち上げてくれたようだ。集団でバンザイしてくれてる。ダサいな。
ティネを急かして、上がってきた水の膜を凍らせて張り巡らせておいた。
これ、騙せるか? 氷を割らせて水の中に沈んでもらうのが理想なんだが……
『変なおかーさんが来たよー! 這って動くの早ーい!』
ガリガリと地面を削りまくりながら、妖竜テケテケと化したリエルママが来た。
あぁ、余裕でハマってくれそうだわ。
完全に理性を無くした感じで突っこんできてる。
落とし穴の向こう側で待っていると、そのまま地面を壊して水中に落ちてった。
「Graaaagh!?」
悲しげな声が聞こえる……強そうなのに可哀そうな奴だ。
二度も同じ罠にハマってくれる頭の悪さが敗因だな。人間様の知力の勝利だぜ。
……って、余裕かましてるヒマはなさそうだな。壁を登ろうとしてきてやがる。
「スイネさーん。水を動かして邪魔しておいてくれ。俺はトドメを刺しにいくよ」
「りょ……」
了解かな? やる気なく声をだして返事してくれた。
水流をグルグル回したりして、登る邪魔をしてくれている。洗濯機かな?
口に水を突っ込んだり鬼畜な嫌がらせもしててグッド。時間は稼げそうだな。
よーし、じゃあリエルー。帰ろっかー?
『えー? いまから逃げるのー? がんばったら、勝てそうだよー?』
まぁいいから。ついでにやってみたい事があるんだよ。軽く往復しようぜ。
『……それ、やっちゃって、いいのかなー?』
帰りたがってたのに、変なヤツだなー?
少し悩んでいたみたいだが、自在に動く線と化したモノを外してくれたようだ。
一瞬で位置が変わったぞ。
目の前に、黒い床が見える……自室だな? 放り出されているようだ。
ウノちゃんは俺を筐体から放り投げて捨ててくれていたようだ。酷い事をする。
まぁいいや。
急いで台所まで行き、武器を入手してきた。
よし、リエルー、戻ろうぜー?
『なにそれー? それで戦うのー?』
そうそう。体をブツけるなんて野蛮だからな?
次は夢とロマンにあふれる、これでいってみよう。
さぁ急いで筐体に入ろうかー。
『うぅん? もう、瞑想する必要は無いよー。じゅうぶん壊れたからねー』
ん? どういうことだ?
ザッ、とノイズが視界に広がったかと思うと、また俺は別の場所に立っていた。
……おー、異世界に戻ったの? 早くね? 便利だな?
ちょっと、区別がつかないな……? 手には回収した袋を持ってはいるが……?
周囲を見ると、なんかビビってるティネが、地面から俺を見上げていた。
「あ、あの……あなたは、お師匠様と同じ、なんですか……?」
なんか変なこと言ってやがる。どういうことなの?
『アヤトはねー、流浪の魂になったよー! わたしや黒いのともおんなじー!』
なんか変な事をリエルが楽しそうに教えてくれた。
……まぁ、いいや。多分、理解したくもなかった、オカルト知識関連だろう。
往復するのが楽ってことではあるんだろ?
とりあえず、それが分かればいい。他は、いいや。気にしないぞ、俺は。
『うんっ! そうだね! 何も気にせず、分からなくなるまでは、遊ぼうねー!』
なんかリエルが浸ってやがる。
面倒な話は、戦闘が終わってからにして欲しいモノだ。
とっとと終わらせるとするか。
「みんなー! 逃げ出しておいてくれー! 攻撃開始するぞー!」
周囲に避難勧告を送っておいた。
失敗しても成功しても、人に残っていられたら困るからな。
慌てて離れて行く連中と、水中で回転して遊んでるリエルママを確認した。
準備は出来たし、また行ってみようか!
オラー! レーシュッ! 俺を転移さっせろー!
――またですか!? どうしてあの速さで落ちて問題ないのですか!?
いいから早くしてくれー。あの素晴らしい速さをもう一度するぞー。
またレーシュが軽く転移させてくれたぞ。いろいろ慣れてきたな。
場所がクルクル変わっても、何も気にならなくなってきた。
……今いる場所は、現実だっけか? とてもフワフワした気分になってきたぞ。
「アヤトさま、なのですか……? 問題ないなんて、ありえませんよ。
先ほど落下した瞬間を確認しましたが、あなたのその体の変異は、まるで……」
るっせぇなぁ……急いでるんだから後にしてくれ。
「話は後だ、レーシュ。そういう話はウノちゃんが居る時に頼む! じゃあな!」
話を聞き流し、ダッシュで大地の端まで行ってアイキャンフライした。
『またやるのー? やっちゃうよー!』
加速させて欲しいが、今度は熱の壁を受けてみよう!
圧縮した空気の抵抗を受けて、赤熱化させた体で攻撃するのだ。
熱膨張して、俺の体が膨らんだりしたら笑えそうだな。
ところでリエルは、粉塵爆発って知ってるか?
『粉ー? 持ってるそれをぶつけるのー?』
おうとも。これを燃やして爆発させて倒すのだ。
小麦となった謎の物質を炸裂させて倒そう。
一気に燃焼させて、圧力を膨張させる事で発生する有名な爆発現象だな。
口の中で爆発させたりしたら倒せるんじゃねえかな?
これで完璧だ……!
『無理だよー? そんな変なことできないよー?』
定番の爆破演出装置に思いを馳せていると、ヤボなツッコミを受けてしまった。
えー、マジでー? やりたかったのになー。せっかく持ってきたのに残念だ。
じゃあ、真っ赤に燃える体だけで突撃してみよう。
火属性を付与した肉体での攻撃だ。愛とか勇気とか運が良ければ倒せるだろう。
外れたりしたら、もう知らない。その時は現地人の抵抗に任せる流れで行くぞ。
『ふぅん? まぁいっかー! がんばって当ててみるねー、それいけー!』
グングン体が加速して、落下していく。
冥府へ転がり落ちるように、俺の体が地の底まで堕ちていく。
地獄の鬼が手招きするように、黒いヘビが頭をもたげて俺を見ていた。
って、カッコつけてる場合じゃねえ。ヤベェな? 気づかれてないか?
このまま当たれば良いなー? 無理かな? 無理っぽいなー。
かわされたりしたら、とても困る……
穴の周囲にいた、ケシ粒みたいな連中が離れていくのが見える。
攻撃が外れても、避難してくれてそうだから、まぁいいか。
みんなスマナイ……こんなはずじゃなかったんだ……
せっかくだから、物量で攻撃してみるとするか。
小麦粉の袋をバーン! と開けた。
パラパラと散っていく粒子、これらすべてを適当にぶつけてやろう。
散弾銃みたいになるといいな? 無理があるかなー?
黒い粒が袋から出て、外に散らばっていくのを無理やり周囲に集めて落とす。
……あれ? 黒? 小麦粉って腐るんだっけか?
『ゴメンねー! 急いでやったから、中身の再現は難しかったのー!』
そっかー! それならしょうがねぇなー! 黒い方が楽だもんなー?
何だかよく分からない物質と化した小麦粉が、赤く燃えながら落ちていく。
断熱圧縮され、千度を超える熱を持った細かな粒子と一緒に降下する。
グダグダやってる内に、地上は目前となっていた。
「オラー! 冥府に返りやがれ、リエルママー!」
必殺の流星灼熱キックを当てようとしたが、スッ、と首を振られてかわされた。
学習されちゃったかー。避けるような知能あったんですねー。おのれー!
そのまま俺は、ドボンと水の中に墜落してしまった。
水底の地面に突き刺さり、軽く埋まる。
いやー、失敗失敗。残念だなー。
さて、と。やりたいことはやったし、あとは諦めて、帰ろうかー!
負けを悟った俺の頭上の水面に、ドボドボと赤熱化した粒が大量に落ちてきた。
粒が入った水は、急速に圧力を発生させて、一瞬の内に連鎖爆発していく……?
『なにこれー?』
これは、アレだなー。リエルー? 水蒸気爆発って知ってるか?
なにそれ、と言う声が聞こえる前に、爆発的な沸騰を起こした水が炸裂した。
一瞬で気化した水が大爆発を起こし、爆轟が水中全てを滅茶苦茶にかき混ぜた。
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