第34話 人型降下爆弾
上空から落下して、超高速急降下攻撃を行う事にした。
多分これが一番威力あると思う。最速で踏み殺しに行くぞ。
ニンジャボムってやつだな。それとも神の杖か?
爆発させる気はないから、人道的なエコロジー兵器ってヤツだな。知らんけど。
ピンポイントで着地攻撃するのは難しいだろう。
だが、相手は巨体だ。体のどこかに当たってくれるハズだ。
墜落してもヒビ割れだけで済む体を利用して、轢き逃げしてやろう。
きっと、楽しいぞ? それに、俺が何もしなくても勝手に終わるのが最高だ。
さぁ遠慮なく行けよ、リエルさんよー!
『おちるよー! もっと落ちるよー! すっっっごく早いよー!!』
狂気じみたリエルの喜びが、俺の心を汚染してくる。
何も考えず、重力と背後から押し寄せてくる風の加速に全てを捧げた。
人類が有する手段を超えた超常的な風の力で、音を置き去りに落ち続ける。
手を上に挙げ、バンザイしてみた。
加速するために、手の平から風を噴射してやった。
空気の幕はリエルが開けてくれている。
加速を阻むものは、もはや何もない。
触れる風もなく、空気も感じない。清々しい感覚だけが残る場所を落ちていく。
裂空の中、化け物に致命的な損傷を負わせる速度の暴力が具現化した。
高速を破壊力に転化して、ただの肉弾攻撃を兵器より強力な火力へ変えていく。
下方に小さな黒い影が見えた。細かい位置はリエルが調整していたようだ。
この身が小さな人の形に過ぎなくても、巨体を倒せる大きな威力を秘めている。
そして現在速度が大きくなりすぎて、マッハを超えて大暴走中だ。
……おい、これちょっとヤバくねえか?
降下角は、ほぼ直角。成層圏から来襲する俺の速度と火力はどれほどだ……?
あの化け物を瓦割りしてやるには十分すぎる。考えるまでもない!
だが俺にも襲ってくるだろう、衝突の威力と衝撃波だけが非常に不安だな!?
どうにかしてくれリエル様! 助けてください!
『えっとー、体の中身を、足に集めてみたら大丈夫かなー?』
俺の中身が弄られた。脚部が厚みを増して、より強靭になった気がする。
足が膨れあがり、真っ黒に染まる変化を起こしていた。
メチャクチャだな、オイ。
これならいけるか? いってみりゃ分かるか!
あらゆる虚飾が剥ぎとられた、速度だけが全ての世界に身を任せた。
世界に意味は無くなった。
見えるのは眼下の敵の姿のみ。
ここは、俺とリエルと敵だけの世界。
他の全ては速度に置いていかれた。
隕石となり、閃光のようになった俺の体が何かに激突した。
音速を超える衝撃の全てが、そこに圧縮されて叩きこまれる。
『ただいまー! おかーさーん!』
リエルの声だけを頭の中に響かせて、俺の体がどこかに運ばれた。
……真っ暗だな?
また土の中か……? 尻の下に、潰れた鱗みたいな感触があるんだが……
まさか突き刺さって、相手と一緒に丸ごと全部埋まったか?
体は壊れてねぇかな……? 多分、大丈夫みたいだ。とっとと出ちまおう。
リエルー? 上に土を吹き飛ばしちゃってー?
『はーい、いっくよー!』
リエルさんに体を明け渡して、自由に動かしてもらった。
体の各部位が正常に戻り、俺の中でリエルさんが楽しそうに両手を掲げる。
体から嵐の渦が噴出し、一直線に地上までの道を開けていく。
流石リエルさんだ、無駄なく速攻で土を吹っ飛ばしてくれたぜ。便利だな。
さて、ゾンビママはどうなってますかねーっと。
地上に戻り、軽くリエルに羽ばたいてもらって確かめた光景は酷いモノだった。
氷湖のすべてはクレーターとなり、汚い剥き出しの地面をさらしている。
飛び散った、何だかよく分からない黒い部品が散らばってるな?
俺のクッションになってくれたヤツの一部だろう。そして、その本体が見えた。
『おかーさん、半分になっちゃったー……』
そうだねー……
体の中央にぶち当たって、とんでもない衝撃を喰らわせていたようだ。
上半身が残った姿になり、前足だけの二足歩行になったゾンビが鳴いていた。
「Grrrrrr...」
体がバラバラに砕けるダメージを受けて、それでもこの化け物は生きていた。
炸裂した衝撃のせいか、ハマってた氷湖の位置から飛び出て地上に立っている。
悲しげな咆哮を放ちながら雄々しく踏み立ち、足元のティネを睨みつけていた。
「あわわわわっ……」
絶好調で攻撃していたティネが怯えている……吹っ飛ばされてなかったのか。
だがヤバいな。これから死ぬ、哀れな犠牲者役みたいな状況になっている。
「こっちこーい、踏み殺されるぞー? もしくは噛み殺されるパターンかー?」
「たすっ……たすけてくだひゃぁぁぁい……っ!」
腰が抜けてらっしゃる。助けを呼ぶなんて根性ないなー。面倒だなー。
雑に風で引き寄せた直後、上半身だけの体で、リエルママが体当たりした。
体で押し潰す方法を選んだようだ。野蛮な攻撃だな? 知能が低いなー。
「ありがとうございましゅぅぅっ……変な御使いさまの手先? でしたっけ?」
助けてやったのに、挑発してきやがった。ティネさんヤベェな? 逸材だな?
「何でもいいから離れるぞ。早く掴まれ。風噴射してエンジン代わりになってろ」
「わっ、わかりました! では早速っ、そーれ、凍れー!」
背中を俺に預けたティネが、俺の腹に接触して氷で固めて繋がりやがった。
メチャクチャしやがる。人外はこんなヤツばっかりか?
『ティネだけ変だよー。それより、早く逃げよー?』
似たような変なヤツが、俺を急かしてきた。
なに? まだ危ないのか? 最期の儚い抵抗とか、そういうのだろ?
敵を見ると、落ちてる部品から黒いモノが転移して上半身に集まっていく……
よりドス黒く染まった体を奮い立たせ、ゾンビママが俺に突っ込んできた!?
ふざっけんな! 内臓とかねぇだろ!? どうなってんだよクソっ!
「マジかよ! 勘弁してくれよ!? 逃げるぞ! あっちだ!」
「ごめんなひゃい! ごめんなひゃい! お師様勘弁してくだひゃいぃぃぃっ!」
ティネが謝りながら氷の礫を発射してくれている。コイツ便利かもしれない。
機敏な動きで迫ってくるのを上手く妨害してくれているようだ。早く逃げよう。
前足の力で素早く這いずってくる、黒い竜に捕まらないように離れていく。
よく見ると……黒竜っつーか、蛇に手だけが生えてる感じになってるな?
穴も塞がって真っ黒になって、黒い人面だらけの蛇みたいになりやがった。
首を這わせて、うねりながら迫ってくる。手もガサガサ動かして近寄ってくる。
よりキモく、強靭に進化して襲ってきたぞ。
化け物すぎて嫌になってきた。何だあれ。
『おかーさんは負けないよー! 勝てるかなー!?』
楽しそうに言ってる場合か!
チッ、あれで死なないのかよ。こうなったら最後の手段しかねぇな……
あそこに逃げるぞー。保険として用意しておいた場所があるからなー。
風を噴射して出来る限り高く飛び上がり、急いでその場から逃げ出した。
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