第31話 無駄な会議でダメにする

 元気そうなウノちゃんが張り切っている。

 状況不明で混乱する皆を納得させるために、会議が開催されることになった。

 ウノちゃんが良い感じに仕切ってくれて、俺も鼻が高いよ……


 案内された部屋の壁にもたれて腕を組み、見学してみることにした。

 リエルさんは風の吹かない室内が嫌いらしく、俺の中に入ってしまっている。

 あの場所行ったの? 気持ち悪くない? 大丈夫ー?


『居心地いいよー? ここがわたしの居場所だよー!』


 嘘くせえなー。また洗脳したりするんだろ? 楽しみにしてるぞ。


『あははっ。わかった、がんばるねー』


 こやつめ、はははー。

 心の中でダベりながら、部屋の中を見回した。


 最後の晩餐とか出来そうな感じの、長いテーブルがある大部屋だな。

 密閉された室内だが、ステンドグラスの窓から入る陽光が部屋を照らしている。

 色とりどりの光を放つ窓は、絵画のようになって物語を投げかけてきていた。


 それは、空を駆る竜の物語。尊き天空を守る竜たちが、天上より降り注ぐ悪しきモノを防ぎ、地上に漏れたモノを身をていして吸い上げて封印する物語だった。その後、人々の戦いに全てを託して、空で涙して見守っている女の姿も描かれている。


「古の予言者が遺した伝記だ」と部屋に案内したオッサンが紹介してくれたぞ。

 オチは、封印が決壊して化け物が出てきて絶望する人々の姿で締められている。

 豪華な窓だな? 割ったら気持ちよさそうだなー。リエルはどう思う?


『うん……もう、それでいいんじゃないかなー! アヤトはそれでいいよー!』


 窓の感想を聞いてみたが、楽しそうに笑ってくれた。だよな、笑える窓だよな?

 ウノちゃんも眺めているようだが、やけに浮かない顔をしてこっちを見てきた。

 気にせずボンヤリ眺めておこう。俺はもう知らない。何も関係はないぞ。


 観察して暇を潰していると、部屋の中に俺が関わった連中が集められてきた。

 愉快な討伐班の一行も何故か集まってきた。何で?

 へー、王国の最精鋭部隊だったの。この国ヤベェな。人材危機?

 え? 俺は黙って座ってろって?

 分かった。スイネさーん。遊ぼうぜー。


 二人で落ちものパズルゲーをして、ロシア民謡をBGM代わりに流してやった。


「なんだ、この音楽は……」


「おにーさんの事は放っといて話そう。生産性を下げる混乱の元だよ……」


 俺の行動にツッコミするのを諦められてしまったようだ。

 だが俺はくじけずに遊び続ける。戦場における娯楽は大事だからな。

 物理演算が加わって奇作に変化した名作ゲームを遊びつつ、マジメに話を聞く。


「全然、ブロック、消えない。ふふ……」


 それマジメに遊ぶようなゲームじゃねえぞ、スイネさん。

 だが、クソゲーをマジメにやり込む姿勢は見習わないとな。

 室内でフードを被り続けるこの子の意味不明な行動は、俺を熱くさせてくれる。

 俺も本気でやるとするか……!

 そうしてマジメに遊んでる間にも、会議は進んでいるようだ。


 ウノちゃんは、ティネさんやオッサン達から的確に話を聞きだしていた。

 俺は国名の由来にもなっているという、山の神様の使いと認識されてるらしい。

 ティネさんが普通にウノちゃんと会話して、そう言っている。

 レーシュが唯一神の世界じゃなかったんだなー。


「あの、私のお師匠さまでもありまして、グリザリエルさまって言うんですけど」


「名前は間違いないんだね? 分かった。リエルはそいつとどんな関係なの?」


 お母さんなんだよな?


『そうだよー』


「お母さんだってさー! 娘なんじゃねえのー!!」


「うるっさいよ! 本人じゃないんだね……」


 大声で分かりやすく教えてやったのに、ウノちゃんにキレられた。なんでさ。


「ひぃっ! で、でも。見た目は違いますが、気配が一緒なんですけど……」


 ティネさんが自信なさげに断言してる。

 そこんトコどうなの、リエル?


『えっとねー、化身ー? だからかなー?』


 あー、アレね。

 アバターとか分霊とか分身とか魂の一部が具現化したとか、そんなんだろ?


『えっ? 多分そうかもー?』


 違うのかな? 定番のどれかだと思ってたんだが。

 劣化した同一存在とかかもな。初対面の時は、かなりのアホの子だったし。

 お母さんはいないんだよな? 死んだの?


『ちょっとだけ生きてるよー。体はアヤトになったよー、ウノにもなってるのー』


 そうなんだー。お母さんって金属生命体なの?


『違うよー? アヤトは分かってるでしょ?』


 まぁ大体はな。見ないフリはしているが、把握できてるぞ。一応聞いてみるか。


「ティネさーん、お師匠さまの種族ってなにー?」


「ひゃいぃっ! 天から堕ちた風竜さまですぅっっ……!」


 すげえ怯えられてる。悲しいわぁ。竜の咆哮もう一発喰らわせてやろうか。

 精霊とかじゃなくて竜だったのな。うん知ってた。知恵ある偉大な竜だそうだ。

 それなら元から金属じゃなくて、竜鱗とか鍛えて金属にしてた事になるな?

 どんな魔法だよ。神かよレーシュ。神だったわ。

 ウノちゃんにも分かった情報を教えてやった。

 遠回しに数分かけて長々と。


「遅延行為やめてよ! 竜の化身と金属の元になったって言えばいいでしょ!?」


 簡潔に怒られてしまった。

 怒ったウノちゃんが、俺を無視して中のリエルに聞いてくる。


「レーシュの場所に、金属として潜り込んで変身したの?」


 話が早いな。リエルが金属を依り代に変化したって結論出しちゃったのか。

 リエルー、そうなのー?


『そうだよー、そんな感じー!』


「そう! らしい! ってさー!!」


「うるさいって言ってるでしょ! 邪魔しないでよオッサンッ!」


 叫んで返事してみたら、ウノちゃんに殴られそうになってしまった。

 低身長を生かした、えぐり込むようなアッパーカットを反らして逃げる。

 当たったらアゴが砕けそうだ。遠慮なしに殴ってきたな? ヤバいぞこの子。

 洗脳が解けてないようだな? 優しかったあの頃のウノちゃんに戻って欲しい。


 俺じゃ対処できない! 助けてリエールッ! ウノちゃんの相手頼むー!


『えー? もー、アヤトはしょうがないなー』


 しぶしぶリエルさんが俺の中から出ていって、ウノちゃんの相手をしてくれた。

 うむ、言われてみると竜の擬人化って感じだ。雄々しい緑竜っぽい部位だな。

 尻尾をやる気なくペタンペタンさせつつ、ウノちゃんと会話してらっしゃる。


「それで、結局目的は何なの? リエルは何がしたいの?」


「もう何もしたくないよー? 自由に遊べるから、後はもう知らないよー!」


「ええぇぇ……黒幕とかじゃないんだ? コレどうすればいいんだろう……」


 直接会話をしてくれているから、もう俺の出番は本当に無くなっちゃったな。

 流石リエル様とウノちゃん様だ。頼りになるなー。憧れちゃうなー。

 気分も体も軽くなって、これで安心して遊べるぜ。


 リエルが出ていった体には喪失感があるんだが、実際に喪失していたらしい。

 俺の体の内部を切り離して、リエルが体を作って出てくれているようだ。

 体を乗っ取って再構成しているらしい。便利なヤツだな。

 元の世界では魂を弄って幻覚の体っぽいのを見せてるらしい。ヤバい奴だな。


 面倒な知識が流れ込んできたせいで、色々と理解できてしまっている。

 面倒くさいな。また抑え込んでくれないかな? 今度リエルに頼んでみよう。

 なぜか協力的になってるリエルにお任せして、他の連中をからかいに行くか。


「そんな……嘘でしょう……? あの華麗なる湖の妖精さまが無様な……」


 何かブツブツ言ってるエルフが部屋のスミに居た。

 誰だっけこれ。まぁいいや。何かイラッとしたし、からかってやろう。


「我こそが竜の化身にして、湖の妖精の師匠なるぞー! 敬えー!」


「なんですの! なんなんですの、あなたはっ! 寄らないで下さいなッ!」


 自己紹介したのに敬ってくれない。

 黒いヤツを倒した功労者なのになー。

 誰も褒めてくれないなー。

 娘隊長さんなら褒めてくれるかな? パパさんの手を治した恩人だもんなー!


「ネッサちゃーん! 俺に感謝してくれるよねー! パパを治療したんだぞー!」


「そうですね、ありがとうございます。どうやって治したんですか?」


 丁寧に頭を下げて対応されてしまった。

 マジメに相手されると萎えるな……興ざめだ。

 向こうの人たちはマジメにその事が聞きたかったらしい。

 治療方法が無い、感染力の高い難病みたいなモンを治したんだから当然だな。

 教えてやるとするか。


「掃除機で吸い込んで治した」


「掃除機とは?」


 マジレスやめてほしいなぁ……

 ウノちゃん助けてー! ぷいっと目を反らされた。

 ついでに他の連中を見たが目を反らされた。

 何故か居た一般兵っぽい男にすら目を反らされる始末。

 ネッサさんは真摯な瞳で俺を見つめてくる。

 逃げ場はない、か……


 しょうがないから最後の逃げ場に頼ろう。


「教えてリエルさーん! 何で黒いの吸えるのー?」


「えっとねー、限界まで吸って、耐性があったのが、わたしでアヤトの力なのー」


 よく分からねぇなあ。

 ウノちゃーん、聞き取り調査よろしくー!

 俺は直接見て確認してくるぜ。詳しい事情は俺もよく知らないからな。

 目をつぶって、知識が流れてくる便利な魂を見にいった。

 集中して見ていると、リエルに伝えられた知識が見えてきた。なになに……


 黒い存在が世界中に降り注ぎ、皆を守るために死力を尽くして吸い込んだ。

 肉体も精神も侵され、共に世界を守った同士に裏切られ、体を弄ばれる始末。

 もうもたぬ。もはや抑えきれぬ。我が力と想いを継いでくれ娘よ。


 何か複雑な色々があったみたいだが、意訳すると、こんな感じだ。

 イヤー! 面倒! 遊びたーい! という想いで塗り潰され気味だが読めた。

 うーん、継がせるの地味に失敗したのかな。子育て失敗した末路っぽいぞ。

 耐性があると頭が悪くなるのかな? まったく酷い話だ。同情するぜ。


 苦悩する記憶の叙事詩を見物して楽しんでいたら、外が騒がしくなった。

 会議の方でも事情が把握できたのかな?

 また混乱させて遊んでみるとするか!

 目を開けると、深刻そうなウノちゃんと、どうでもよさげなリエルが見えた。


「封印してたけど、黒いのが漏れ出してる上に、体を奪われて悪化してるの?」


「そーそー。ちょっとだけ、がんばって再封印してたけど、もう限界なのー」


「湖に漏れてたりしたの? リエルは何で封印解いちゃったの?」


「放っておいても解けちゃうからねー! そろそろ全部解けちゃうよー!」


 ふたりで会話しているのを聞いていた他の連中が、何やら騒がしくなっている。

 なぜか顔が真っ青になっていたり、震えてザワついたりしてるぞ。


「じゃあ実はレーシュが黒幕? アレを呼んで事態を悪化させてただけだよね?」


「えっとねー、あのオバさんはねー、世界で一番強い部分を勝手に集めて混ぜてる悪いヤツだよー! おかーさんの体も剥ぎ取ってる敵なのー!」


 へー、そうだったんだ。リエルさんが嫌ってる方に直接聞いて確認してみるか。

 レーシュさーん。俺の体の素材ってなにー?


 ――急にどうなされました? 敵に対抗できる最高の素材を取り寄せましたよ?


 なるほど、すごいですね。この近所の山に何があるかご存じですかー?


 ――何でしょう? 分かりませんね? 創世の頃の事など覚えておりませんよ?


 そうですかー。よく見て確認しておいた方がいいかもしれませんよー。


 雑に条件付けして転移させている、偉大なる神様との交信を終えた。

 レーシュはあれだな、ボケ老人だな。何も考えてねぇわ。騙しやすいワケだぜ。

 ウノちゃんにも会話内容を伝えた。考えるのは任せたぞ。俺はもう知らん。

 リエルからも話を聞き出していたウノちゃんが、遠い目をして俺を見てきた。


「そう……みんなボケて勝手に行動してるから、酷い事になってるんだね……」


 ウノちゃんの方が事態を把握してそうだなー。便利だな、流石ウノちゃん様だ。

 話の内容を理解する気はなかったが、どうやら大事な場面っぽいな。

 俺も会議にキチンと混ざっておきたい、存在感を出さなければ。


「話は全部聞かせてもらったぞ! この世界は滅亡する!」


「……封印してたお母さんの残りの力、全部コイツに渡しちゃったんだよね?」


「そうだよー、アヤトの体がちょうどいい器だから、全部流しちゃったよー」


 無視されてしまった。ふたりで楽しそうに会話してらっしゃる。

 ウノちゃんが頭を抱えながらリエルを問い詰めている。とても楽しそうだ。


「封印の猶予ってどれぐらいあるの? お母さんを助けに行った方がよくない?」


「もう無理だよ? 使命も終わらせたから、わたしはアヤトと一緒に遊ぶよー!」


 リエルさんの独壇場だなぁ。

 みんな、リエルとウノちゃんに注目して盛り上がってしまっている。

 誰も相手してくれなくて寂しいから、もっと寂しい人と話して遊んでおこう……


 レーシュさーん? いま暇ー? 調子はどうですかー?


 暇つぶしのために声をかけてみたら、焦った声がきこえてきた。


 ――アヤト様!? 敵っ! 敵がっ……! 強大な敵がそちらにっ!


 何だか凄く楽しそうな声が届いてきたぞ。

 絶好調ですねー、レーシュさん。敵なんていませんよー。やだなー、もー。

 そうして慌てている声を聞いて遊んでいたら、どこからか地響きが鳴った。


 城全体が揺れるような、大きな地鳴りがする。

 どこか遠くから、爆発するような音が連続して鳴り響いてくる。

 部屋の中に居た全員が、慌てて外に向かって駆け出していった。

 ……みんな、慌ててるな? 地震かな? 部屋の中は危ないもんな?

 誰もいなくなった部屋の中に、リエルだけが残ってくれていた。


「リエルー、話終わったー? いまどんな感じ? どんな場面なんだコレ?」


 リエルが、優しく微笑みながら俺の手をカギ爪で掴んで引っ張ってきた。


「おかーさんが目覚めたよー、大暴れするから、逃げた方がいいよー?」

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