第30話 恐怖の襲来
リエルが人を持って飛べそうだったので、俺も飛ばせてもらった。
両翼だけが俺の体の中から出てきて、バサバサと羽ばたいて空を飛ぶ。
力強く飛んで滑空してくれているが、よく飛べるな。重くねぇのかな?
『ちょっと重いー!』
そうか。だがウノちゃんを重いなんて言っちゃダメだぞー。
俺の腕の中には気絶してるウノちゃんがいる。
落下中に勝手に気絶してたらしい。
うなされてる感じだから、すぐにでも起きそうだな。
リエルはがんばって飛んでくれているが、二人分を運ぶのはキツそうだなー。
ヒィヒィ言いながら飛んでる気がする。
なぜか、リエルは心を包み隠さずダダ漏れ状態にしてきているようだ。
ちょっと鬱陶しいなー。まぁ応援ぐらいはしておいてやるか。がんばれー。
『ぐぬー、がんばるー!』
愉快な飛行体験だが、空の旅を満喫って気分にはならねぇなぁ。
落ちてきたばっかりだしな。また落下しないか地味に心配になっちまう。
ところでウノちゃんが目覚めたら、また暴走したりしない? 大丈夫?
『ここに来て救いたいって、強く思わせてみただけだから大丈夫ー?』
微妙そうだな。ウノちゃんが起きたら確かめてみるか。
落とさないように注意だけはしておこう。気にしたくないんだけどなー。
とりあえず、お城に向かってくれー。オッサンを待たせてるからなー。
『運ぶの大変だよー!』
苦しそうだなー、しゃあねえか。俺も飛ぶのを少し手伝ってやるよー。
地面に向かって渦を弱く発射してみた。
掃除機を弱レベルで逆回転させる感覚で。
結局、掃除機のイメージになってしまったな。まぁいいか。
軽く体が浮き上がり、手のひらから弱々しい獣の咆哮っぽい音が聞こえてきた。
『おかーさんの威厳がー……』
悲しそうに呟かれても困る。
便利なんだから文句言っちゃいけませんよ。
寂しげな咆哮をまき散らしながら、家より少し高い空中を飛んで街に接近する。
住民たちがワーワー騒いでんな。まるで郊外に大穴が開いたような騒ぎだ。
『そうだよ?』
そうだね。
俺の姿を指差して震えているのもいるな。失礼な連中だ。
ちょっと渦を調節して、威圧するような咆哮音を聞かせてみた。
グオォアーって感じの良い音が鳴ったぞ。威厳あった?
『良い感じー!』
キャッキャしてくれた。良かった良かった。
咆哮音をまき散らしてやったら、街が静かになった。
何か人が倒れてるな……昼寝の時間なんだろ。多分。
と思ったら、弱い人間を恐怖で倒れさせたとか、知らない知識が入ってきた。
……気にしたらヤベエな。見なかった事にしておこう。
リエルー、見なかった事にしておいてくれー。
『えー? いいのー?』
良心とか邪魔だもんよ。
さぁ俺の記憶とかを消してくれ。壊したりできるんだろ?
『いいのかなー?』
リエルが俺の魂をゴソゴソと触ってくれているようだ。
爪でバリッと引っかかれた気がする。
危機感すら無かったな……何か大事なモノを失った気がするが、気のせいだな。
気になる事も無くなったし空の旅を満喫しよう。爽やかな風が気持ちいいなー!
『これでいいのかなー……楽しそうだし、いっかー! それいけー!』
リエルが嬉しそうにしているようだ。俺も楽しい。何も考えずに飛んでいこう。
渦で良い感じに加速ができて、お城のバルコニーまで軽く飛んでいけたぞ。
早く着けたのはいいんだが、スゲェ苦々しい顔したフォルクのオッサンがいる。
「早く降りてこいッ!
お、カッコイイ名前を付けてくれたぞ。
今度から逆回転させた掃除機の渦をそう呼ぼう。
……このまま降りたらオッサンに怒られそうで嫌だな。
リエルー、オッサンの心を狂わせたりできねーか?
『瞳を合わせるか、触らないとダメだよー』
そっかー、しゃあねえなー。
広めの客室っぽい部屋のバルコニーに、普通に降り立った。
なぜか震えている兵士連中を後ろに控えさせた、オッサンが待ち構えている。
「いったい何がしたいのだ……なぜ伝説を再現した?」
キレてはいなかったが、困惑しているようだ。
オッサンがよく分からない事を聞いてきた。
んー? 伝説って何?
『おかーさんが、この国に墜落した事かなー?』
あー、そうなんだー。
じゃ、それっぽく返事しておくか。
「これで、俺の素性を説明する手間が省けるのではないかと思いまして」
「ほぼ把握はしていたぞ? 湖の妖精殿から話を伺っていたからな」
そこに居るぞ、と紹介された。
オッサンが示す先には、居心地悪そうに控えているティネさんが居た。
水っぽい羽衣を着た、まともな妙齢のご婦人さんって感じになってる。
ただ、真っ白になってる髪で顔の左半分を隠してるな。
軽く覗く顔には跡は残ってないっぽいが、汚染されてた部分を隠したいのかな?
まぁ、元気になってるみたいだな。
「あの、グリザリエルさまの御使いさまですよね……?」
元気じゃないっぽい。オドオドしながら聞いてきた。
こんなキャラだったのかよ。コイツも威厳とか無いな。
リエルー? 出て来て挨拶してやってー。
『はいはーい』
俺の腹から、ズルリとリエルが抜けていった。
「やっほー、ティネー!」
「ヒィィィッ! ごめんなひゃいっ!!」
泣き叫びやがった。
コイツ、黒いのに憑りつかれてる時と大して変わってなかったわ。
心温まる交流を眺めつつ、近くにあった豪華なベッドにウノちゃんを寝かせた。
「その子は誰だ?」
オッサンが、ウノちゃんを見て詰問してきた。
ちょうどいいや。後は任せてしまおう。
「これが交渉役です。勇者さまですよ。がんばって起こして話してください」
「ただの気絶している子どもではないのか……?」
見た目で判断しやがったな? その通りだが。
オッサンが不審そうにしながら、ウノちゃんの状態を確認してくれている。
さて、これでオッサンの相手とウノちゃんの相手を互いに任せる事ができたな。
俺も怯えるティネさんで遊んでこよう。リエルとハサミ討ちの形になるな!
「かーっ! 痛かったなー! ツララで体ぶん殴られて痛かったわーっ!」
「あぁぁぁぁっ……! ごめんなひゃぁいぃぃっ!」
仲良くしようとフレンドリーに話しかけてみたら、さめざめと泣きはじめた。
誰だ、こんな酷いことをしたのは。
……チッ、自力で記憶を消したりはできないか。
リエルが中にいてくれないと、やっぱり面倒だな。
「ティネと、こんな話がしたかったのー?」
リエルが心底不思議そうにしている。心を読んだりしてねぇの?
遠慮せずに心底見て欲しいのになー。
しょうがねぇから答えてやるか。
「いやー、だって俺はもう聞きたいことねぇし。あとはウノちゃんにお任せだわー」
「そっかー! じゃあ、一緒に遊ぼー!」
使命感を投げ捨てた俺たちは、ティネを煽り倒して遊んだ。
竜の咆哮を喰らえー、とかやって遊んでたら、誰かに殴られてしまった。
何かやけに痛いな……誰? オッサン?
「あんたを殴って世界を救えと、あたしの中の何かが言っている気がする……」
闘志を込めた瞳を輝かせて、拳を握る少女がいた。
あ、ウノちゃん起きたのー? 元気ー? あとは全部任せたよー。
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