第28話 真の勇者の旅立ち
ゲーム筐体買い取るのに時間かかっちまったぜ。
レンタル機器だから売るの無理とか言ってんじゃねえよ、クソっ!
しょうがねぇから販売元に札束叩きつけて買ってきたぞ。
リエルを遊びに連れてったおかげで、金だけは有り余ってるからな。
派手に金を使ってタワーマンションの一室を新居にしたし、準備は万全だ。
気分を盛り上げるためだけに用意した部屋に、ウノちゃんを招待してみたぞ。
なぜか張り切ってるウノちゃんは、呼んだらすぐに駆け付けてくれた。
……暇なの? あぁ、夏休みなの。じゃあ一緒に暇つぶしして遊ぼうぜ。
やる気マンマンで家まで来てくれたが、部屋の中を見て呆然としていた。
「おにーさん何やってるの? 何で高級マンションに魔法陣とか書いてるの……」
せっかくだから、記憶していたレーシュの魔法陣を床に再現しておいたぞ。
部屋の三面を黒い布で覆って、ヤギのドクロや謎の水晶球を配置してみました。
スイネさんが着てたローブに似てる服とか、いい具合に配置出来た気がする。
芸術的な匠の技を見たウノちゃんは、引きつった笑顔を見せてくれた。
「イカスだろ? これで異世界に行けないハズがない! 完璧だ……」
「ゲーセンから行けたのに……」
緊急時に医者も呼べる素敵な住まいなのに、文句あんのかオラー!
ついでに備え付けておいた、治療キットとかも紹介してみたら感心してくれた。
備えは大事だからな。
「ある意味、本気なのは分かったよ。それで、あたしはどうすれば行けるの?」
「さぁ? どうすんのリエル?」
部屋の中で、最も強い異世界感を放っているリエルさんに聞いてみた。
一面に開けた窓から入ってくる、高所の風を浴びて気持ちよさそうにしている。
リエルは部屋に満足してくれてるな。何とかは高い所が好きってヤツだろう。
「レーシュに呼ばせればー? ちょっと余裕あるよー」
ぼんやりした助言を与えてくれたぞ。なに言ってんだコイツ?
長い髪を風でなびかせもせずに、窓の近くから俺たちを見て笑いかけてやがる。
体は大きくなったが、適当すぎる発言が変わらなくて理解しづれぇ……
翻訳係のウノさんが、いつのまにかリエルの意思を読み取ってくれていた。
向こうで俺がレーシュを説得して、ウノを呼ぶように仕向けろとの事。
できるのか? まぁ試してみるか。
「じゃあウノちゃんは、世界を救ってやるって気持ちになって待っててくれよな」
「ムチャっぽいけど、やってみるよ……その布団なに?」
丁寧に敷いてみた布団に文句をつけられてしまった。
「俺を椅子から降ろした後は、これに寝かせておいてくれねえか?」
「分かったけど……魔術っぽい部屋の雰囲気が台無しじゃん」
その辺に転がされるよりマシだろうと思って持ってきたのに、酷い言い草だな。
部屋の雰囲気を気に入ってくれたみたいだから、まぁいっか。
「んじゃ筐体に乗り込んで先に行くぜー。リエルー、後は任せたー」
「分かったー、ちょっと待っててー」
「ん? どしたー?」
「ウノをもうちょっといじるー」
準備がいるのかな? のんびり中で待っておくか。
ゴーグルを被ってゲームを起動して待っておいた。
ヒーリング環境の中でリラックスしていると、リエルさんが飛び込んでくる。
『お待たせー』
おー、了解了解。じゃあ遊びに行こうぜー。
……あれ? 俺の復帰地点ってどこになるんだ? リエルー?
『知らなーい。場所、残ってるのかなー?』
マジか。湖の底に沈んでたりしねぇよな?
不安になったが、妙に手慣れた様子のリエルが、即座に俺を異世界に接続した。
意識がブレて、元の体に戻ったような感覚に捕らわれた。
『戻ったよー! 力も馴染んだ良い体だよー!』
リエルがメチャクチャ喜んでる。
おぉ、違和感が特にない、自然な体だな……?
これ、本当に異世界についたのか?
妙な景色が見えるぞ……ちょっと遊んでやろうか。
「ここはどこだ……俺は誰だ……俺を呼ぶのは何者だー!」
草原や湖ではない室内が見えたので、叫んでみた。
現在地はよく分からない。
豪華なカーペットがある広い部屋?
玉座っぽいのも見えるな。王の間とか、そんな場所かもな。
で……俺はスゲェ注目を浴びている。
「なんだキサマはーッ!」
スゲェ数の鎧兜を装備した兵士っぽい人たちが、俺を見ている。
問い詰められてしまったが、さらに何かした方がいいのだろうか……
何かやらかすのを期待されてそうだな。期待に応えてやるとするか!
「俺は神の御使い。空より降りて来た者ぞー!」
演出っぽく風を吹き起こしてみた。
ぶわっと吹いた風が、部屋の厚いカーテンを開けてくれた。
窓の外には、見覚えのある白い街並みが見える。
ああ、ちゃんと俺が落ちた国だな。
別の異世界に召喚されてしまった、とかいう展開じゃなくて安心したぜ。
まぁ兵士の装備がフォルクのオッサンと似た感じだから、分かってはいたが。
「何を遊んでいるのだ、御使いどのよ?」
そのフォルクのオッサンが、俺を囲んでいる兵士の中に居たらしい。
兜を外して、見覚えのあるヒゲ面をさらしてくれた。
チッス、久しぶりっすね。
「注目されていたので、楽しんで頂けそうな挨拶をしようと思ったんですよ」
「そうか……」
ため息をつかれてしまった。その嘆きは飽きましたよ。
「ここは王城だ。奇妙な彫像に変化したキサマの体を、湖から持ち帰った。キサマはアヤトではなかったのか? 誰も呼んではいないぞ?」
オッサンが俺の最初の質問に律義に答えてくれた。
わざわざゴメンなさいねー。
『アヤトー? ウノのことはいいのー? 危ないから、急ごう?』
スマン。完全に忘れてた。
「呼んではいなかったが、話はしたかった。いろいろと聞きたいことがあるのだ」
オッサンが会話フェイズに入ろうとしている。
困ったな。俺には別の用事が詰まってるんだよ。
緊急事態だ、困った困った……しょうがない。やるか。
「レーシュ! 聞こえているかー! 俺を戻してくれー!」
俺が急に叫んだせいで、オッサンや周りの兵士連中がビックリしているようだ。
急に消えるのも悪いと思ったから、声に出したけどマズかったかなー?
……レーシュの反応はまだか?
――アヤトさま……!? ご無事でしたか。いま転移させますね。
お、魔法陣が迫って来た。
いやー、逃げやすくて助かるなー。
「なっ……にぃっ……! どういう事だアヤト! キサマは何がしたいのだ!?」
「すぐ戻りまーす。また上から来るんでヨロでーす」
軽く挨拶してやると、魔法陣が俺を包み込んで景色が切り替わった。
忙しいな。コロコロ場所が変わりまくるぜ。
気が付くと、手を組んで祈っている懐かしいレーシュの姿が目の前にあった。
カッと目を見開いて俺に迫ってくる。
「今までどうなされていたんですか! 心配したんですよ! 連絡して下さい!」
うるせぇなぁ……みんな俺に聞きたいことありすぎだろ。
これはやはり仲間が必要だな。
面倒ごとは全て、ウノちゃんに任せておきたい。
「すまないレーシュ。事情があるんだが……説明する前に頼みがあるんだ」
「はい……? 何でしょうか。早く敵を倒した報告を聞きたいのですが……?」
軽く聞き流して、強大な敵を見つけたから、仲間が欲しいと切々と訴えてみた。
具体的には、オッサンとかレーシュが強大な敵になりそうだからな。
ウノちゃんに敵の相手を押し付けよう。そして俺は自由に遊ぶのだ。
仲間の協力が必要なんですよ。頑張って呼んでみてくれませんか?
変な金属集めてたのは前に見てるんですよー、神様ー、お願いしますよー。
と、真剣っぽいフリをして言ってみた。
「残機として用意した分ですか? 限界だったようで少し量が足りませんが……」
「仲間は小さいから大丈夫だろう。それに召喚する感じで呼んでくれないか?」
「それは戦力になるのですか?」
心配そうに聞かれてしまった。
俺よりヤル気があるから、大丈夫じゃないっすかねぇ?
世界を救える力を持った、俺より凄いヤツだと伝えてみると張り切ってくれた。
レーシュが背丈の低い金属塊に向かい、手を組んで祈りを捧げだす。
さぁ俺の代わりに勇者になってくれ、ウノちゃん様よ。
「ではいきます……ウノさまですね? アヤトさまと同じ世界ならば容易でしょう」
ウノさまー、きこえますかー、とか呼びかけてくれている。いい調子だな。
これで大丈夫なのか、リエル?
『多分ー? 繋がりやすいように、ウノを調整したよー』
流石だなリエル様。
うん……? 調整ってなんだ……?
疑問に思いかけたが、それより前に繋がっていたようだ。
金属塊が動き出し、グニャグニャと姿を変えていく。
俺もこんな感じになってるのか。どこぞの流体金属みたいだな。
硬そうな金属が変化して、細い髪までちゃんと再現してってくれてるぜ。
だが……何だ?
金属が悲鳴を上げている気がする。
『うん。ないてるよ……』
ん、なに? 何か語り掛けてきてんの?
リエルさんは物思いにふけっているみたいだ。ボーっとしている。
何かあるんだろうが、よく分からん。俺もボーっと見ておこう。
そうこうしてる間に、見覚えある姿に完全に変わった魔法金属が動きはじめた。
「いらっしゃいました! 新たな勇者さまですね!」
嬉しそうにレーシュが微笑んでいる。
俺も嬉しい。二人プレイで楽ができそうだ。
おはよう、ウノちゃん。
そう声をかけようとしたが、ウノちゃんは突然走り出した。
ん? どしたの?
「世界をー! 救うよー! 勇者ウノの伝説がはじまるぞー!」
大声を上げたウノちゃんが大地の端まで走り去り、そのまま見えなくなった。
……落ちた?
「あら……? すごい勢いですね。流石、アヤトさまが頼りにするお方ですね!」
げぇ……っ!? レーシュが何か言ってるが、構ってられねぇ! ヤベエぞ!?
ここ、雲も見えねえし、かなり上空だよな?
落ちたウノちゃんがどうなるか、分かったモンじゃねぇぞ!?
慌てて追いかける俺の中で、リエルが申し訳なさそうに言う。
『あれー? いじりすぎちゃったかなー?』
オマエーっ! 洗脳したのかよーっ!?
『ちょっとだけ、アヤトと似た感じにしてみたのー!』
言ってる場合か! クソっ! 急いで追いかけるぞ! シャレにならねぇ!
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