第25話 お医者さんごっこ

 目の前にウノちゃんが居た。何やら熱心に手帳にメモを取ってる。

 ……えー、何で?

 目をパチパチさせてたら、さらに熱心にメモりだした。


「新しい症状かな……ググってみよう」


 俺の分析でもしてんのか? 何で筐体の中にいるんだよ。

 流石に気になってきたから、普通に話しかけてみる事にした。


「何やってんの、ウノちゃん?」


「あれ、起きたの? おはよう、おにーさん」


 普通に挨拶されてしまった。

 はい、おはよう。んで、何やってんの?

 聞いてみたら普通に答えてくれた。

 昨日は俺をキチンと見てなかったから、シッカリ俺を調べてくれたんだそうだ。

 そういえば、そんなこと頼んでたなぁ……


「数分ぐらいしてから見にきたから、全部じゃないけど……見ておいたよ」


「そっか、ありがとよ。何か面白いことでもあったか?」


「まぁ、それなりに。大したことは分からなかったけどね。じゃあ報告するよ」


 ウノちゃんがメモってた手帳をめくりだす。

 ……ちょっと待って、何ページ書いてんの?

 とまどう俺を気にせず、ウノちゃんが成果を発表してくれた。


 とりあえず、ゲーム自体は十分程度で勝手に終わっていたらしい。

 ただ、俺がいつまでも出てこないのを不審に思った店員が中を確認しに来そうになったから、ウノちゃんが慌てて連コインしてくれたそうだ。サンキュー。

 ……店員に注意されたらヤバいな。とっとと筐体買っておいたほうがいいか。


「体は睡眠中と似た動作をしてたよ。鼻と口を押さえても起きなかったけど」


 息の根を止めるつもりかよ、サンキューとか言えねえぞ。

 起きられないせいで殺される恐れがあるのか。マジヤベえな。


 ついでに、俺を椅子から無理やり降ろしてウノちゃんもゲームしてみたそうだ。

 特に変わった様子もない風景を見るだけだったから、ガッカリしたとか。

 ……その間の俺の体ってどこに置かれてたんだ?

 へー、床に放置? 踏んでみても起きなかったんだー。そっかー。

 何だその特殊なプレイは……オモチャみたいな扱いされてねぇか俺。


「あとは症状を調べてみたよ。たまに体がビクビクしてたね」


 痙攣してたのか。向こうでいろいろしてた時かな?

 気になってたら、ウノちゃんが動画を見せてくれた。撮っててくれたのな。

 スマホの小さい画面の中には、寝ながら呻いたりしている俺の姿があった。

 寝言っぽくリエルの名前とか呟いてやがる……自分の寝顔見るの嫌な気分だわ。


「脈を診たら早くなったり、血管が少し膨張して見えた。ストレスあったの?」


 あれだけメチャクチャして、その程度だったなら問題ねえか。

 リエルさん的にはどう思う?


『大丈夫、大丈夫ー』


 そう言うと思ったぜ。大丈夫っぽいけどよ。


「オッケーオッケー、問題ねぇよ。助かったよウノちゃん」


「バイト代もらったし、これぐらいはね……で、気になったんだけど」


 急に俺の手首を掴んできた。

 ……なに? また脈とか測るの?

 ウノちゃんは俺の手首を握ったまま、横に振らせた。

 スッと線が動いて、軽く風が吹く……


「これ、なに?」


 ジッと俺の顔を見てきた……

 うーん……どう誤魔化そうかな……

 悩んでいる間にも、俺の手が軽く上下に揺らされて微風が吹いていく……

 適当に言ってみるか。


「隠してたんだが……俺は人間扇風機なんだ。悪の組織に改造された過去がある」


 大体合ってる気がするし、この設定でいこう。

 ラスボス役はレーシュにしてみよう。

 リエルは裏切った敵の女幹部役な?


『何それー? 裏切らないよー?』


 ホントにー? 俺の体を乗っ取ったりしないー?


『こっちの体、乗っ取れるのかなー……?』


 やめてくれ。検討しないでくれ。

 リエルと話し合っている間にも、ウノちゃんは真剣に俺を観察してきていた。


「へー、改造されたんだ……じゃあこれも?」


 ウノちゃんは俺のセリフを軽く流して、スマホを操作して見せてきた。

 それなりに拡散されてる動画だな? 何? 道の風景?


 見ていると、見覚えのある近所の道を疾走する男の動画が再生された。

 後ろ姿しか見えねえけど、車を抜き去って走る俺の姿が映ってる……

 タイトルはスーツの怪人か……ターボジジイとかコメントされてやがる……


「これ、おにーさんに見えるんだけど? 怪人のジジイに改造されたの?」


「ごめん。そっち路線はやめてくれ。別の設定を考える」


「へー……まだあるんだけど」


 俺の反応を確かめながら、またスマホを操作しだした。まだあんの?

 競馬中継のダイジェストを見せてきた。

 伝説の神風とか、疑惑のレースとか書かれてるな……

 うん。俺がここに行ってたのはバレてるよな。


「ウチのオヤジが、リエルちゃんサイコー! って言ってたよ。リエルって誰?」


 よし、誤魔化すのは諦めよう!


「悪かった、もういいよ。勘弁してくれ」


「じゃあ、本当のこと教えてくれる?」


 ワクワクした目で俺を見てくる……俺は少女の期待に応えられるのだろうか。


「実は俺は異世界に行っていたんだ。そこで悪霊のリエルさんに憑りつかれた」


 ジト目で見てきやがった。俺を信じてくれよウノちゃん。

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