第24話 ただひとつの吸引力
鬱陶しい量の線が流れ終わり、ようやくリエルが地上に降りてきた。
「おいコラなにしたんだ説明してもらうぞリエルさんよー!」
「説明は面倒ー、実践がいいんでしょー?」
詰め寄ってみたが、無邪気に笑われて、そう流されてしまった。
「おう、それな。分かってるじゃねえか。何? 何か俺にまた能力が生えたの?」
変に輝く現象も収まって、普通に見える俺の腕をリエルが引っ張ってくる。
「ティネをどうにかできるよー。その手を当てて、試してみて?」
まだ倒れたままだった、ティネの所に連れ歩かされてしまった。
カギ爪を引っかけてくるのやめてくれねぇかな。引き裂かれそうで怖いわ。
……何でもいいけどよー。
「リエル? オマエ普通に受け答えできるようになってるよな?」
成長したのか、ちょっとマトモになってる雰囲気のリエルさんに聞いてみた。
「しらないよー、わからないよー?」
わざとらしく口笛を吹き始めやがった。
そっかー、わからないかー。口笛上手いなー。はっはー。
……俺を何かに利用するつもりか?
意味分かんねぇモン入れてきやがって……また妙なモンでも見せられるのか?
まぁいい。死ななきゃ安いだろ。
俺もリエルを利用したいから手伝ってやるか。
リエルには俺の思考がダダ漏れのようだ。瞳を細めて満足そうに笑ってやがる。
ったく、しゃあねぇなぁ。手を当てるねぇ……キモイ顔にかな?
ま、気軽にやってみるか。何が起こるんですかねっと。
ティネの黒い顔に、そっと手を当ててみると、俺の体が輝きだした。
緑色に光る俺の体の内側に、渦を巻くように動いている線が見える。
どこぞの山の中に大量に見えた線の縮小版って感じだな。何だコレ?
幾重にも重なる線の渦が、俺の手の平にまで伸び続けて音をたてはじめた。
ギュイーンって妙な音が手の平から聞こえてきた……聞き慣れた音だな……
渦が黒い部分を引きはがすように吸い込み、俺の体内に引き込んでいく。
破壊衝動っぽい感情や、憎悪を広げろーって気持ちが俺の中に入ってきた。
あーハイハイ、あれだろ?
これが魔物になる元凶とかそういうのなんだろ?
頭の悪い感情の渦だな。心底つまらねぇ。もっと複雑なモノをよこせよ。
ちょっと前にも似た感覚を味わった気すらするぞ? 気のせいかなー?
吸い続けていくと、汚れが取れる感じでティネさんが綺麗になっていくな。
まぁそれはいい。黒いのを吸ったらマトモになってくれるんだろう。きっと。
やかましい泣き叫び声を聞かされなくなるなら、歓迎したい。
だが、気になる事がある。
「リエールッ! これ掃除機じゃねえか!? 俺を家電に変えたのか!」
問題はこれだ。
人体を掃除機に改造されちまった。吸い込む音がまるで同じだ。
思わずキレて、近くで見てるリエルに大声で呼びかけてしまった。
「えー? 偉大な息吹の力だよー?」
不思議そうに首を傾げてるんじゃねえぞ。
クソダサい、サイクロン式掃除機にさせられちまった悲しみが分からんのか。
何の因果でこんなマネをしなきゃならんのだ。カッコよさの欠片もねぇ。
「どうでもいい力だな? こんなゴミみたいなモン吸える力なんていらねぇぞ」
喋っていると俺の口から黒い煙が吐き出されていく。排出口かな?
……ちょっと楽しいかもしれない。
ギュルギュルと手の平で音をたてながら、黒い体をペタペタ触って吸ってやる。
「悪意に飲まれないの、凄いのにー」
「悪意ー? しょっぱいガキが暴れてるようなモンだろ? 悪の欠片もねぇよ」
どうあがいても詰んで、殺されるような悪意でも喰らわないと驚かねぇぞ。
口から黒い吐息を出しつつ和やかにリエルと話してると、オッサンがまた来た。
「それは……浄化しているのか。その力は何だ……?」
驚き役が来てくれたが、ドヤ顔する気にもなれない。
しょぼい浄化の力を見せつけてやろう。
「掃除機の力ですよー。ついでにフォルクさんのも吸いますよ。手ぇだしてー?」
雑にオッサンの付けてる手袋を脱がしてやり、握手して黒いのを吸ってみた。
真っ黒になってた肌が白くなっていく。
手を握ってやるだけでも、結構吸えるみたいだな。
「吸われてる感覚って、どんなモンです?」
目を見開いて、美肌になっていく手を観察してるオッサンに聞いてみた。
「俺の、手の感覚が戻ってくる……? また、戦うことが出来るのか……?」
オッサンが急に泣きはじめた。その反応は困るな……
男泣きしてるオッサンと手を繋いで接近するって、嫌な体験だわ。
……大体吸ってやったし、もういいだろ。
「リエルー? 居心地わりぃから、一旦帰りたい。ゲーム中断できる?」
ボス倒したし、休憩入れるノリで中断したい。
わりと話を進めた気がするしな。シリアス展開はスキップしよう。
「あれー? ティネと話さないのー? いろいろ教えてくれるよー?」
「んなモン今度来た時でいいだろ。オッサンの泣き顔とか、見たくねぇんだよ」
吐き捨てる感じで言ってやったら、オッサンが泣きながら俺を凝視してきた。
何その顔。キレるか感謝するか悩んでんのかな……
「いいのかなー? まぁいいかー! 面倒だもんねー! じゃあ戻るねー?」
リエルが俺の体に飛び込んできてくれた。中にズブズブと入っていく。
ああ良かった。喰わなくても入れるんだな。ちょっと心配してたぞ。
体の中に、大きな重みが戻って来た感じがして一安心した。
よーし、んじゃ接続切って逃げようぜー。
『ちょっと待ってねー』
リエルが体の奥の方に進んでくれてるっぽい。
「待て、どうするつもりだ」
待つよー、ってオッサンか。そっちは待ちたくねぇなぁ。
「ちょっと帰りますんで、落ち着いておいてください。後始末は任せましたよー」
「どこへ帰るというのだ。話を聞かせてもらうぞ」
オッサンが詰め寄って来た。
面倒すぎる。早く逃げたい……
リエルー? そろそろ行けるー?
『うん、着いたー。いけるよー』
じゃあ戻してー、早くー。
『はーい』
よしよし、戻れそうだ。
俺の中に繋がってる線が、リエルの手も触れないままに勝手に抜けたのを感じた。
ん? 何か感触が色々とおかしい気がするが、まぁいいか。
「じゃ、ありがとうございましたー。グッドゲーム。また会いましょうー」
オッサンに手を振ってると、俺の金属の体が不気味に変色しているのが見えた。
緑色の鱗か? 表面がキモすぎる……
自分の体から目を反らしている間に、いつのまにか元の世界に戻っていた。
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