第16話 降下作戦
「どうやってここに来たのですか、アヤトさま……」
レーシュをおちょくって遊んでいると、疲れた声で問いただされた。
どうやったかなんて、そんなこと俺も知らねぇよ。
どうやったのリエル?
『がんばったー!』
だよなー! がんばったんだよなー!
俺の中で得意げに胸を張っているリエルさんが見えた。
「がんばってここに来た」
「どういうことなのですか……」
正直に答えてやったのに、レーシュは不満げに俺を見てくる。
あんなにがんばってたのになー。まぁ俺もちょっと気になるが。
レーシュの力とか使わずに、ここに来たよな?
『気にしないでー?』
お、おう……?
強い意志を持つ瞳でリエルが見てきた。何か圧力を感じるが……慣れてきたな。
気にしないように、考えてみるか。平行作業は得意だぜ。
複数のどうでもいいゲーム動画なんかを思い起こしながら考えてみた。
『んー? 何考えてるのー?』
遊びだよ、遊び。
『そっかー』
納得したふうなリエルさんが、俺から目を離した。
……俺から? コイツ……俺の中の何を見てるんだ……? 脳みそとか?
脳の情報処理のどこかに干渉してるのか? 陳述記憶とか弄ってねえだろうな?
リエルが何かやらかしてそうな気が凄くするぜ。
まぁいいか。気軽に観光するのが最優先だ。
遊びに行こうぜー。リエルー。
『うん! 遊びに行こー』
そーそー、何も気にせず遊びに行こー。
さて、レーシュに色々と怪しまれても困るし、サクサク進行させてやろう。
「勇者の力ってヤツで、がんばって来たんだ。敵を倒してやるから案内してくれ」
「はぁ……? お救い頂けるなら、ありがたいのですが……では、こちらです」
レーシュは納得できなさそうに首を傾げていたが、大地の端まで先導してくれた。
既に目的地の上空に辿り着いていたらしい。
空から見える景色には、雲以外の物がしっかりと映し出されていた。
地上の街が、遠くに小さく見える。
白い石畳で舗装された道路が真っすぐに伸び、道に寄り添うように建物がある。
陽光を反射するためにあるかのような、白い建物が多く目立つ。
それらの街並み全てを象徴するような、白亜の城が厳かにそびえたっていた。
そして、その光景の全てを台無しにするような緑の線が俺の目に映っている。
マジうぜえ。風が流れ込んでいるんだろうが、大量に映りすぎだ。
綺麗な中世西洋風の大都市に見えるが、線のせいで何か不気味な雰囲気がする。
線を辿ると、街から離れた場所に巨大な山が高々とそびえ立ってるのが見えた。
すさまじい渦のような線が山の奥深くに見える。
とんでもない量の気流でもあるのか……?
長く見ていると引きずり込まれそうになって、鳥肌が立つ。
山から流れている川に沿って、平地にある街が発展したんだろうとは思うが……
ヤバい場所に街を作ってるなとしか感じられねえ。
「あちらが、この辺りでは最も発展している都市ですね。この国の王都ですよ」
都市よりも山が気になる。あれの中心に敵とかいるんじゃねえかな?
『味方がいるよー!』
そっかー、いるんだー。
リエルさんが楽しそうに教えてくれた。俺にとっても味方ならいいな……
「この辺りの敵って、どんな感じなのか分かるか?」
「鳥や獣が多いようです。小型の敵が多いらしいので、練習台にはいいでしょう」
レーシュには見えてねぇんだろうな。
山の中に巨大なモノがいるような気がしてならない。
……とりあえず街に行きたいな、観光ついでに情報収集してみよう。
「わかった、じゃあ行ってみようか。ここからどこに降りるんだ?」
着陸地点はどこかと思って聞いてみたが、レーシュはきょとんとしていた。
「降りる場所ですか? ご自由にどうぞ」
うん? 俺が指定するのか。
「なら街の近くがいいな、降りられるのか?」
「この程度の高さなら問題ありませんよ。アヤトさまの力があれば完璧です!」
レーシュが俺に笑いかけている間に、空を飛ぶ大地が横に動いて街に影を映す。
下には動かねぇな……まさか、こっから行けって事か?
レーシュは何も答えてくれない。不思議そうに俺を見てくるばかりだ。
非難の眼差しを向けていると、ポンと手を叩いて説明を続けてくれた。
「あっ、戻り方の説明がまだでしたね。アヤトさまの力で飛んで戻られても構いませんが、この大地は上空に戻りますので難しいかもしれませんね。でも大丈夫です! 私に呼びかけて下さったら、ここまで転移させて戻しますよ!」
これで説明は終わったと言わんばかりに満足した表情になりやがった。
それではどうぞという感じで、手を広げて虚空を示して俺を待っている。
ええー、飛びおりんの? 転移で下に飛ばせてくれないの? 無理? そっか。
問題だらけのサポートしかしてくれねぇのな……心配だ。
『行こー!』
あっ、ちょっ、待て。
やる気満々のリエルが、俺の中で腕を振るのが見えた。
焦る俺の背後から、緑の線が押し寄せてくる。
背中を押す風に吹き飛ばされた俺は、空を飛ぶ大地から自由落下をはじめた。
「どうかお気をつけて! いってらっしゃいませー!」
メチャクチャ遠くからレーシュの声が聞こえた気がする。
空に浮かぶ丸い大地が俺の視界から一気に遠ざかっていく。
逆を向くと、下の風景が急接近してきた。
単純な命の危機が迫ってきて、頭の中が真っ白になった。
『あはははー! それいけー!』
風で加速させるのはヤメロォ! 死ぬわ!
陽気すぎるリエルの声で無理やり調子が戻されたが、どうしよっか。
暴れる風が俺の体中に当たって髪が逆立ってくる。
風の線もスゲェぶつかってきて、視覚的にも痛い。
どうすりゃいいんだこれ。
大の字になって、空気抵抗で落下速度落としたりできねぇかな。
無理だな。体をのけぞらせてみたりしても、どうにもならない。
レーシュの保証があるから多分死なないんだろうが、痛くねぇほうがいいなぁ。
顔に当る線が鬱陶しいので手で押すと、少し降下速度が遅くなった気がした。
これでいいのか?
バンバンと手のひらで地面に叩きつけるように、空気を押してみた。
ちょっと体が浮いた気がするな、なかなか楽しい感触だ。
『叩くのー?』
そうそう、落ちないように手伝ってくれ。
リエルも手をパタパタとさせて、空中を叩いてくれているようだ。
体に当たる風の線が叩き返され、下に向かって突っ込んでいくのが見えた。
軽く宙を叩いて、降下速度を落としながら眼下の街に近づいていく。
街の様子が細部まで分かるようになった時に、異変に気付いた。
白い天然石で作られていた、美しい家の屋根が次々に破壊されていく。
どこからともなく飛んでくる、上空からの攻撃を受けているようだ。
俺の落ちる先の家の屋根が、見えない何かに殴られたように弾け飛んでいく。
怯えて逃げ惑う住民たちの姿まで見える。
これは酷い……どこから攻撃されてるんだろうな。
『これ攻撃なのー?』
うん、ごめん。俺のせいだよな。叩くのやめよっか。
叩くだけで空気砲のような攻撃になっていたようだ。
地上から影のようなモノが昇ってきて、俺の中に入ってくるのを感じる。
私の家がー! 的な思念が大量に入ってきた。
わざとじゃないんだ。許してくれ……
これって嘆きの力になるのかな? 美味しい?
『美味しいよー!』
そっかー。よかったなー。
街に入る前に、思わぬ破壊行為と食事をしてしまった。
またちょっと大きくなってきてないか、リエルさん? どこまで成長すんの?
発育いちじるしいリエルの姿が見えたが、落下中だし気にしてられねぇな。
いまだに高層ビルぐらいの高さにいる俺は、自由落下を続けている最中だ。
この高さなら余裕なんだろうか? 人のいない道を狙って着地を試してみよう。
五点着地ー! 無理だこれ叩きつけられるー!?
体が潰れたトマトみたいになってしまうかと思ったが、そんなことは無かった。
つまさきから地上に降り立った俺の体が、石畳を破壊しながら埋まっていく。
ゴリゴリと掘り進み、腰深くまで土の中に埋まって停止してしまった。
どうやって抜け出そうかな、と悩む俺の前に住民たちが姿を現した。
白人っぽい連中が、俺を指差してヒソヒソと話している。
布の服って感じの衣装を着てる普通の一般人だな。話が通じるといいんだが。
笑顔で挨拶してやろうと思ったが、遠巻きに見られているだけだ。悲しい。
埋まりながら観光していると、ガシャガシャと音を立てて近づく人が現れた。
「止まれーッ! あやしい動きを見せるな! おとなしくしろッ!」
衛兵さんかな。
軽装の鎧と布を組み合わせた、イカした装備の強そうな男が走って来た。
威圧感のある兜のせいで顔は見えない。肌も隠して万全の戦闘態勢な感じだな。
その男が、長身の背中に付けていた短槍を素早く左手に持ち、突きつけてきた。
ちょうどいいな。
風で軽く男の体を引き寄せて、手を伸ばして槍を掴んでみた。
「助けてください。土の中にいるんです。引っ張り上げてくれませんか?」
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