第13話 神は言っている、敵を殺せと
はい草原に来ましたー。はい潤んだ目で見てる女がいるー。はい異世界ー。
クソったれ! やっぱこれ、現実感ねぇぞ!? ゲームじゃねえのかよ!
妙な違和感のある体を動かして、地面の草をちぎって噛んでみた。
『美味しいー?』
マズい! 草の味だ! これ異世界かー! マジかー!
立ち上がって女に歩み寄る。肩を掴んで揺さぶる。ガクガク揺れてやがる。
幻想的な気がしないこともない無駄に豪華な金髪ボディが揺れまくる。
目を白黒させてるレーシュに向かって思いのたけをぶつける。
「テメェコラこれ異世界じゃねえか精霊じゃねえだろコレ返品させろやオラー!」
「何をなさるんですか待ってください落ち着いてくださいアヤトさまー!?」
『もっとやっちゃえー!』
俺の中の声に合わせて、もっと揺さぶってやる。
わはは、揺れてる揺れてる。って遊んでる場合じゃねえな。
「待ってやる。落ち着いてやる。だから俺の質問に答えろ」
「な、なんでしょうか。急に世界から去った事など、私も聞きたいのですが……」
レーシュも混乱しているようだが付き合ってられねえ。
全部答えてもらうぜ。
俺に何をしたかと、リエルと、変な能力についてをよー。
『知りたいのー? 教えるよー!』
寝る前とかに聞いてやるから後でな!
ちゃんとした話を聞きたい。雰囲気会話だとサッパリ分からねえ。
「俺がこの世界の敵を倒してやる。そのために必要なんだ。しっかり答えてくれ」
レーシュの肩を掴んだままキリッとして見た。俺を信じて答えてくれ。
思わず色々やっちまったが、信じてくれねえかな。無理かな。
「わ、分かりました、必要な事でしたら何でもお尋ねください。アヤトさまは敵を倒すために、この世界に舞い戻ってくださったんですね!」
ちょろかった。
もしかして俺が最後の希望なのかなー、この世界詰んでねえかなー。
まぁどうでもいい。適当に喋って、とっとと情報を引き出さねえと。
「ありがとうレーシュ。必ずこの世界を救って見せる! じゃあまずは――」
何をどうやって俺を呼びだしたんだ? とか聞いてみた。
レーシュの話によると、異世界を覗く力を持った勇者の魂を呼んだんだそうだ。
波長が合って、世界を救う自負を持ってて、敵に負けない強い力を持つ勇者を。
盛りすぎじゃね? とは思ったが、それで俺が呼ばれたんだから面倒くせえな。
多分、ゲーム筐体が繋ぎやすい波長でも持ってたんだろうな。
魂に線を繋ぐイメージが簡単で、引き寄せて留めやすかったとか言ってるし。
俺の魂っぽいモノが、ケーブルっぽい線で繋がれてる実感だけはある。
コンセントみたいに魂に刺さってんだろ。うん。
『半分刺してるよー』
うーん、どんな状態なんだ? 俺に何をやってるんだ……?
リエルさんは幸せそうに笑って、俺の中で爪を打ち鳴らして遊んでらっしゃる。
問い詰めるの怖いな……他の要素考えるか……
世界はまぁ救い慣れてるしな。数百以上のゲーム世界を作業的に救ってるし。
力はどうでもいいや。俺はか弱い力しか持ってねぇし、ミスったんだろ。
一応、選ばれし勇者っぽくレーシュの相手をしておけばいいか。
「そうか、俺は呼ばれるべくして呼ばれたんだな……ありがとうレーシュ!」
「いえそんな。アヤトさまのような心強い方に来ていただけて嬉しいです!」
敵を倒さないと戻れないブラック契約させようとした女が何か言ってやがる。
勝手に呼び出しやがって、くたばりやがれと思ったが、それは置いておこう。
次は主題だな。俺に起こっている異常事態についてだ。
「風の精霊について詳しく聞かせてくれ。元の世界にまで憑いてきたんだ」
「先日お伝えした事で全てですよ? 現象が具現化した自我の希薄な存在です。風の精霊は小さな羽を持つ、人に媚びた外見をした儚い存在ですね」
世界を超えるのは想定外でしたが……とか続けて呟いているが、本当か?
言ってる事と全然違う気がするんだが。
念のために聞いてみようか。
リエルー、オマエ自我ねえのー?
『自我ー? なにそれー? ないよー?』
うーん、無いらしい。ってアホか。
絶対こういう事じゃねえだろ。
「そうか……なら特殊な個体だったのかな。元気に俺の中で喋り続けてるんだが」
「神の大地に発生した精霊ですからね。そういう事もあるかもしれませんね」
何か頷いているが、それで大変な事になってんだよー、レーシュさんよー。
頼りにならねぇな。直接見せた方が早いか?
リエルー? ちょっとコイツの前に出てくれねぇか?
『やー! そいつ嫌いー!』
チッ、駄目か。
鑑定は不可能っぽいな。他に何か情報は無いか?
「この場所に精霊以外の何かが来ることってないのか?」
神様、頼むから教えてくれ。
何かヤバいヤツが俺の中にいるんですよ。
『ヤバいのー? どこに居るのー?』
キョロキョロしても見つかんねぇぞ。
「この地は空を飛んでおりますし、結界があるので普通の存在は入られませんよ? 自然発生する精霊ぐらいしか来ませんよ」
普通じゃねえのは知ってんだよー。他に何かない?
他にセリフないかなー、と期待して待っていると、レーシュがハッとしてくれた。
いいぞ。いい情報を頼む。
「しかしアヤトさまが来てくださいました!」と拳を握って力強く言ってくれた。
そういうお世辞はどうでもいいんだよー、情報くれよー。
セリフの続きを待ったが、レーシュは期待するような目を向けてくるばかりだ。
クソっ、何も分かんねぇ。
しゃあねえ、次にいこう。
「この力を見てくれ、こいつをどう思う?」
この世界でも見えている線に沿って、手をサッと振って動かしてみた。
突風が吹き、草原が大きく揺れ出す。
草が散って、空の彼方へ飛んでいった。
便利な力なのかもしれないが、気味が悪すぎる。
何で俺にこんな能力が生えてきてるんだよ。何なんだよコレ。魔法なの?
『手伝うよー!』
リエルさんが楽しそうに手を振りだした。
風の線が凄い勢いで流れていき、風が強く吹き荒れる。
草原がばっさばっさ揺れだした。
レーシュはその光景をのんびり眺めている。
「風の力ですか? 精霊を従えて取り込み、己の力を増幅なさったのでは?」
「そうか……精霊だけの力でこういう事できるのか?」
「難しいのでは……? あ、先日の嵐も見事でした! 素晴らしい力でしたよ!」
あれなら敵も一網打尽ですね! とか言って喜んでる。役に立たねえな。
うーん。俺に力なんてないし、リエルの力だよな、これ。
リエルー、この力なにー?
『アヤトの力だよー!』
そっかー! すごいなー! 何もわっかんねえやー!
……よし、落ち着いて考えてみよう。
リエルがやってた怪しげな儀式っぽい事をする存在がこの世界にいるはずだ。
人間の……なんだっけ、恨みの力?
『嘆きの力ー?』
そう、それ。
そういうのを集める存在がいるか聞いてみよう、何かが分かるかもしれない。
「レーシュー? 人間の感情をどうこうする存在って、この世界にいるのか?」
ふわっとした感じで聞いてみると、ぎしりと音がした。
レーシュが虚空を見つめながら、きつく歯ぎしりしている。
何その雰囲気。怖いっすね。
「その存在こそ、私の愛する世界を侵す敵なのです……」
「あぁ、そう。敵なの……」
リエルー? オマエにとってレーシュって何よ?
『敵だよー!』
そっかー、なるほどなー。
リエルさんも怖いなー。何で笑ってるんですかねー。
「アヤトさま。人の悪意を喰らい、世界を汚染する敵の殲滅をお願いします!」
「……おー、まかせとけー。ちなみに、敵に汚染されたらどうなるんだ?」
「そうなると、その存在も人の感情を喰らわないと生きられない、敵と化します……人々はその存在を、魔物と呼んでいるようですね」
悔しそうな顔をしたレーシュが、何かヤバい事を言っていた。
なーリエルー? 人の感情って美味しい?
『美味しいよー!』
だよなー! 楽しそうに喰ってたもんなー!
俺も魔物になったのかな……
爽やかな風が吹きつけてくる草原で、そんな絶望的な事を思った。
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