第12話 オマエを消す方法

 説明役はどこだ! 説明はよ!

 俺の中にはヘルプ画面も何も見当たらねえ。

 何か知ってそうなリエルに聞いても、まともな答えが返ってこねえ。

 リエルさーん? 俺に何をしやがったんですかー?


『また遊ぶー?』


 やめろ! 俺の体で遊ばないでくれ!


 悪役ムーブをかまして成長したリエルは、ご満悦な笑みを浮かべるばかりだ。

 緑の長髪を凶悪なカギ爪で触りながら、俺の中で居心地良さそうにしてやがる。

 薄かった緑の服まで成長して、厚みを増しているご様子だ。

 細かい何かが積み重なった妙な服だな。肌に張り付く水着みたいに見えるが……

 その服なんで大きくなってんだよ。皮膚なの?


『格好いいー?』


 クルクル回転して、淡く輝く服を見せつけてきやがった。うぜぇ。


 クソっ! 馬鹿話してる場合じゃねえ。俺に何が起こったのか早く調べねえと。

 病院に行くよりヤバい気がするが、背に腹は変えられねえ。

 微妙に足が震えるが仕方ない。

 あのワケの分からない場所へ行って、まともな会話と説明を受けなければ……


 俺は、もう一度あのゲームセンターに行くことにした。

 死亡体験した場所からは目を反らしていたかったのだが、逃げていられない。

 説明役の心当たりが一人しかいないからな。

 俺の体に起こっている異常の原因を教えてくれよ神様。

 可視化された風の線らしきモノを動かさないようにしながら、急いで向かった。


「あっ、おにーさん。また来たの? もう体は平気?」


 ゲーセンに入ると知らない女児が心配そうに話しかけてきた。

 いや知ってる女児だったか。確か名前は……


「おう、オマエいつもいるな。俺は絶不調だよウノちゃん。助けてくれ!」


「なに言ってんの……昨日おびえてたのは何だったの、病院いきなよ……」


 あいさつしてやったらドン引きされた。なぜだ。

 だがせっかく会えたんだ、少し手伝ってもらいたい。


「俺はゲームをしなきゃならないんだ。だが不安でたまらない。見ててくれ!」


「わかった、ビョーキなんだね。他のヒトに頼んでよ」


 処置無しみたいな顔して立ち去ろうとしやがった。

 逃がさんぞ……ウノちゃん……

 立ち去る背中を引き寄せるように、くいっと手を動かしてみた。

 妙な線が動き、風に煽られたウノちゃんが俺に向かってよろけてくる。


『上手上手ー!』


 そうかそうか。使い方とか詳しく教えてくれねえか?


『よく分からなーい』


 そうか。やっぱ聞きに行かなきゃならねえよなぁ……

 脳内で話している間に、俺の近くまで来ていたウノちゃんの肩をしっかり掴む。


「よぉ来たのぉウノちゃん! 助けてくれるって信じてたぜ!」


「ちょ、離してよ。別にあんたの所に来たかった訳じゃ……なに、今の風……?」


 混乱中のウノちゃんの腕を軽く掴んでやって、あの筐体の方へ引きずって行く。


「スマン。四の五の言ってる場合じゃねえんだ。マジで困ってるから助けてくれ」


「マジメな話? ゲームぐらいなら別にいいけど」


「だよなぁ、ゲームなら良かったよなぁ……」


 ゲームをやってたつもりだったんだがなぁ……

 普通に考えて……っつーか、異常に考えると……あれって別の世界だよな。

 よくある定番のヤツ。本やら夢やらモニターやらに飛び込む感じのヤツだろ。


 俺が急に幻覚と超能力に目覚めた可能性を考えたが、そっちではなさそうだ。

 この場合は肉体か精神が転移したとか、そういうファンタジー系だろうな。

 こんな非科学的な事、考えたくも無かったんだがなぁ……

 これ以上科学的に考えると、水槽の中の脳みそパターンを疑う事になっちまう。

 非科学方面に期待したいところだ。VR仮説だと俺個人で対処できねぇぞ。


『色々あるんだねー』


 そうだねー! ……脳内にいるヤバいヤツに感心されてしまった。

 リエルの正体が電子妖精系だったらどうしようかな? どうしようもねぇな?

 頼む! 安っぽい気軽な異世界であってくれ! 電脳とか終末幻想系は嫌だ!


 まぁ考えていてもしゃあねえ。

 異世界っぽい場所に行って確かめてみるか。

 実は死んでる可能性もありそうで怖いから、ウノちゃんに体を見ててもらおう。


『アヤトは死なないよー?』


 保証してくれてありがとうリエル。逆に怖いぞ。


 さて、問題のゲーム筐体だ。

 見た目は乗り込む系のモノ。よく見るとポップがベタベタと貼られている。

 ヒーリング! リラックス! 的な単語がベタベタと。

 何で昨日は気づかなかったんだ俺。


「このゲーム? 昨日へたりこんでたのって、これが原因だったの?」


 ウノちゃんが不思議そうに見ている。俺も不思議だよ。


「俺がこのゲームをやってる間に、どうなっているのか確認して欲しいんだ」


「どういうこと? なんとかショックみたいな病気になったの……?」


 そうそう。メガショック的なあれな。凄い何とかを連れて帰ろうじゃねえよ。

 マジで連れて帰らせるんじゃねえよ、ショックすぎるわ。

 ウノちゃんには俺の脈とか測って欲しいんだが無理かな。軽く頼んでおくか。


「まぁ色々変な事になるんだよ。俺がどんな症状になるか見ていてほしい」


「想定外の頼みすぎるんだけど。ビクビク痙攣してる姿なんて見たくないよ」


 ウノちゃんが嫌そうにしてる。どうやって言いくるめようかな?

 悩みつつ筐体の扉を開けて、中の椅子に座ってみる。

 中のポップや取説もつまんねぇ事しか書いてねえな。

 ふーむ……紙袋が邪魔だな。これで頼んでみるか。


「礼はするぜ。終わるまでコレを預かっててくれよ、中身を分けてやるからさ」


 どうせ、あぶく銭だしな。

 俺の命の重みをこれで感じてくれよウノちゃん。


「これって競馬の袋じゃん。あんたもギャンブル狂いだったのかよ……」


 紙袋に描かれているマスコットキャラを見て正しく指摘してきた。

 何で知ってんだよ。女児に見えたが、もしや伝説のロリババアだったのか?

 ウノちゃんは紙袋の中身をチラっと見てビビってた。


「ちょ……! なにこの大金!? あたしより銀行に預けてきなよ!?」


「そんな金よりヤバいことになってんだよ。頼むから見ててくれ」


 これでちょっとはマジメに見てくれるだろ。

 ……持ち逃げされたら笑えるな。

 VRゴーグルを被る前に、スマホを筐体のスミに置いて動画も撮影しておく。

 これで準備はいいか……? イマイチ不安だな。出来る事は全部やっておくか。


『また繋がるのー?』


 そのつもりだが、マズいか?


『大丈夫ー、いつでも外せるよー』


 そうかい、今度は優しく頼むぜ。

 俺の中のリエルは不安そうにしてないから大丈夫だろう、多分。

 すごく不安そうな顔で俺を見てくるウノちゃんに、最後にひとつ頼んでおく。


「一時間たっても俺がゲームを辞めなかったら、無理やり起こしてくれないか?」


 長時間待たせるのは無理だろうが、これぐらいなら頼めるか?

 ウノちゃんは悩んでいたが、紙袋の中から万札を一枚だけ抜き取って頷いた。


「……わかった。バイト代にこれだけ貰うよ。ヤバい金じゃないよね?」


 ヒュー、カッコイー! クールに言ってくれるぜ。

 万札持った女児ってポルノに違反してるっぽくて最高にイカスな!


 そう口に出してウノちゃんで遊んでみたくなったが自重した。

 俺は我慢が出来る子だからな。今度、余裕がある時に言ってみよう。

 じゃあ、不安を我慢して普通にいってみるか。


「それはヤバくない金だよ。ヤバいのはこのゲームだけだ」


 コインを叩き込み、深呼吸しながらVRゴーグルを被る。

 震えそうな指先を抑えながらスタートボタンを押した。

 爽やかな草原の映像が流れだし、柔らかな風が俺の肌を撫でるのを感じる。

 ……この後、どうしたんだっけな。

 何かそのうち声が聞こえてきた気がするが、こっちから呼んでみるか。


 ――レーシュ! きこえるか! きこえてんだろうがオラァッ!

 とっとと俺を呼べ! そしてこの状況を説明しやがれボケェッ!


 心の中で、しっかりとあの女を想像しながら切実な思いを込めて呼んでみた。


『きこえてるみたいだよー! ビックリしてるー!』


 それならよかった。楽しそうなリエルさんのお墨付きを頂いたぞ。

 この調子でいいのか。余裕だな。

 俺の思いよ、異世界まで届け!

 レーシュを罵倒しながら待っていると、焦ったような変な声がきこえてきた。


 ――アヤトさま!? ……ご無事だったのですね……いま繋げます……


 魔法陣が俺を包みこむのを感じる。

 この五芒星の図柄も覚えておきてぇな。どっかで解析とかできないかねぇ。


『ちょっと緩めに繋げておくねー』


 おうサンキュー、リエルー。


 ククク……今なら分かる。

 あのふざけた線が俺の中に繋がった感覚がハッキリと分かるぜ。

 待ってろよレーシュ! 異世界の勇者様が質問しに行ってやるぜ!

 特に決意とかは無く、必要に迫られただけの俺の精神が異世界へ向かった。

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