第11話 悪食呪歌
現金を満載した紙袋を持って競馬場から出た。
いやー、勝った、勝った。夕飯はトンカツかチキン定食でも喰うか。
昼飯も競馬場グルメで適当なモンを喰っちまったが、好きに喰おう。
いろいろ喰ったんだが、やたらと腹が減ったままだからな。
勝利の立役者のリエル様にも何かあげねぇと。
……つか、何も喰わせてなかったな。
俺がメシ喰ってる間も、その辺飛び回ってたからなあ。
食事する必要あるのかなコイツ。
「リエルー? メシって何を食べてるんだ? 風でも喰ってんのか?」
遊び疲れたのか、俺の肩の上でぐったりしているリエルに聞いてみた。
「ごはんー? まだたべてなかったー……」
喰ってなかったらしい。
リエルをよく見てみると、顔色が悪く、呼吸も弱くなってるような雰囲気だ。
翼がしおれたようにペタリと張り付き、尻尾もぐんにゃりしていた。
疲れてただけかと思っていたが、食事抜いたせいで貧血状態なのか?
っと、考えてる場合じゃねえな。
「おいおい、早く言ってくれよ。何を食べたいんだ? それとも病気か?」
路地の壁際に寄りかかって、リエルを手の上に乗せた。
リエルが弱々しい瞳の輝きを見せながら、呟くように語ってくる。
「ちょっと、がんばりすぎちゃったー……」
「あー……力を使いすぎたとか、そういうあれか? 寝たら治るか?」
「ちょっと、むりかなー……きえちゃいそー」
リエルは首を横に振りながら力なく言ってくる。
いきなり何を言い出すんだ。
消えるなら、ありがたい……とは、もう思えねぇな。
こいつは金のなる木だからな!
……それに、遊び相手が急に消えるのは胸クソ悪い。
勝手に消えるのは許さねぇし、逃がさねぇぞ。リエルちゃんよ。
「喰いたいものか、消耗を抑える方法を早く言え。どこに居ると気分悪いんだ?」
「そとにいると、ちょっとくるしい?」
こいつアホか、早く言え。
「エアコンの中がいいのか? その辺の店にでも行くか……」
動こうとしたが、リエルの小さな口が開くのが見えた。
「アヤトのなかが、いいなー……」
そっちかー。
まだ何か怖いんだが、しょうがねぇな。
頑張ってくれたからこうなったみたいだし、俺も気張ってやるか。
「分かった。んじゃ喰うぜ?」
「んー……」
夕飯はリエルの踊り食いになってしまった。
いただきます、と心で唱えて口の中に放り込む。
喉の奥から、俺の中のよく分からない場所にリエルが入りこんだのを感じる。
じくじくと古傷が痛むような感覚が響く。
……あの場所か。
目を閉じて集中してみると、俺の中にいるリエルが見えた。
ボンヤリ座り込んでるみたいだが、大丈夫か?
『だいじょうぶー』
おう、そりゃよかった。
そこに居れば元気になるのか?
『えーっとね……』
何かキョロキョロしてやがる。何してんだよ?
『ちょっと、まっててー』
えー……何するつもりなんだよー……
俺の中でヨロヨロと動くリエルを眺めていると、何かを見つけて近寄っていた。
なんだぁ? ……気になるが、見づらいな。フリーカメラモードとかないか?
気合いを入れてみると視点を動かせた。
拡大縮小もできていい感じだ。流石俺の中。
リエルは俺の中に転がっていた、緑の宝石のような玉を手に取った。
中央が光の帯のように見える、キャッツアイみたいな玉。
クリソベリルって名前が好きで覚えてた宝石に似てる。
最近どこかで見た気もするな……リエルの瞳に似てるな? 何だそれ?
『いれておいたー』
そうですか、何してやがるんですか。
『これで、あやつれるよー』
……何をよ?
俺の中で玉を掲げたリエルは、翼をパタパタさせながら何か喋りだした。
『えーっと……われにのろわれしにんげんよー。
ぜつぼーと、えんさをそのみにくらい、あらたなちからをやどせー!』
あやしさ満点の事を言って玉を握りつぶしやがった。おい待て。
カッと輝きを放ちながら玉が崩れ、中から気色悪い物体が出てきた。
悲しそうなオッサンの顔の形をした影が大量に出てくる。
女性っぽい顔も少しあったが、大半はオッサンだ。
影たちは悲しげな声を俺の中で響かせて縦横無尽に飛び回る。
金返せー的な思念が、渦を巻いて俺の中で暴れているのを感じる。
ちょっと待て! 何してくれてやがるんだリエルさんよー!?
『ふはははー! すばらしいぞー、にんげんどものなげきのちからー!』
ダメだ、聞いちゃいねえ。
リエルは何やらカッコよさげなポーズをとって叫んでいる。
両腕を横に広げて指を空に伸ばす、調子に乗ってるヤツがやりそうなポーズ。
悪役かな? 変な覚醒イベントを俺の中でやらないでくださいませんかねぇ。
あきらめ気味に眺めていると、影が俺の中にドスドスと突き刺さり崩れていく。
痛みとかは感じないが、変な気分だ。直球で恨み言をぶつけられてる気分。
つまらないファンメールを読んでる気分にもなるな。
怨念に面白味が感じられない。出直してこい。
それより気になるのはリエルだ。少しずつ体が大きくなっていってる。
多分、このよく分からないものを吸収してるんじゃねえかな……?
比較対象が無いから分かりづらいが、身長が地味に伸びていってる。
翼が雄々しく広がって、つやのある尻尾が喜ぶようにビタンビタンしてやがる。
爪とか分かりやすく伸びてるな。何か鳥っぽいカギ爪みたいになってきてる……
よく分からんが、リエルが元気になったし楽しそうにしてるから、まぁいいか。
見てるだけで、お腹いっぱいな気分になったわ。
……これ眺めててもどうしようもねぇなぁ。暇つぶしながら待っておくか。
ゲームでもして待つかと思い、閉じていた目を開けると妙なモノが見えた。
街に漂う何かのエフェクト……?
薄っすらと周囲に漂う奇妙なモノを見てしまった。
緑の薄い線が、空中をジワリと動き続けている。
プロジェクションマッピングかな? 迷惑なモンを映しやがって……
うざったく感じて、手を振って払うようにしてやると、線が素早く動き始めた。
線の動きに合わせたかのように、いきなり突風が吹いた。
道に転がってたビニールゴミが風で吹き飛び、手を振った方向に飛んでった。
涼しげな風が、線の動きに沿ってどこまでも吹いていく……?
……なるほど。そういうあれな。分かった分かった。はいはい。なるほど?
怪現象を眺めて混乱していると、俺の中から能天気な声が響いてきた。
『これでアヤトも一緒に遊べるようになったー!』
……おう、それな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます