第9話 悪意の東風

 やたら懐いてきたリエルを連れて街に出た。

 しきりに遊ぼうと誘ってくるが、コイツ相手に対戦ゲームとかできそうにねぇ。

 ワケわからねぇ遊びをいきなり提案されて、実行されたりしても困る。

 家を破壊されるワケにはいかねぇから、外に出たワケだ。


「どこいくのー?」


「さぁなー、わからないなー」


 よく分からんが、急いで遊びに行かなきゃならない気分にもなったからな……

 雑にスマホを二台使ってソシャゲやらの日課をこなしながら歩く。

 リエルは俺の肩から興味深そうに見てきた。


「それはあそびー?」


「いいや? 苦行だな。もしくは人生だ」


 楽しい要素のない、クエストとかデイリーとかイベントとか周回の消化だな。

 ポケットに突っこんだままでも出来る作業だが、せっかくなので見せてやる。


「ふーん……」


 戦闘画面はそれなりに楽しそうに見ているが、他はよく分からないみたいだな。

 だんだん画面から目を離すようになり、パタパタと翼やら足やら動かしている。

 ゲーム動画見て満足できるタイプなら楽だったんだが、無理そうか。

 リエルは一緒に遊べそうに無いと分かると、俺の周囲を飛び回りだした。


 うぜぇ。つーか、こいつ見られたらヤバくねぇか?

 通行人の目線を見てみると、リエルは一切気にされてなかった。

 両手でゲームやってる俺の手元の方ばかり見られてるっぽいな。

 俺の脳内妄想説が再浮上してきそうだが、リエルが見えねぇなら都合がいいか。


「んで、リエルは何をしたいんだ?」


「いっしょにあそぶのー!」


 何ひとつ把握できねぇぞ。

 何に興味があるかも分からないから、適当に聞いてみるか。


「普段はどんな遊びしてんだよ?」


「わかんないー」


 マジかよ。切ねぇな。

 ……言語化できてねぇだけだろうが、面倒だな。

 まぁいい。ガキと遊ぶのは手慣れたモンだ。


「負けてるヤツ相手に、がんばりましょう。って励ましてやる遊びとかどうよ」


 定型文煽りするガキの事しか思いつかなかった。

 まともなガキの遊びって何だっけなぁ……


「たのしいのー?」


 知らん。

 俺は手軽な煽りなら屈伸運動する方が好みだ。

 興味ありそうだし、楽しいと言っておくか。


「わりと好評だったぞ。楽しいお返事がいっぱい送られてきたからな」


 冗談で言ってみたが、リエルは真剣に悩んでいるようだ。

 そして、いきなり通行人の耳元に飛んで、ボソボソと話しかけはじめた。


「がんばれーがんばれー」


「ひゃあぁっ! なに、だれ? えっ、幽霊……?」


 声は聞かせられるのか……?

 それとも風だけ送ったのか……?

 気味悪そうに遠ざかる通行人に向かって、リエルはケラケラ笑っていた。

 まさか煽りの才能を持っている? リエル……おそろしい子!

 俺は保護者として、この微妙すぎる才能を開花させてやらねばならない。

 俺以外の誰かに興味を持って離れて行っておくれ。


「なかなかやるな。反応見るのは楽しいだろ?」


「ちょっとたのしい? でも、はやいほうがいいー!」


 遠ざかる通行人に向けて、追い打ちをかけるようにリエルが腕を振った。

 風がザワつき勢いを増す。

 風に背中を押された通行人が自然と駆け足になり、急に走り出して消えてった。


 ……あれ、俺が昨日やらされたヤツだな。

 リエルは悲鳴を上げて走っていく哀れな犠牲者を満足そうに見送っていた。

 これはヤバいな。

 俺に被害が及ばねぇうちに、まともな遊びを覚えさせなければ。

 風に煽られるのはゴメンだぞ。


 まぁ今日の所は、とりあえず俺以外の何かを走らせて遊ばせとけばいいか。

 遊ばせている間に、普通に興味持てそうなモン探しておけばいいだろ。

 俺も見て楽しめそうな遊びはいくつか思いつくが、良さそうなのはアレだな。


「だいたい分かった。じゃあリエルが楽しく遊べそうなトコに連れてってやるよ」


「ほんとに! いっしょにいくよー!」


 わーい、とか言いながら、また俺の肩に乗ってきた。

 そして俺の後ろに向かって、軽く腕を振り上げ始めたのを慌てて止める。


「待ってくれリエル。ゆっくり行こう、な?」


 潰さないように指先で軽く押さえつけてやると、素直に腕を降ろしてくれた。


「わかった、いっしょだからねー」


 言う事を聞いてくれるのはいいんだが……

 リエルに笑顔で見つめられると、何やら寒気がする。

 猫の目っぽいリエルの瞳が、変な圧力を放っているような気がする……

 何かに睨まれているカエルになった気分になりながら、早足で目的地に急いだ。

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