第6話 俺の中の嵐
戦闘終了したし、話が進まないかなーと思ってレーシュを見続ける。
視界の中にリエルがチラチラ映ったり離れたりして地味に怖い。
リエルさん? オマエどこに隠れてんの?
『おくのほー?』
どこなんだよ、
脳内で会話していると、満足気に空を眺めていたレーシュが俺に振り向いた。
「羽虫のような精霊に頼るのかと不安でしたが、これなら何とかなりそうですね」
「救済措置に頼る勇者さまでスイマセンね」
普通なら素手で倒すべき敵だったんだろうなとは思ったが、そこまで言うか。
毒舌評価に心の中でブーイングを浴びせておく。
『ぶーぶー?』
うん、そう。親指を下に向けて元気よく言ってやってくれ。
ぶーぶー! と、楽しそうな声が、俺の中のどっかから聞こえてきた。
姿はやっぱ見えねえな……
俺の中の頼れる羽虫ちゃんは、いったいどこにいるんだろう。
「それでは、これから敵の中心地に殴り込みに行きましょう!」
「いや待て待て待て。ちょっと待てよレーシュ」
急展開すぎる。
一戦しかしてねえのにラスボスのトコ行かされるのか?
そういうゲームは……結構やったことはあるが、いろいろキツすぎる。
俺は高難易度ゲームを求めてるワケじゃねえんだよ。
楽しく遊ばせてくれ。
「そんなに急ぐ必要は無いだろ。俺は始めたばかりなんだぜ」
「しかし……アヤトさまには一刻も早く、敵を根絶やしにして頂きたいのですが」
急いで遊びたいと思った意思でも反映されちまったのか。
それとも作り込みされてる代わりに、一本道の短いゲームなのか?
別ルートがあることを期待して試しに説得してみようか。
「負けたら終わりなんだろ。もうちょっと弱い敵と戦わせて練習させてくれよ」
頼むから俺のヘタレ根性に応えてくれ。
「……確かに、少し
レーシュは唇を噛んで悔しそうにしながら応えてくれた。
そんなに嫌かよ。
『アヤトはヘタレー?』
泣くぞおい。オマエも罵倒してくるのかよ。
「まぁ残機増やすとかレベル上げするとかしてから、じっくり行こうぜ?」
俺の言葉を聞いたレーシュは、しきりに頷きながら呟いている。
「残機? 別の体ですか? ……再度集めれば出来るのでしょうけれど」
悩みはじめやがった。面倒なヤツだな……
ネットで攻略情報漁った方が早そうな気がしてきたぜ。
一時中断とかできないのかね。
取説も読んでおいたほうが絶対いいだろコレ。いまさら後悔してきたぞ。
『なにかんがえてるのー?』
あー? このゲームを楽しむ方法を考えてんだよ。
『そっかー』
声だけが体の奥から響いてくる。本当にどこにいるんだコイツは。
リエル相手に話していてもしょうがねぇな。直接聞いてみるか。
「レーシュー? いったんセーブして終わりたいんだが、どうすりゃいいんだ?」
「救いを終える方法ですか? 敵を殲滅して頂ければ元の世界に戻りますよ」
「なんだそりゃ……」
気軽に酷いことを言ってくれやがる。
いよいよマゾゲー度合いが増してきたな。
ノーセーブプレイとかやってられねえぞ。つーか何時間かかるんだよ。
『もどりたいのー?』
そだよー、もどれないとか言われて困ってんだよー。
死ねば終わりなら、身投げしてゲームオーバーになった方が早いか?
とか考えていたら、視界に映っていなかったリエルが、俺の中の何かに触れた。
『これでつなげてるみたいだよー』
……オマエ、いま何に触った?
俺の鼓動が高鳴った。
俺の魂が、それに触れさせてはならないと叫び出す。
狂ってしまいそうな不安感に包まれた俺は、その場にうずくまる。
「アヤトさま? どうなされました?」
レーシュが屈みこんで見てくるが、相手をしていられない。
俺の中の無邪気な声が、楽しそうにそれをペチペチと叩いている。
『かたいねー』
おいやめろ、おい。
それは、何かの線だった。
説明されなくても、不思議とそれが何かが分かる。
危機感と共に伝わってくる。
それは、俺が俺であるための全てが繋がれている、意識と魂の線だ。
線を叩かれるたびに、俺の全身がビクビクと悶える。
リエルが俺の中で楽しそうにわらっている。
『これ、きっちゃおっか?』
ころされてしまう。
「これは……! 拒絶反応!? どうして!?」
どうしてなんだろうな。わかりたくねえな。
命の危機に怯えて目を閉じて集中すると、俺の中のリエルの姿が見えてきた。
俺の大事な線の前で、手を掲げて風の渦を巻き起こし始めている。
まさか、風で引きちぎるつもりか……?
『それもおもしろそー!』
しまった。想像してしまった。
リエルが腕をグルグルと回し始める。
俺が想像した通りに、小さな腕に旋風の渦をまとわりつかせていく。
俺の中で風が竜巻となり、暴風と化して荒れ狂う。
リエルはとても楽しそうな顔で、腕にまとわりつかせた脅威を引き絞った。
『いっくよー!』
ああ、死ぬわ俺。
真っすぐに突き出したリエルの腕から破滅の風が解き放たれた。
『さいくろんぱーんち!』
回転する暴風の渦に飲まれた線が削られ、引きちぎられていく。
「ヒィギャァァァアアアッ!!」
俺の断末魔の絶叫が聞こえてくる。
体の鼓動が停止して、意識が千切れて消えたのを、どこかの暗闇の中で感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます