第5話 雲雀東風
俺の内に風の力が広がっていく。
緑の気を
そう、今の俺は精霊の力を使えるのだ。行くぜ!
「エアカッター!」
しかし何も出なかった。
気が出ていたのはモチロン気のせいだ。
俺の中のやる気ゲージがグングン下がっていく。
苦情はどこに言えばいいのだ。こいつか。
「レーシュさんよー、何も出ないんだが、どーなってんだよー」
なぜか困った顔をしていたレーシュが慌てだした。
「取り込めなかったのですか? それでは、己の中にいる精霊と話してください」
「話だぁ……?」
「自我などあってないような存在ですからね。素直に応じると思いますよ」
会話して仲間にしろってか?
中ねえ……どっかにいるのかな。
おーい、精霊さんよー?
『なにここー?』
おー? いるのか?
頭の中で考えていたら、目の端から何かちっちゃいのが出てきた。
さっき飲み込んだヤツだな。こんにちは。
『こんにちはー』
手ぇ振ってきている。
……思考で話せるのか? 何だコレ。
ニコニコ笑う精霊とやらが、よく分からない場所からこっちを見てくる。
可愛らしいが、勝手に喰われたのにオマエはそれでいいのか。
『キミはだれ?』
俺はアヤトさんですよ。そういうオマエは?
『リエルさんですよー』
まぁ、普通に話せるかな。
ちょっとリエルさんに手伝って欲しいんだよ。
『わたしはリエルだよー、キミはアヤトさんですよー!』
笑いながら視界の中を飛び回ってやがる。
なるほど、馬鹿にされてるんだな?
「話せるが、会話できそうにないぞ」
「翻訳は出来ているはずなのですが……要求を伝えて従わせてください」
要求ねえ……考えている間にも、鳥が突っ込んできて俺の体にぶつかってくる。
なぁ、あれを何とかしたいんだけどよ。リエルが何とかできねえか?
『あそんでたんじゃないのー?』
ちがうよー? 戦闘中なんだよー?
まあ戦闘っつっても、ゲームやってるから遊びみたいなモンか。
軽く考えていると、リエルが楽しそうにはしゃぎだした。
『それ、どんなあそびー?』
おっ、気になるか?
風の精霊なら、風の力みたいなモンをガッと叩きつけたりできないか?
『こうかなー?』
ついっとリエルが腕を伸ばすと、鳥がグラリとよろけた。
腕の動きに連動して、突風が吹いたのか……?
急に風圧でも喰らったような動きを見せた鳥が、驚いて周囲を見ている。
そうそう、いい感じだぜ。それを何度かやってみてくれねえか?
『あんまり、たのしくないねー』
マジかよ。どんなのが好みなんだよ?
『びゅーんって、とぶほうがたのしいよー!』
そう言ったリエルは、鳥に向かって手を伸ばした。
何かを掴むように小さな拳をぎゅっと握ると、鳥が空中で停止した。
オイ? 何するつもりなんだよ、リエルさん?
『いっけー!』
リエルが俺の視界の手前に向かって、思い切り拳を振り下ろした。
急加速した鳥が、俺に向かって吹っ飛ぶような勢いで突撃してくる。
鳥が羽を広げたまま一直線に、混乱した顔を張り付かせたまま突っ込んできた。
「くケェェえええ!?」「ぐえー!?」「アヤトさまー!?」
容赦なく俺の体に突っ込んできた鳥は、ぶつかった後に地面に落ちて気絶した。
突撃を腹に喰らった俺も思わず倒れてしまった。
心配したレーシュが近寄ってきた。
ぐぇぇ……自爆攻撃を無理やりさせた感じか……地味に腹が痛い気がするぜ。
『あははははー!』
俺の視界の中でリエルが爆笑してやがる。
こいつ精霊じゃなくて悪霊か何かだろ……
「何をなさってるんですかアヤトさま!」
「会話の流れでこうなった……だが、勝ったぞ……チクショウめ」
近くでぶっ倒れている鳥野郎を足で踏みつけてやる。
なんて面倒な戦闘なんだ。
まともに戦った気がしねえぞ。
『たのしかったー?』
笑いを止めたリエルが首を傾げて聞いてくる。
うるせえよ。勝てたのだけは、良かったかもな。
『よかったー!』
そうだね。戦闘終了。グッドゲームだよ。チッ。
「それで、こいつをどうすればいいんだ?」
脳内で中身の無い会話をするのは止めて、鳥に関してレーシュに聞いてみる。
レーシュは俺を見て微笑みながら、物騒な事を言ってきた。
「滅してください」
「お、おう……?」
「チリひとつ残さないように消し去ってください。それは汚らわしい敵です」
親の仇でも見るような視線で、倒れている鳥を睨みつけている。
確かに気持ち悪い人面がくっついているが、そこまで言うか。
変な闇を見せてくるのやめてくれねえかな。
『あいつきらーい』
レーシュの事か? 怖いもんな。
しかし、この鳥を消し去るねえ……
倒したら勝手に消えたりしてくれないのか……?
自力でやらないと駄目なのか? どんなグロゲーだよ。
素手でやりたくねえし……ここはリエル様任せだな。
『わたしー?』
おう、そうだよー。
一気に飛ばす風が好みなら、こういうのはどうだ?
『おおー、たのしそー』
脳内で想像してやると伝わったようだ。
『むむむー』
リエルが視界の端で手をパタパタさせながら唸っている。
ふーむ。
のんきに遊んでいたが、このゲーム結構ヤバいな。
あまり考えたくなかったが、これ脳みそハッキングされてるよな?
神経反応の収集か……?
VRゴーグルの中に電極とか埋め込まれてたのか……?
ゲームに疑念を抱いたが、風が集まってきて考えてる場合じゃなくなってきた。
「睨んでる場合じゃないぜレーシュ。ちょっと離れよう」
「消してくださらないんですか?」
「いいからいいから、向こうへ行こう」
草原が暴れるように
リエルがグルグルと腕を振り回すと、先ほどまでいた場所に異常が発生した。
リエルの手の動きに連動して、高い風の音がどこからか集まってきた。
倒れている鳥を中心にして、渦を巻くように草が倒れていく。
回る風の渦が旋風となって、土ぼこりと草を斬り裂いて吹き上げていく。
風の中心にいた鳥が、ふわりと浮き上がった。
高速の風に巻かれた草と土が鳥に当たり、その体を切り刻んでいく。
雲より高い空へと伸び上がる風の渦が、高々と巻き上がった。
大規模な
『とんでけー!』
リエルが腕を大きく振り上げた。
土色と草色で装飾された塵旋風が地面を離れ、空の彼方へ飛んでいく。
グングン上昇していった風の渦はどこまでも離れてゆき、消え去っていった。
渦に巻き込まれていた鳥の姿は、もうどこにも見えなくなってしまっていた。
マジで出来るのか。よくやったぞリエル様。
『たのしかったー!』
そりゃ、よかったな。
撫でてやりたい気がしたが、触れないのを残念に思う。
空から視線を外して隣を見てみると、
楽しそうなリエルと、空を見上げて嬉しそうに笑うレーシュの顔が見えた。
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