第3話 終わりの大地
勝てませんでした。
いや、がんばったんだって。
でもな、当たり判定がないんだよ、きっと。
あんなんどうやっても勝てる気しねえわ。
対戦おつー、あじゃっしたー。
やる気が無くなった俺は鳥が突っ込んでくるのを待ち続ける。
草原に
焦ったレーシュの声が聞こえてきた。
「ちょっとアヤトさま!? 諦めないで下さい!」
「いやー無理だって。これ負けイベントだわ。早く負けさせてくれ」
「負けたら終わりですよ!?」
「えーマジで? 初戦から鬼畜難易度の戦闘とか頭おかしすぎるだろ」
警告されるってんなら、負けたら本当にゲームオーバーになるんだろうな。
面倒くせえけど、戦ってみるかぁ……?
クケーとか叫びながら迫ってくる鳥に手を伸ばしてみると、
手の届くギリギリの所で、小馬鹿にするように旋回しやがった。
弧を描く動きで宙を舞い、横から俺の首筋にゴリっと当たってまた逃げる。
「こんなん勝てるか! 鬼精度で回避攻撃してくる敵なんて無理ゲーだろが!」
「そんな……一番弱そうな敵をおびき寄せたのに、まさか勝てないだなんて……」
「あれがザコなのかよ!? 素手戦闘キツいわー、銃くれよー」
「うう……本当にこれが世界を救う力を持つ勇者さまなの……?」
俺の性能に対して嘆かれても困るぞ。難易度調整してくれ。
ファンタジーくせえけど、こりゃ剣とかあっても無理だな。
まともに戦闘する以外の行動をとれって制作側の意思を感じるぜ。
アドバイスしてくれそうなチュートリアルの人に聞いてみるか。
「なー、レーシュさんよー、アンタは手伝ってくれねえの?」
「私は他の結界を保つだけで精いっぱいなので、攻撃することはできません……」
ふーん。苦しそうに言ってるが、嘘くせえな。
そのうち黒幕とか隠しボスになりそうな予感がするぜ。
あれだろ、終盤で「やっと気付いたようですね」とか言って裏切るんだろ?
まぁそれなら手伝えないのも仕方ないか。納得してやろう。
「アヤトさまだけが頼りなのです!」
泣きそうな声でレーシュが頼ってくるが、泣きたいのは俺の方だ。
だが手助けが無いとなると……もう本当にどうしようもなくねえか?
耐久戦闘だったなら、とっくに終わっててもおかしくねえよなあ。
「レーシュさーん、せめて何かヒントをくれないか?」
「ヒントですか……あの、アヤトさまも動いて攻撃なさってはいかがです?」
なるほど、定番だな。
指定の位置まで動いてみようはチュートリアルの基本だ。
馬鹿にされてるのかとも思ったが……このゲームって自力で動けるのか?
おそるおそる足を動かしてみると、確かに動いた。
全周囲に向かって自分の足で歩き、風に揺れる草原の風景を見つめる。
「すげえ……どうなってんだコレ、ちゃんと歩けたぞ」
「当然です。元の世界で出来たことは何でもできますよ。ですから敵を倒して――」
あの椅子が変形してルームランナーにでもなってんのか?
それとも脳波でも観測されてるのか?
原理は知らんが、動けるなら話は早い。
俺は鳥に背を向けて走り出した。
「って、えー!? アヤトさま、どこに行くんですかー!?」
「戦闘で勝ち目がねえ! 会話も無理そうな敵なら、残る選択肢は一つだ!」
逃げるに決まってんだろ!
最初の町とかあれば、そこに逃げ込めばどうにかなるだろ。
衛兵とかゴロツキとか、とにかく何でもいいから出て来て助けてくれ。
「待ってください! そちらは危険ですよ!」
レーシュが警告しながら追いかけてきやがった。
よく分からないが、何か面白いものでもあるのだろうか?
多少注意しながら進んで行く。
「あー? 敵より危険なモンがあるのか? ――うおっ、何だこりゃ……」
草原が途切れた先、そこには何も無かった。
崖のように突然地面が無くなり、青々とした空と雲だけの世界が広がっていた。
逃げ道を失った俺の背後から、鳥が笑う声が聞こえてくる。
呆然と景色を眺めていると、レーシュが自慢げに語りかけてきた。
「ここは敵に対抗する前線基地。私が浮かべた小さな大地――天の箱庭ですよ」
何やら設定がありそうだったが、それはどうでもいい。
大事なのは、ここには俺と、敵と、足手まといの女しかいないって事だ。
つまり、ここは……
「チュートリアルマップかよ……ッ!」
工夫のしようがない閉じられた場所で、単純に殴り合えと舞台が告げていた。
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