第3話 彼女の正体
どれくらいの間呆けていただろうか。
俺は体を起こして、謎の女性が入っていったユニットバスの方をじっと見続けていた。
ここで、やっぱ夢だよな。アホらしい・・・と考えて再び眠りにつくほどの度量は持ち合わせていなかったし、ユニットバスの方に確認しに行くという勇気も持ち合わせていなかった。
ショートした頭が回復した後、数えきれないほどの疑問が頭を支配する。
あの女性は誰だ?
どうやってこの部屋に入った?
あの光は?あの音は?
なぜ俺に跨っていた?
なぜ裸?
え?痴女?
なんであっちも呆けたような、驚いた顔をしていた?
新手の泥棒?
なんでユニットバスに向かった?
さっき叫んだのは一体なに?
まじで誰なの?
これは・・・本当に現実なの?
どれもこれも、連鎖的に謎が広がっていく。
なんてラッキー展開が俺の身に起きてくれたんだとか考えている余裕なんてありはしなかった。
人生で、これほどまでに謎の体験をしたことはない。
疑問一つ一つが今の俺に解き明かせるようなものじゃないとわかり、ユニットバスにいる女性が出てくるのを待つしか方法がなかった。
「・・・」
何か、声をかけるべきだろうか?
でも、多分さっきの様子からして向こうもパニックになっているし、失礼じゃないか?
・・・いや、ってかここ俺の部屋だし、何も言わずになんかいるあの人がそもそも失礼じゃん。
だけどなぁ・・・。
ユニットバスを見に行かない言い訳探しをずっと続け、なんなら今までのは酒をガバ飲みしすぎたせいの幻覚でしたというオチを期待し始めていた。
だが、俺の微かな希望はことごとく打ち壊される。
「はぁぁぁ・・・」「why did I go to・・・」「ぁぁ、私まじであんなこと・・・」「でも・・・う、ウゥ・・・」「Oh my GOSH・・・」「・・・じゃなくて!落ち着け、落ち着いて私・・・」
奥の方から、ユニットバスの方から・・・女性の声が聞こえた。
何やらブツブツと聞こえるが、全貌はわからない。
何やら、とても慌ただしそうだ。
っていうか、やっぱりいるんだ・・・。
こうなったら仕方がないので、頭の整理をしておこう。
女性がまた飛び出てきても、パニックになったり、ショートしたりしないようにするために。
ちらっ
そんなことを考えていると、ユニットバスから先ほどの女性が顔だけ出してこちらを睨んでいた。
先ほど見たのと変わりない、整った綺麗な顔立ちをした女性だ。
こんな美人さんが世界にはいるんだな、と頭の隅で思った。
「ね、ねぇ、エイスケ・・・」
「・・・え?」
謎の年齢不詳金髪美人が流暢な日本語で、俺の名前を読んだ。
なぜか俺の名前だけ少しイントネーションが違かったが、そんなの気にしている場合ではない。
先ほどの叫び声もそうだったが、とても高く、鈴のような声だった。
「あなた・・・どうやって私を戻したの?」
「・・・へ?」
結局俺は呆けた声を出さざるをえなかった。
謎の年齢不詳金髪美人が流暢な日本語で、俺の名前を呼び、意味のわからない疑問を投げかけてきた。
・・・てか、本当に誰ですか?
「そ、その様子だと、あなたが原因じゃなさそうね・・・。ご、ごめんなさい」
さっ
女性は再び顔を隠して「やっぱり違うか・・・」「もうっ!」「あれ?そもそも私ちゃんと日本語喋れてる?」とか、一人ぶつぶつと呟いている。
今見た彼女は、とても気まずそうに、気恥ずかしそうに僕の目を見ずに喋っていた。
とても、年頃の女の子みたいだった。
彼女の行動から見て、俺と同様によくわかっていないようだ。
彼女なりに頭を整理して、現状の打破を試みているようだ。
「・・・」
このままだと埒が明かない。
そう考えた俺は、おずおずとだが、女の子の方に話しかける。
「あのぉ、お忙しい中失礼いたしますが・・・」
「!、な、なに?」
どう聞いて良いのかわからず思わず取引先に送るメールみたいな良い方をしてしまった。
それに対して、謎の女の子は驚いた様子で返事をしてくる。
「どちら様、でしょうか?」
相手を刺激しないように、ゆっくり、優しい声で問いかける。
よし、聞けた。
やっと、第一歩を踏み出すことができた。
「え!?」
「え?」
思わずおうむ返しをしてしまった。
まさか、私のこと知らないの!?というニュアンスが込められた「え」が返ってきて、驚くことしかできなかった。
第一歩、めちゃくちゃ失敗してしまったんじゃないか?
「あ・・・そっか」「私は知っててもエイスケは・・・」「うぅぅ・・・私、なんて恥ずかしいことを・・・!」と、再び呟き声が聞こえてくる。
どうやら、何かに納得し、何かに恥ずかしがっている、ということがわかる。
いや、これわかってないのと同じじゃん。
ちらっ
少し間があったあと、再び先ほどのように顔だけユニットバスから出してこちらを見てくる女の子。
その姿勢、気に入ったのだろうか。
「あの、え、ええと・・・エイスケ?」
「は、はい」
「お、驚かないで聞いて欲しいのだけれど・・・」
自信なさげに、申し訳ないという表情でこちらにお願いをしてくる女の子に、俺は何のリアクションも取れなかった。
もう十分すぎるほど驚きを味わったというのに、この子はさらにサプライズがあるとのことだ。
もう、これ以上何を驚けば良いのだろうか?
・・・あれ?っていうかメルトは?どこに行った?
「私・・・メルトよ。あなたと一緒に暮らしていた、さっき・・・あなたに鼻にキスされた、猫だったのよ」
「・・・」
驚きを超えた理解不能のワードに、俺は最近の夢は面白いんだなーと、現実逃避をするしか方法が思い浮かばなかった。
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