第2話 謎の美女
「・・・」
「・・・」
俺と、目の前の裸の女の子は何も喋らずじっと互いを見ていた。
初めに飛び込んできたのは、金髪だった。
日本人が染めてもこの色は出せないだろうと思う鮮やかな金色の髪。
テレビや観光客でしか見かけることのない輝く色が、彼女の肩にまで伸びていた。
整ってはおらず、乱雑に耳や肩にかかっていた。
そして・・・その顔立ちは、明らかにヨーロッパ系だった。
高い鼻。透き通るような白い肌。深海のような碧眼の目。
それらが見事にマッチして整った顔立ちになっており・・・紛れもない美女だった。
気高さが溢れる顔立ちだったが、どこかまだ幼さも感じられるのは俺がそういう系の人たちを見慣れていないからだろうか。
どこかのモデル雑誌とかテレビで見たことがあるだろうか。それくらい、見覚えのない顔だった。
謎の年齢不詳の女性の顔を凝視したまま、動くことができなかった。
もう、突然の出来事に、どれだけ目の前に美女がいようと声を出すことすらできなくなっていた。
「・・・」
「・・・」
女性も・・・多分俺も、呆けた顔をしていた。
時間にして何分ほど経ったのだろうか。
おもむろに、女性は顔を動かして、自分の体を見た。
そして・・・ゆっくりと手を上にあげていく。その手を、彼女は信じられないと言った表情で見ていた。
手は・・・震えていた。
もう片方の手も同様にあげていき、両手を彼女自身の顔にくっつける。
むに。むにむに。
柔らかそうな顔を何度も摘んでは離し、摘んでは離す。
再び彼女は、両手で顔を挟んだまま、ゆっくりと自分の上半身、下半身を見つめる。
その仕上げに・・・俺の顔を見つめる。
「・・・え、えっと・・・ま、まずは落ちつ・・・ぐへっ!!」
ようやく口を動かせ、自分にも言い聞かせるように呟いた声は、彼女が勢いよく俺の腹からジャンプしたことでかき消された。
ドタドタドタ・・・
そのまま彼女は無言で俺に背を向け、狭い部屋を走り出した。
モデル体型の後ろ姿を、俺は首だけで追うしかなかった。
キッチンスペースと俺がいる部屋を仕切るドアを勢いよくあけ、外に出る・・・という事は無く、玄関近くにある洗面台とトイレと風呂が一緒の部屋に入っている、いわゆる3点ユニットバスへと一直線に走っていった。
まるで、そこにお目当のものがあるかのように・・・。
あたりが静寂に包まれる。
「も・・・戻ったあああああああああぁぁぁァァァァァ!!!!????」
キーン
叫ぶような甲高い声が、ユニットバスから俺のいる部屋・・・いや、このマンション全体に響き渡った。
耳を塞いでもなおうるさい、歓喜と驚きが混じった声だった。
ドタドタドタっ!!
また呆けている俺をよそに、全裸の金髪女性が再びユニットバスから飛び出してきて、狭い部屋を勢いよく走り・・・そして・・・俺に抱きついてきた。
「???????????????????????????」
何も身につけていない身体が俺に押し付けられている。
決して大きくはないけどダイレクトに伝わるとてつもなく柔らかい感触。
背中にまでまわされた手が、ギュッと俺の服を掴んだ。
美女に抱きしめられて嬉しくない人間は、この世にいないだろう。
しかも、それがスタイル完璧の全裸ときたら、なんかもう天国なのかと思うだろう。
でも・・・いざ、突然わけのわからない女性が目の前に現れて、意味のわからない発言をした挙句に抱きついてくることを想像してみてほしい。
まじで意味がわからずに思考停止するから。
羞恥とか、喜びだとか、驚きだとか全てぶっ飛んで、頭がショートするから。
「・・・ウゥ、ぐす・・・」
「?」
ショートした頭のまだ少し生きている基盤で、目の前の女性が泣いていることがわかった。
ますます訳の分からない事態に、俺は硬直して手足のいたるところまでどこも動くことができなかった。
「・・・」
「・・・はっ!?」
ガバッと俺から離れ、自分の体を見た女性。
白い肌がみるみるうちにリンゴのように赤く染まっていく。
バッ!ドタドタドタ!!
再び見事なジャンプ力で俺から離れたその女性は、ものすごい勢いでまたユニットバスの方へと戻っていく。
再び、俺の1Kの狭い部屋は静寂に包まれることとなった。
「・・・」
その間、俺は一言も発しなかった。発することなどできないくらい、嵐のように何かが起きて、終わった。
完全に覚醒し、酔いも何処へやら。
栞のことなど・・・この瞬間、頭のはるか隅まで追いやられていた。
「・・・は?」
やっと発した言葉は、たったの一文字による疑問だった。
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