第12話 決着

「一気に近づく!」


 金色のパワードスーツを装着したダンジョンコアに近づくため、両手両足にエネルギーを溜め、放出する。


 今の俺はイメージをしなくても、呼吸をするような感覚で、プラズマとマナが融合したエネルギーを自由自在に動かすことができる。


「いくぞ!」


 そのままの勢いで、ダンジョンコアに殴りかかる。


「そのような攻撃、我に通用するとでm、グハッ!」


 渾身の右ストレートがダンジョンコアの顔面にヒットした。

 衝撃でコアは思いっきり後に吹き飛び、建物にぶつかる。


『出力は申し分ないですが、やはりオリハルコンは伊達ではありませんね』


 建物の方を見ると、金色のスーツがゆっくりと立ち上がっていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ダンジョンコアは冒険者とモンスターのマナを吸収し、成長する。

 故にその存在理由は「成長する」のみであった。

 

 だがもし、コアに自我が芽生えたら?

 何のために成長を続けるのか、その存在理由に疑問を持ったら?


 その疑問を感じた時、ルーヴィルのダンジョンコアは自我を持って生まれ変わった。


 成長をする理由を知るため、彼は今日まで生きてきた。


 そして彼は、クロスに殴られたことで、己の存在理由を知った。


「そうか、我らダンジョンコアは、挑戦者を試すために生まれてきたのだな」


 痛みによって初めて知った、自分の存在理由。

 そして悟ってしまった。この時のために、成長してきたことを。


「これならmただの踏み台ではないか。だがそれでいい。我が奴を倒せばいいだけのことよ」


 ルーヴィルのダンジョンコアは、クロスを鑑定で確認した。


「奴め、まだ気づいておらぬのか。人間という種族を超え、超越者になってることを」


 もうクロスは、人ではない。

 だがそんなことは、彼らにはどうでもいいことだ。


 今から、どちらかが死に、どちらかが生きる。

 ただそれだけのことだから。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「やるな人間よ……この我にダメージを負わせるとは」

「できれば今ので終わってほしかったんだけどな」

「たわけ……この程度の攻撃で死ぬような我ではないぞ。カオスヒール」


 金色のスーツの傷が消えていく。

 だが、カオスヒールをもってしても、全ての傷が消えることはなかった。


「なるほど……お前のパワードスーツは我と同じように、オリハルコンの素材が含まれているのか」

「オリハルコン製の魔剣と融合したからな」

「魔剣? 嘘は良くないぞクロス・バードル。魔剣とワールドウェポンでは質と格が違いすぎる」


 俺の名前を知っている?

 それにヴァリアブルソードのことも?


『あのコアも、鑑定が使えるかもしれません」

「お前の声も聞こえておるぞ、異星の電子生命体エルノア」

『……っ』


 エスティバと同じように、こいつもエルノアの声が聞こえている。


「だがな、そんなことは些細なことだ。今から、どちらかが死に、どちらかが生きる。ただそれだけのこと。違うか、クロス・バードル」

「ああ、そうだな」


 あいつから、今まで感じなかった闘志を感じる。

 俺をライバルとして認め、そして絶対に倒すという闘志を。


「ならばやることは一つ。行くぞ冒険者クロス・バードル! そしてエルノア! ルーヴィルのダンジョンコアの名にかけて、ここでお前たちを倒す!」

「望むところだルーヴィルのダンジョンコア! いくぞエルノア!」

『支援は任せてください、クロス!』


 俺とダンジョンコアのパワードスーツは接近し、お互いに右ストレートを顔面にヒットさせる。


「くっ痛い……」

「お前の攻撃も我に効いておるぞ」

「だけど、こっからだろ!」


 俺は痛みに堪え、今度は左ストレートをぶつける。

 ダンジョンコアも俺の攻撃に合わせてくる。


「スキルと魔法が使えても、最後は殴り合いで決まるのだな! そう思わんか、クロス・バードル!」

「そうかも……しれないな!」

「今のボディブローは効いたぞ! 次は我の攻撃だ!」


 こうして、俺とダンジョンコアはラッシュを続けた。


 俺達を動かしているのは、ただの意地だ。


 俺はコアを倒し、この先の実験区に行くため。

 コアは俺を倒し、ダンジョンから出るため。


 もしかしたら、どこかで協力できたかもしれない。

 だけどその考えは、お互いのプライドと誇りが許さないだろう。


『クロス、カオスヒールではもうカバーできません!』

「それはお互い様だ! 気にせずかけ続けろ!」

『……分かりました!』


 攻撃を食らうたびにカオスヒールを発動しているが、もうそれでは回復できないまでダメージを負っている。

 だがそれは、あいつも同じだ。


「殴り合いでは、いつまで経っても終わらぬな」

「だったら、大人しく降参するか?」

「たわけ。分かっておるのだろ? このまま続ければ、お互いが死ぬことに」


 コアの攻撃が徐々にゆっくりになっていく。

 それに合わせて、俺の攻撃もだんだん止まっていった。


「最後は殴り合いで決まると言ったが、訂正しよう」


 コアは俺から距離をとり、両腕を俺の方に向けた。


「クロス・バードル、構えろ! 殴り合っても決まらぬのなら、最後はスキルと魔法のぶつけ合いで決める!」

「ああ、やってやるよ!」


 俺も両腕をコアに向けて構えた。


「マナよ、我が呼びかけに応えろ、そして集え! かの者を倒すために!」


 ダンジョンコアの周りに大量のマナが集まっていく。


「エレメンタル、カオス、マナ、プラズマ、そしてヴァリアブルソードよ……力を俺の手に……」


 あらゆる力が、全身に集まっていくイメージをする。そして――。


「マナ……」

「ヴァリアブル……」

「「バースト!」」


 お互いの意地とプライドと誇り、そしてあらゆる力をぶつける。


 放出されたダンジョンコアと俺の力は、始めは均衡を保っていたが、徐々にその均衡が崩れていく。


『こちらが押されています!』

「分かってる!」

「フハハハハハ! どうしたクロス・バードルよ! お前の力はそんなものか!」


 ダンジョンコアが放ったマナバーストは、俺の目前まで迫っている。


 ここまでなのか……。


『諦めてはダメです!』


 いや、ここで諦めるわけにはいかない!

 エルノアのためにも、絶対に!

 最後の一滴まで……あいつにぶつけろ!


「なに!?」


 ヴァリアブルバーストは、マナバーストを飲み込みんだ。

 そして、そのままの勢いで、ダンジョンコアに直撃した。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 お互いの攻撃が終わり、ダンジョンコアが装着した金色のパワードスーツは粒子となり、だんだん消えていく。


「これが……敗北……フハハハ……だが、案外いいものだな」

「ダンジョンコア……」

「何を弱気な声を出している。お前たちは我を倒したのだぞ。ここは誇るとこだろ」

「それは! そうかもしれないけど……」


 違う形で出会っていれば、きっと協力ができたはずだ。

 だから、こんな形で別れたくはなかった。


「我はダンジョンコアだぞ!? また近いうちに会うこともあろう」

「え、そうなの?」

「さぁな。だがその可能性はあるはずだ……そろそろ時間のようだな」

「分かった……また会おう、ダンジョンコア」

『私も色々と聞きたいことがあります。またお会いしましょう』

「フン、そうだな……また会おうお前達! そしてしばらくの別れだ! 超越者クロスよ!」


 ダンジョンコアが消え、金色のパワードスーツも粒子となり消失した。


「終わったのか?」

『そのようですね』


 戦いが終わり、俺は仰向けに倒れ込んだ。


「もう動けない」

『……そのようですね』

「疲れたからここで寝る! おやすみ、エルノア」

『おやすなさい。良い夢を……』

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