第10話 激突
『居住区前に着きました』
居住区の入り口は、大きな扉に閉ざされていた。
『扉の形が変わっていますね』
「寄生型ダンジョンの影響で、建物の形が変わったんじゃないか?」
『クリスタルゴーレムがいた電力制御室のように……ですか』
「ああ、そうだ」
エルノアは少し不安そうだったが、すぐに気持ちを切り替えた。
『ここを開ければ戦闘になる可能性があります。戦う準備はできていますか?』
「準備はできている。開けてくれ」
『分かりました。……ですがその前に、パワードスーツの最終調整をしましょう』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「変身」
パワードスーツの調整が完了し、スーツを装着する。
『青いマークは一定のリズムで動いていますね』
居住区のマップを確認すると、青いマーク――もう一つのパワードスーツ――が一定のリズムで動いていた。
「戦闘にならなければいいが……」
『その可能性が無いともいい切れませんが、頭の片隅にしまっておきましょう』
「そうだな……じゃあ、開けてくれエルノア」
『了解です。扉を開けます』
居住区の扉が、ゆっくりと開いていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ここが居住区か?」
居住区は大型マンションやショッピングセンターが立ち並んでおり、まるで郊外のような町並みであった。
「完全に廃墟だな」
『長い間、誰も住んでないし当然ですよ。建物がまだ朽ち果ててないだけマシかもしれません』
「そうかもな……よし、さっさと実験区に向かいますか」
『了解です。うん? もう一つのパワードスーツが近づいてきます!』
マップ上では、もう一つのパワードスーツがこちらに近づいているが、俺の視界には建物の廃墟しか見えない。
その時、地面が揺れだした。
「地震? こんな時に?」
揺れはだんだん大きくなっていく。
『違います! その地震の正体は……』
突如、俺の目の前に土煙が広がった。
慌てて、空中に回避する。
「なんだいったい……」
土煙が収まると、そこには――。
「ドラゴン!? だが、全身が機械っぽい!」
『違います。あれが、もう一つのパワードスーツです』
「あれが……か?」
そこには、パワードスーツを装着した全長10mを超えるドラゴンがいた。
『鑑定を発動します』
エルノアのコピースキルの影響で、エルノアが発動した鑑定の内容は、俺に共有される。
アースドラゴン・ゾンビ:パワードスーツを装着したアースドラゴンが死んでゾンビになった存在。風属性と光属性が弱点だが、スーツを装着していることによって属性耐性を得た。
「ドラゴンがパワードスーツを装着した? そんなことができるのか?」
『可能です。スーツはナノマシンの技術を応用して作られているので、装着者に合わせてスーツの形状が変わります。私もやろうと思えば、ミノタウロスやゴブリンに装着させることができます。ですが……』
「ですが?」
『スーツは装着者のイメージを読み取って、初めて効果を発揮します。人間のような複雑な思考回路を持たない生物が装着しても意味がありません』
「つまりあのドラゴンは、人間と同じような複雑な思考回路を持っているから装着できたってことか』
『そういうことになります』
改めて、パワードスーツを装着したアースドラゴン・ゾンビ――メカドラゴンの方を見る。
メカドラゴンはこちらを睨んでいる。
まるで、今から敵と戦うような、そんな目だ。
「あ~もしもし、そこのドラゴンさん? 俺の言葉が分かるかな?」
ごく僅かな望みをかけて説得してみたが、反応が無い。
「戦わないで済むと思う?」
『それは無理でしょう』
「だったらやるしかないか」
覚悟を決め戦闘態勢に入ろうとした、その時。
メカドラゴンの口が大きく開いた。
そこに、プラズマエネルギーがたまっていく。
これは……まさか!?
『プラズマフォースが来ます! 避けて!』
高出力のプラズマが、俺に向かって照射された。
「危ない!」
間一髪のところで避けれたが、メカドラゴンの攻撃はまだ続いていく。
飛んで避けているが、攻撃が止むことはない。
「どうやったらこの攻撃が止まる!?」
『口にプラズマフォースを当ててください! 高出力のプラズマがぶつかりあえば、爆発が起こります!』
空中で避けながら、胸中央のリアクターから両腕にプラズマエネルギーを溜めるイメージをする。
「今だ! プラズマフォース!」
両腕に溜まった高出力のプラズマを、メカドラゴンの口へと照射する。
プラズマとプラズマが衝突し、強烈な爆発を引き起こした。
「うわ!」
爆発の衝撃に巻き込まれ、建物に叩きつけられた俺は、意識が飛んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ここは…… あれ、痛くない」
意識が回復し、エルノアに尋ねる。
『建物の中です。それから体の傷はカオスヒールで回復させました』
「そうか、ありがとうエルノア。そうだ、メカドラゴンは?」
『あそこです』
窓枠から覗くと、頭を失ったメカドラゴンが突っ立っていた。
生きている気配は感じない。
「倒したのか?」
『いえ、メカドラゴンのパワードスーツが活動を停止していません』
「どういうことだ?」
『分かりません。もしかしたら修復中かもしれません』
あれほどのプラズマエネルギーを浴びて頭を失えば、ドラゴンとはいえ死ぬはずだ。
だがあいつは、ドラゴンゾンビでパワードスーツを装着している。
並の生命力ではないのだろう。
「今ならとどめを刺せるか?」
『待ってください。こちらもスーツを現在修復中です。今しばらくお待ちください』
俺のパワードスーツもかなりダメージを受けている。
こちらも修復しないと、満足に動くことはできない。
「何だアレは?」
修復が完了するのを待っている間、メカドラゴンを見ていたが、突如メカドラゴンが浮き出した。
『違います! あれはパワードスーツが浮いています!』
「パワードスーツが?」
ドラゴンゾンビが装着していたパワードスーツは空中で変身を解除し、首を失ったドラゴンは地面へと落下した。
そして、そのパワードスーツは球体へと変わっていく。
「いったいなにが起こっている?」
『分かりません。私にも理解できません!』
完全に球体へと変身を遂げたパワードスーツ。
その球体に、大気中のマナが溜まっていく。
『スキルも持たないで、マナを集めることなんて不可能です!』
エルノアの言うとおりだ。
パワードスーツとはいえ、アーテラの星で作られたもが、決してマナを感じることを、ましてやマナを集めることなどできるはずがない。
だが、あのパワードスーツはマナを吸収している。
その理由が全く分からなかった。
『……ここのダンジョンは、寄生型ダンジョンと言いましたよね?』
「そうだが……まさか」
『そのまさかです』
エルノアに言われ、ある一つの可能性を思いつく。
それは、ここのダンジョンコアは、電力制御室だけではなく、あのパワードスーツにも寄生していたということを。
『……人間ヨ、我ガ弟のコアを破壊したな?』
球体になったパワードスーツから声が聞こえる。
今、弟のコアって言ったのか?
つまり、ダンジョンコアは二つあった?
『その力に敬意ヲ払い、全身全霊をモッテお前ヲ倒そウ』
球体が徐々に形を変えていく。
その神秘的な光景に、思わず目を奪われてしまった。
そして、俺のパワードスーツと対をなすように、全身金色のパワードスーツが現れた。
「さァ来い、人間ヨ! 今こソ決着ノ時だ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます