第3話 観測
「皆さん! 遂に我々は、異世界を観測しました!」
どこかの国際フォーラム会場。
イベントホールの壇上に、スーツ姿の男が、声を高らかにそう言った。
その男の斜め後ろに巨大なモニターがあり、映像が映し出される。
その映像には、地球の東京駅の様子が映っていた。
スマホを見ながら職場へと向かうサラリーマン。
ベビーカーを押しながら上品そうな服を着ているママ友たち。
制服姿でクレープを食べる高校生カップルなどなど。
会場にいる人たちは、それを食い入るような目で見ている。
俺からすれば、ニュース番組で見るよう光景だが、彼からすれば、全く別の光景に見えるのだろう。
男は映像を止め、喋りだす。
「我々が住んでいる星、アーテラの資源問題が本格的に始まってから早10年。我々は未だ経験したことがない、宇宙への旅を余儀なくされています」
アーテラ?
ここは、地球ではないのか。
よく見れば、会場にいる人達の耳は、エルフみたいに長く尖っている。
「しかし、我々は観測したのです。この星とは違う星、いや、違う世界を。我々と同じような種族が住んでいる世界を。そう、こちらの映像は異世界、地球を映したものです!」
その言葉に、会場から驚きの声が上がる。
「ですがまだ、観測をしたにすぎません。我々はここから先のステップ、異世界大移動をやり遂げねばなりません!」
異世界大移動?
もしかして地球に移動して、住むつもりか?
「ですが、異世界大移動を行うには、技術力が圧倒的に足りません。異世界大移動を果たし、そして我々が異世界に移住するその日まで、私は決して諦めません!」
本当に地球に移住するつもりなのか。
とんだ迷惑な奴だな。
すると、会場から野次が飛んできた。
「家族全員で宇宙に暮らす準備をしているのに、異世界移住とはなんだ!」
「地球に住んでる人たちのことを考えているの!?」
「なぜ俺たちより文明が発達していない世界に行くんだ!」
異世界移住に否定的なものから、地球をバカにしたようなものまで。
「安心してください。地球という世界は……我々よりも、高度な世界です」
会場の野次が次第に止まる。
えっ、地球って高度な世界なの?
映像を見る限り、そんな気はしないんだけど?
「次に皆さんに見ていただく映像が、その証拠です」
新たな映像が映る。
そこには……ザ・パワードマンのタイトルロゴが映し出されていた。
「それって映画じゃねーか!! ってあれ、視界が……」
思わずツッコんでしまったが、視界がだんだんぼやけてくる。
これはきっと夢なのかもしれない。
だだ、夢にしてはかなりリアルな光景だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『お目覚めですか?』
「うん。おはよう」
謎の声に起こされた。
「ミノタウロスを倒してから、どれぐらい寝てた?」
『あの怪物を倒してから、約14時間ほど寝ていました』
そんなに寝てたのか。
それに体がやけに重い。
……パワードスーツを装着したままだった。
だから重いのか。さっさとスーツを解除しないと。
解除するには、たしか「変身解除」って言えばいいはずだ。
「変身解除」
パワードスーツが解除されていく。
俺の体を包んでいた流動体のモノは、胸中央に集まっていき、ペンダントに形を変えた。
『解除方法も知ってるようですね』
映画で何回も見たからな。
『色々と聞きたいことがありますが、まずはお互いに自己紹介をしませんか?』
「そうだな」
ミノタウロスを倒すことに夢中になっていたけど、謎の声のことを全く知らない。
『まずは私から。私の名前はエルノア。パワードスーツを管理する、自立型AIです』
「俺はクロス・バードル。この世界の住民だが、前世は地球という星、いや異世界に住んでいた」
『なるほど……って地球!? 地球に住んでいたんですか?』
「ああ、そうだ」
予想通り、地球という言葉にくいついてきた。
そして、エルノアの反応で確信したことがある。
さっき見た夢は、夢なんかじゃない。
かつて、アーテラという星で起こった出来事だ。
「エルノアはアーテラという星で作られたのか?」
『はい。アーテラを知っているということは、目を覚ます前に、あの映像を見たのですね』
「まぁな」
見たけど、どんな方法で見せたかが全く分からない。
きっと、アーテラの技術でなんかしたんだろう。
「エルノアのことも気になるけど、まず、あの発表からアーテラはどうなった?」
あの続きが気になっている。
それに、わざわざアレを見せるということは、なにか意味があるのかもしれない。
『あの後に流れた映像が「ザ・パワードマン」という映画だと判明するまで、数ヶ月かかりました』
映画だと判明するまで、それぐらいの時間がかかったのか。
いや、地球を観測して、わずか数ヶ月で正体が分かったんだから、アーテラの技術力は俺の予想以上に凄いな。
『また、国際フォーラムでの出来事から、数年近く地球を観測し続けましたが、最終的に地球は移住に適さないという結論になりました』
ですよね。
地球にはアーテラのような技術力はないし、ましてやパワードスーツなんて、映画や創作の中でしか存在しない。
「観測した異世界は、地球だけか?」
『いえ、地球以外にも色々な世界を観測しました』
「それじゃ異世界移住はどうなった? 他の世界に移住した?」
『していません。異世界に住む方法を考えるより、宇宙に住む方法を考えたほうが楽ですから』
「まぁ、そうなるな」
『しかし、あの出来事のおかげで、あるブームが起こりました』
「あるブーム?」
『それは、パワードスーツの開発ブームです』
そんなブームが起きたの?
もしかして、俺が装着したスーツって……。
『クロスが装着したスーツは、そのブームの影響で作られたものです』
「……アーテラの人たちって、バカなの?」
『バカと天才は紙一重というじゃないですか。ですがそのおかげで私が生まれ、そしてあなたは危機を脱することができた。過程はどうであれ、終わりよければ全てよしです』
それもそうか。
あの出来事がなければ、そしてアーテラの人たちがパワードスーツを作らなければ、俺は既に死んでいた。
アーテラの人達に、そしてエルノアに感謝しないと。
『では私からも質問が』
余韻に浸っていたが、エルノアの言葉で我に返る。
『クロスは冒険者ですよね?』
「そうだ。エルノアは冒険者のことを知っているのか?」
『知っています。ギルドからクエストを受けて、それの成功報酬で生活している労働者……ですよね?』
「だいたい合ってる。なんで分かったんだ?」
『私のデータバンクの中に、異世界を観測したデータが入っています。そのデータを照合して、クロスは冒険者だと推測しました』
「なるほどな」
エルノアの中には、異世界を観測したデータが入っているのか。
というか、他の世界にも冒険者はいるんだな。
そっちのほうが驚きなんだが。
『もう一つ質問です。この世界、いや星はエスティバというんですよね? ここは科学の代わりにスキルや魔法が発達した、ファンタジーな世界でしょうか?』
「うん、そうだよ。付け加えるなら、俺みたいな人間以外に、獣人や、魔人にドワーフ、そしてアーテラの人たちみたいな、耳が長く尖っているエルフなどもいる」
『なるほど……多種多様な種族が住んでいるんですね。ますますファンタジーな世界ですね』
エルノアには、ファンタジーな世界に対しての抵抗感が全くないようだ。
そもそも、異世界を観測した星で作られたAIだから、世界の仕組みを、そういうものだとして受け入れているのだろう。
『すいません、また私からの質問になるのですが、スキルと魔法について教えてくれますか?』
「スキルと魔法? 教えてもいいけど、観測データの中になかったの?」
『スキルと魔法だけは、どうしてもデータのみでは理解できなかったので』
「なるほど」
う~ん、なんて教えればいいんだろう。
例えば、なにもない空間から火を出すという現象を、魔法で起こす場合はマナと詠唱が必要になる。だが、スキルで起こす場合はマナと詠唱は必要にならない。
これで納得してくれたらいいが、多分無理だろうな。
エルノアにどう教えようか悩んでいると、俺の腹の虫が鳴った。
そういえば、今まで何も食べてなかった。
そうだ。スキルと魔法を使って、飯を作るところを見てもらえばいいんだ。
エルノアはスキルと魔法が理解できるし、俺は飯が食える。
よし、そうしよう。
「なぁ、スキルと魔法の説明を聞くよりも、実際に見たほうが理解しやすいよな?」
『そうですね……見せていただければ、より理解しやすいと思います』
「わかった。今からスキルと魔法を使って料理を作るから、それを見てくれ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ボックスを発動し、中から食べれそうなモンスターを探す。
といっても、奈落探索中はジェノサイドコカトリスを食べていたので、今回もジェノサイドコカトリスにする。
そもそも、ダークスパイダーやサイレントスネークなんて、見た目が怖すぎて食べる気が全く起こらない。
取り出したジェノサイドコカトリスに、毒がないか確認するため鑑定を発動する。
「我に
うん、特に毒はないし、肉を焼けば食べれるな。
『先程の言葉は……詠唱でしょうか? 聞いているこちらが恥ずかしくなりますね』
エルノアのボヤキを無視しつつ、肉を焼く準備に移る。
ボックスの中から、土魔法で作った肉焼き機と皿とコップを取り出す。
ジェノサイドコカトリスの肉を風魔法で良い感じに切断し、肉焼き機にセット。
炎魔法で肉焼き機に火を付け、肉が全体的に焼けるように調整する。
これまた良い感じに焼けたら、肉を皿に盛りつけ、コップに水魔法で生成した水を入れる。
ジェノサイドコカトリスの焼き鳥が完成した。
スキルと魔法を使って料理を作ってみたが、はたしてエルノアは理解してくれただろうか。
『なるほど。スキルと魔法をある程度理解しました』
よかった。
ほっと胸をなでおろす。
『まだ疑問はありますが、不思議な現象を起こすのがスキルと魔法でしょうか』
「そうだ。魔法を使う場合は、マナというエネルギーや詠唱が必要だが、スキルにはそれらが必要ない。と言っても、鑑定みたいに詠唱が必要なスキルもあるけど」
『例外は常につきもの、ですね』
理解が早くて助かる。
さすがアーテラ製のAIといったところか。
「納得してくれたかな? 今から飯を食べるから、これが食べ終わったら、さっきの話の続きをしよう」
『了解です』
さっきからずっとお腹が鳴りっぱなしだ。
さてと、食べるとするか。
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