第4話 探索

 ジェノサイドコカトリスの焼き鳥を食べ、休憩をとった後、話の続きを再開した。


「いつこの星に来たかが分からない?」

『はい。データの中を検索しましたが、それだけは何故かしています』


 エルノアを作ったアーテラの人たちは、資源不足に陥った故郷の星から、違う星に移住するため、宇宙へと旅立った。

 異世界移住ができなかったことを考えれば、エルノアはこの世界、いや星にやってきたことになるが、いつ来たかまでは分からないようだ。


「質問を変えるけど、アーテラの人たちは、どんな船で宇宙に進出したんだ? 大きなシャトルみたいな?」

『惑星移住探索用コロニーで宇宙に進出しました』

「そのコロニーに、全人口を乗せたのか?」

『いえ、人々を国や都市ごとに分けて、それぞれのコロニーに乗せたようです。1つのコロニーに対して、おおよそ100万人が乗っていたみたいです』

「結構な数が乗っているんだな」


 思っている以上に規模が大きかった。

 ということは、少なくとも100万人のアーテラの人たちが、この星にやってきたことになる。

 だけど、俺が学んだこの世界の歴史には、そんなことは書かれていなかった。

 といっても、今から1000年前のことしか分からないので、エルノアが来たのはそれ以上前のことになる。


『あっ、1つだけ思い出しました』

「なにを思い出した?」

『私専用のパワードスーツです』

「エルノア専用? それはいったい?」

『私はAIですが、電子生命体という存在です。データには干渉できても、実体には干渉できません。それを克服するために作れたAI専用のパワードスーツ、つまりヒューマノイドです』

「……凄いものを作ったんだな」


 ヒューマノイドは、たしか人を模したロボットだよな?

 そんな物を作れるなんて、アーテラ驚異のメカニズムといったところか。

 しかし、エルノアのヒューマノイドか。

 案外きつい顔だったりして。


『……今、失礼なことを考えていませんでしたか?』

「そ、そんなことはないよ。いや~ヒューマノイドを作れるなんて、アーテラ人って凄いんだな~。それにきっと、エルノアのヒューマノイドは美人だろうなって」

『そういうことにしておきます』


 コイツ、勘が鋭い。

 下手なことは考えないようにしよう。


「でもさ、そのヒューマノイドはこの部屋には無いよな? ここには台座とドアぐらいしか無かったし」

『そうです。いったいどこにあるかが分かりません。ですが一つだけ、心当たりがあります』

「心当たり? それはどこだ?」

『ここ、ダンジョンの奈落の中です』


 奈落の中に?

 考えられなくもないけど。


「それは分かるけど、この部屋以外に人工物なんてなかったぞ?」

『ですが、奈落の中を隅々まで探索していませんよね?』

「そうだけど……」


 たしかに、奈落の中を探索したと言っても、風を感じる方向に進んでいただけだし、ミノタウロスに襲われたせいで、ここまで来た道のりが分からない。

 探索中に進んだ道のりを、紙でマッピングすれば良かったかもしれないが、そんな余裕はなかったし、そもそも紙を持っていない。

 つまり、現在地がわからないのだ。これでは奈落の中を探索したとは言えない。


「奈落の中を、隅々まで探索すれば見つかるかもしれない……」

『はい』

「……見つかったら、それからどうしたい?」

『奈落を脱出し、外の世界を見てみたいです』

「……」


 エルノアの言葉に、言葉を失った。


『私は、長時間、人の生体反応がなければ、スリープモードになるように設定されています。スリープモード中は最低限の維持だけを行い、目覚めるまでに起こった出来事は、一切分かりません』

「スリープモード……」

『ですが、クロスに出会えたことで私は目覚めることができました。そして私のヒューマノイドをみつけ、ここから脱出し、外の世界を見てみたいのです』


 そんなことを考えていたのか。


 エルノアのことを、ただの凄いAIだと思っていた。

 なんて軽く考えていた。


 だけど違う。

 エルノアは、自分で考え、自分の意思を持つ、立派なだ。

 そんな彼女の思いや願いを、俺は軽く考えていたかもしれない。


「……そうだな、奈落の中を探せば見つかるかもしれないな」

『はい。私はそう推測します。ですがこれには問題が……』

「俺も一緒に探す」

『……! いいんですか?』

「俺だってここから脱出したいし、エルノアの願いを叶えたい。仮にヒューマノイドが見つからなかったとしても、手がかりは掴むつもりだ」

『……ありがとうございます』

「それと恥ずかしい話だけど、パワードスーツがなければ、俺は一生ここから脱出できない。ミノタウロスすら生身で倒せなかったんだぜ? アレ以上に強いモンスターがいたら、俺はただの屍にジョブチェンジさ」


 Bランクまでの魔法は使えるが、ミノタウロス相手には無力だった。

 ミノタウロス以上に強いモンスターがいる可能性を考えると、この先パワードスーツ無しではきつすぎる。


『ドヤ顔で言うことではないと思いますが』

「本当のことだから別にいいんだよ」

『それもそうですね。では、協力をお願いします、クロス・バードル』

「こちらこそよろしく、エルノア」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 奈落の中を探索するため、入念に準備をする。

 携帯食料を多めに作り、水を用意する。

 それから、ミノタウロスが持っていたハルバートを俺が持てるように加工する。

 万が一、スーツ無しでも戦えるようにするためだ。


 俺が準備をしている間、エルノアはパワードスーツの調整を行っている。

 探索中は時間をかけて調整ができないから、ここで入念にしたいのだろう。

 ちなみに、ミノタウロスを倒した時はスーツを装着できたが、本当は装着できるか怪しかったらしい。

 あの時装着できたのは、不幸中の幸いだろう。


 準備に1日を費やした俺達は、奈落を探索するため、この部屋を出ようとした。


『クロス、部屋を出る前にスーツの装着を忘れてますよ』 

「そうだったな。変身」


 パワードスーツを装着し、この部屋を出る。


 この先に、何が待っているかは分からない。

 でも、エルノアとこのスーツがあれば、なんとかなるだろう。

 そして、エルノアのヒューマノイドを探し出し、ここから脱出する。


 こうして俺達は、奈落の探索を再開した。

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