第22話 心は決まった

 うぅん……ここは……? 僕の部屋……?

 って、今何時だっ!? 太陽はどれくらいに!? あぁっ! もう夕方じゃないかっ! まずい、何も手掛かりがないのにっ! リーファのやつ! 何してくれたんだ! 早く! 早く何かしないとっ!!


「あら、もう起きたのね。さすが5歳児(笑)ね。もう少し効いているかと思ったけれど」

「うわぁ! そこにいたのっ!」

「2人を眠らせてから、外の大人たちにも眠ってもらって、そこからはずっとあなたの隣にいたわよ」

「あぁ、そうかい! 今はそんな場合じゃないだよ!? 姉さんが攫われたんだ! 早く何とかしないといけないのに!」

「えぇ、分かってるわ」

「なら!」

「待って。私からあなたに伝えなくてはならないことがあるのよ」

「何のことさ! 今なの!?」


 人のこと勝手に眠らせて、急に話があるってか? なんだよ! 時間がないのはリーファだってわかって……


「大事なことなの。おそらくお姉さんのことにもつながるはずよ」

「!!」


 そう言ったリーファの目は決して嘘をついているようには感じられず、伝わってくる彼女の気持ちも真剣さが感じ取れた。そして何よりその言葉は聞き逃せないものだった。エミリア姉さんに繋がるだって?


「どういう、ことなのさ?」

「ここに来る前に私が言ったこと覚えているかしら?」


 ここに……あぁ、お願いってやつか。それがどうしたっていうのだろうか。早くしてよ。そんな気持ちを込めた視線だけで返すと―――


「ふぅ、これでもあなたを心配してのことだったのだけれど、そこまで怒られると悲しくなってくるわね……。まぁ、いいわ。そう、お願いの話よ。さっきあなたたちが眠っている間にもう一度お母様と話せるか試してみたの。さっきはこれ以上は話している余裕はないって感じだったんだけれど、もう一度話したくてね? で、この村のことを伝えてみたの」

「ふーん、それで?」

「結論から言うと、話はちゃんとできたわ。お母様とね。そして分かったことがあったわ。それが、魔の森の樹海迷宮に挑戦した人間たちがいるということ」

「で?」

「そう急かさないで。ちゃんと話すわ……。で、その者たちは迷宮の最深部のダンジョンコアに到達しているということよ。……最終関門を通らずにね」


 ダンジョンコア? それってあれか前世の漫画とかラノベでいうところのダンジョンの操作とか構築に関する諸々ができるやつのことか?で、そこには本来ボスみたいなのを倒さないと進めない仕様のはずだと言うのに人がいるらしいと……?


「そしてその迷宮に後から入ってきた人間たちがいたの」

「まさかっ!」

「そうよ。おそらくそれがあなたのお姉さんたちのことだと思うわ」

「そうか、そこにつながるのか……いや、でもリーファはエミリア姉さんのことは知らないよね?どうしてそこまで目星が付くの?」

「それは……えぇと……」


 あれ? 目が泳いでるな……

まさか……


「何、なんか隠しているの? 『ちゃんと言って!』」

「!! ちょっと強制を使わないでくれないかしらっ!? あ、あ、あな、あなたの……記憶を一部眠っている間に見せてもらったのよ! あぁ! しゃべっちゃったじゃない!」


 こいつ!! 人を勝手に眠らせてしかもその間に人の記憶を覗いていただとぉぉおお?


「リーーファーーーぁぁぁあ?」

「わ、悪かったわよぉ……。もうしないわ。あなたの許可なくだったら……」


 許可とかしないわっ! というか許可下りたらするのかよっ!? 嫌だよ! 誰が好き好んで自分の記憶なんて見せるかっての!


「そこまで怒らなくったっていいじゃない……。お姉さんの手がかりを見つけたかったのよ?」


 くぅうう……仕方がないか……。そのお陰でエミリア姉さんの手掛かりになりそうなものが増えたってことだし……。よかったってことにしよう。そうするしかねぇ! 


「で、樹海迷宮だっけ? そこに今エミリア姉さんがいるとして、僕にどうしてほしいの?」

「それは……」

「それは?」

「その、カイトに樹海迷宮を制覇してほしいのよ!」

「えぇーー(棒)」


 何ふざけたこと言ってるんだろう、この子。

 迷宮は深層にあるんでしょ? さっき教えてくれたじゃない。僕はまだ中層で戦ってる程度の実力なんだよ? 迷宮の制覇どころか挑戦すら怪しいレベルなのに何言ってるんだろうか……。というか制覇? 攻略じゃなくて?


「カイト、あなたは既に十分に強いわ。それに私もついていく。迷宮を制覇すること自体は可能よ。きっとね」

「え、そうなの?」


 え、ほんとに……? いけるの? 僕が?

 ……いや、そういうことじゃない!


「仮に、迷宮を制覇できるとして、だ。誘拐犯たちとだってやりあわないといけないんでしょ? さすがに攻略だけで余裕はなくなるでしょ」


 そう、迷宮に行くとしても敵は迷宮の魔物たちだけじゃない。誘拐犯たちもいるはずだ。それに今は迷宮はスタンピードだって言ってたじゃないか。ってことは迷宮の難度も上がっているはず……


「そうね。でも、だからこそ迷宮を制覇してほしいの……」

「ん? それはどういうこと? というか気になったんだけど迷宮って攻略っていうんじゃないの? 僕がよく読んだ冒険の話には迷宮は攻略って書いてあったんだけど……?」


 迷宮の冒険の話とかは結構な種類が家にあって、お母さまとかエミリア姉さんとかによく読んでもらったしね。そこには攻略って書いてあったんだけどな……

 リーファが言いたいのは誘拐犯たちと戦うためにも迷宮を制覇しないといけないって意味なんだろうけど、でも制覇ってのがよくわからない。いや、迷宮の攻略者にはその証として迷宮の宝物庫に入れるんだっけか? でもそれなら攻略でいいはずだけど……


「攻略、ではないの。カイトには制覇してほしいの。制覇っていうのはその迷宮を完全に掌握するっていうことよ。おそらく誘拐犯たちはなにかしら特殊な方法で迷宮のダンジョンコアを操っている。だからそれも取り返してほしいの。そうしないとスタンピードも収まらないわ……」

「それって誘拐犯たちもしっかり倒せってことだよね……?」

「えぇ、そうなるわ」


 マジで言ってるのか……? さすがにそこまでの力はないぞ……


「でも、そうしないとカイトのお姉さんは取り返せないわよ?」

「それならお父様たちにお願いすればっ!」

「森の出口を守るので手一杯でしょ」

「でもっ!」

「あなたしかいないのよ!」

「っ!」


 確かに警備隊の人たちは手一杯ってのはそうだ。森の中から溢れてきていた魔物の数はそれこそうちの村どころかいくつもの村を簡単に飲み込めるくらいはいた。

 でも、僕とリーファだけで本当に……


「できるわ。あなたなら。私のことも簡単に助けてくれたでしょ? それにお父さんにも一本取ったじゃない」

「それとこれはっ!」

「お願い、なの……」

「!!」


 そうか。これはリーファからのお願いだったね……。つまり君たちのためにも迷宮と誘拐犯たちをどうにかしてほしいと。


「……リーファのお母様にはできないこと、なんだね?」

「えぇ、そうよ。影響を受けないで済んだ子たちをかくまって守っているわ。それでもう手一杯なの」

「ほかにも森にはすごい大きな存在を感じていたけど、そういうのは手を貸してくれないんだね?」

「……基本的に彼らは私たちや人間たちのことに関わろうとしないわ」

「そっか……。一応森の中から家まで送ってもらったしね」


 リーファからのお願いだしね。うん、それに僕は前世で憧れているものがあった……。仮面リーダーみたいなかっこいいヒーローになりたかったんだ。うん、実にそれっぽい状況だよね。不謹慎極まりないけど。これぐらいの気持ちで行くとしよう。


「リーファ、僕はね前からヒーローになりたかったんだよ」

「え? えぇ……」

「もしさ、これを僕たちで沈めることができたら、なれるかな? ヒーローにさ」

「!! そうね。なれるわ! カイトなら」

「うん、ありがと」


 うん、心は決まったね。よし、それじゃ。


「行こうか。リーファ」

「えぇ、行きましょう」


いざ、迷宮へ!

 









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