第23話 樹海迷宮

「で、いくんだけどさ。マリア姉ちゃんたちはどうすればいいかな?」

「支配の魔術を受けていた人たちはもう大丈夫だったわよ。本当に用済みってことなんでしょうね。彼らと一緒に避難してもらえばいいんじゃない?」


 うーん、それしかないか。


「リーファ、マリア姉ちゃんにはもう少し眠っていてもらうことはできる?」

「……それでいいのね?」

「もちろん、マリア姉ちゃんと議論してる時間はないしね」


 迷宮にはいく、残っている村の人たちや警備隊の人たちには精霊様の希望でちょっと森の様子を見てくることになったとか言って納得してもらう感じでいいのか? いやでも、警備隊の人たちは僕の行方不明だったことのいきさつを知っているわけで、うーん……


「私も相手を催眠状態にするようなことはできるけれど?」

「マジすか……」


 リーファさん、マジ最強じゃないっすかね……

 それなら僕のことをなんとなく納得してもらう方向で話してもらおうかな?


「そしたら、その催眠状態にする魔術なのかな、それで僕が再度森に行くことを無理やり納得してもらう方向で行こうか。あ、マリア姉ちゃんは眠っていてもらう方向でお願い。疲れもあるだろうしね。あとさらっと僕の思考読まないでくれる?」

「分かったわ。あとさっき無理やり寝かせたことに怒った癖にさらっと自分は相手に眠ってもらおうとするのね? それとね、あなたは顔に出やすいのよ」

「さっきは僕も冷静じゃなかったよ……。悪かったってば。あと、そんなに顔に出やすいの? 僕って」

「まぁいいわ。5歳児に私もつっかかっても仕様がないものね……。すっごく顔に出てるわよ」

「むぅ……」


 前世の時はどうだったかな。子供のころは今みたいに活発な子供だったんだけど、そのころも顔に出やすかったのかなぁ……


「ま、いいか。じゃ、みんなの催眠よろしく、リーファ」

「なんか、そう明るく言われるとやりにくいものがあるわね……」


 どうしろと……?


――――――――――――――――――――


「ほんとに来れちゃったよ。深層」

「だからカイトと私ならいけるっていったでしょ?」

「でも、ほら、信じられないことってあるじゃない?」

「あなたにそっくりそのまま返したいセリフね?」

「ははは……」


 そう、本当に来れてしまったんです。深層に。

 いや、森のこと良く知っているリーファが行ける!って言ったんだから、そら行けるんでしょうけども、なんというか今まで中層で頑張っていた僕としては思うところがあるよね。リーファはずいぶんと気軽に言ってくれちゃったけどさ「あ、ここから深層よ。良かったわねついにここまで来れて(ニコっ)」ってね。まぁ、どのラインあたりから深層なのかは一応氣の感じからして一変したからよくわかるし、一定の距離でなんか大きめの岩みたいなのが置いてあったから見た目でも結構わかりやすいようになってた。自然とそこにできたというよりはそういう風に置きましたって感じだったから昔からいた警備隊の人たちが目印に置いていったんだろうね。

 え、お父様たちはどうしたのかって? そこはリーファにアドバイスをもらったよ。


「それにしてもほんと信じられない才能よね、カイトって」

「それ、褒めてるんだよね?」

「だってあなた、駄々洩れになっているその魔力どうにかしないとすぐ隊の人たちに気付かれるわよって言ったからってね、『わかった!』って言ってすぐ魔力引っ込められるようにはならないんだからね?」

「えぇ、リーファが『こう、ぐっとおなかの中にしまうような感じよ?』って言ったんじゃないか……」

「言ったけれど、すぐできるなんてふつう思ってないわよ……」

「えぇ……」


 なんかそんな感じで結構すぐに魔力は隠せるようになりました。というか契約の時に自分の中で魔力の流れを身をもって体験できたから流す分にはできましたってだけなんだけどね。氣も流し方が分かるようになってからは外に出すのもできるようになってきたしね。でも魔力の方はまだ体の中でぐるぐるさせるので手一杯って感じかな。まぁ、隠せているみたいだからあとは気配を徹底的に消せばバレることなく森には入れた。リーファの方は契約した特典?みたいなのでなんか霊体ってやつになれるらしくて、急に僕の中に入ってきた。あれはマジでビビった……。だって急に消えるんだぜ? 目の前から。どこのイリュージョンかとね。いや、まぁ、こんな世界に来て今更なんでしょうけども……


「で、ここをくぐったら迷宮に入るってわけなんだよね?」

「そうよ、この門から向こうが魔の森深層、樹海迷宮と呼ばれるダンジョンよ」

「スタンピード起きてる割にはここら辺は魔物少ないね?」

「ここはちょっと裏口みたいなところだからかしらね? 別にショートカットできる入り口ってわけでもないから使われていないけれど」


 今僕たちの前にはどこぞの庭園にでもありそうな蔦がたくさん絡まってできた上の方がアーチ状になっている門があった。大きさは2メートルくらい、かな。ちょっと開けたところにポツンとこの門だけが建っている。僕たちから見て門の後ろにも森は広がっていて、一見この開けた空間に門型の植物のオブジェでも出来上がっているかのような雰囲気さえある。実際門の反対側にくぐらないで回り込んでも何も変わらず森があるだけだったし。

 魔物の方はさっきから門からドバドバ出てきてはいたんだ。少ないと言っても一旦ここいらに出てきた魔物たちを僕とリーファでしているうちに気付けば静かになってきたって感じだった。まぁ、おかげでそこら中に血の匂いですよ……。さすがに気持ちのいいもんじゃないね。


「準備はいいかしら? 迷宮の制覇お願いね、カイト?」

「うん、わかってるよ……。この先にエミリア姉さんたちがいるんだ。必ずたどり着いて助けてみせるさ」

「えぇ、そうね。それじゃ行くわよ」


 そうして、僕たちは迷宮に足を踏み入れたんだ。


――――――――――――――――――――


(ねぇ、リーファ)

(何かしら?)

(なんで、今も霊体なの……?)

(なんでって、霊体なら私も気配が消せるから、かしらね?)

(まぁ、そうだけど……)

(そうすればあとはカイトが森に入ったときみたいに気配を消せばいいだけで済むでしょ? なんだったかしら、オンギ……オンゴウ?)

(隠形おんぎょうね。正しい意味かは置いといて僕が勝手にそう呼んでるだけなんだけどね)


 僕は今迷宮に入った途端霊体になって僕の中に入ったリーファと念話で話しながら、氣で強化した身体能力をフルで使ってぐんぐん進んでいる。

 で、今までずっと魔力垂れ流しだった僕は完全な気配の遮断ができていなかったわけだけど、魔力を引っ込めるという方法を会得した今ならもう僕は完全な気配の遮断ができるわけで。通りで、夜中の修行中たまに魔物たちに見つかっていたんだなぁと理解できましたよ、はい。まぁ、これで本当に隠形術みたいなことができるようになったってことでただいま存分に発揮しているところなんだけど。


(これってずるとかにならないよね?)

(これくらいは平気よ。冒険者だって魔物たちの気配を探りながらできるだけ戦闘しないように迷宮は攻略しているってお母様も言ってたしね)

(者なのにね……)

(彼らにとって未知の場所をしているのよ、きっと)


 なんてしょうもない話をしながら悠々と現在進行中なわけですが。


(ほんと今更だけどさ、そこかしこから魔物が溢れているね。初めて見たよ魔物が生まれるところ)

(そうなのね? 意外だった? こうしてそこら辺から急に魔物が生まれてくるのは?)

(そりゃね……)


 そう、迷宮の中の魔物って岩とか木とか地面から急に生えてくるというか、ぼこっとかぼろって感じで出てくるんだよね。急に木が生えてきてそれがトレントだった時とかすごいびっくりしたよね。あ、迷宮のトレントは動けるのね……って。いやあいつ根っこを足みたいにしてぬるぬる動いてたんだって……


 そして、僕は今この魔物で溢れかえっている森の中にいるわけなんだけど、隠形を使うことで全く気取られることなく進めている。匂いとかは氣だけじゃさすがにどうしようもないんだけど、そこはリーファさんのお力でここの森の匂いを僕に纏わせてもらっているわけです。おかげでより自然な形で周囲に溶け込むことができて全く気付かれません。リーファさんパないっす。


(にしてもカイト、あなたずいぶんと迷いなく進んでいるわよね?)

(ん、そうなのかな?)


 僕としては入ってからずっと感じているとてつもなく大きな気配の方向に移動しているだけなんだけどね。


(さすがに迷宮の案内までは私もできなかったから、私としてはすいすい進んでくれて安心な気持ちと本当にこの方向であっているのか不安な気持ちが半々なのよね……。私の魔力探知はこの森の中ではまるっきり機能しないし……。一応私ドライアドなのに……)

(あー、なんか魔力で探ろうとすると方向感覚がすごく狂うんだっけ? さすがってところなのかもね)


 僕にはあまり関係なかったけど……


(ん、森が開けるね。うーん、何かいる、かな?)

(ごめんんさいね。迷宮に入ってからはお母様にも完全に繋がらなくなってしまったのよね。もっと何かしら聞けたらよかったんだけど。)

(いやいや、結構教えてもらったと思うよ? それに迷宮の管理は別口がやってたから内部のことは詳しくなかったんでしょ?)

(そうね。お母様もそう言っていたけれど……)

(そしたら、むしろそろそろつく場所に最初の試練になるような魔物がいるって話を聞かせてもらっただけでもありがたいよ) 


 そんな会話をしながらだいぶ走ってきて、見えてきた。この森を一旦抜けるような形になるすこし開けた場所だ。

 いくら急いでいるからと言って勢いそのまま広場に突っ込むようなことはせずに森が開ける場所の3歩手前くらいで近場の草むらに隠れて広場の様子をうかがうと……


「ほう、スタンピードが起きてずいぶんと経つがそのような小さきものが沈めに来るとは思わなんだ。小僧、そのようなところに隠れていないでこっちにきたらどうだ?」


(!! リーファ、これって!?)

(なんでかはわからないけどバレているわね……。奇襲はできないみたいね……)


 マジかよ、隠形は完璧だったはずなのに……


「来ないのか? 来ないのであれば構わぬがこの先には行けぬと思えよ?」

「!!」


 正直不意打ちで決めて短期決戦で終わらせたかったけど、出ていくしかなさそうだ……。


「こんにちは、あなたがここの迷宮の最初の試練の担当さんかな?」

「やっと出てきたか。小僧、名乗るがよい」

「人の名前を聞くなら名乗るのが普通だと思うけど……まぁ、こっちは挑戦者でそっちはただただ待ち構える側だもんね。そりゃ態度もでかくなるか」

「態度がでかいとな? フッ、ずいぶんな口の利き方をする、小僧だ。まぁよい、して小僧、名は?」

「カイト・ブレイトバーグ。この迷宮を制覇するものさっ!」

「制覇……だと……? ハッハッハッハ! 大きく出たな小僧!」


そう言って、大声で笑いながら僕たちの前に立ちはだかったのは、蛇の胴体からしっぽまで、腰らへんから上はコブラっぽい感じで腕が6本ある、前の世界でいうところのナーガって感じのやつだった。身長はもちろん僕より大きくてさっきの門の上の方に頭が届きそうな程度には背の高く、鍛え上げられた肉体を存分に見せつけてきている。そんな見た目の魔物だった―――








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