第17話 堂々と

 まずは一本っ!


「はぁっ!」

「いい動きだよ、カイト」

「!!」


キンッ―――


 背後をとって確実に取れたと思ったのに、僕の剣はお父様の剣に受け止められていた。……僕の方をしっかりと向いた姿勢で。


「くっ!」


 一旦お父様から距離をとってやり直しを図ろうとするが―――


「そうそう簡単に離れられると思うなよ!」


 攻守逆転一気にお父様が剣を振るってきた。普段の稽古よりもずっと一撃一撃が重い。これを受け切れると思って攻撃しているってことなのかっ!?

 もしかして僕の本当の力量を把握されていたのかっ!?


「どうした、カイト!お前はもっと動けるんじゃないのかっ!?見せてみろ、修行していたんだろう!?」

「くぅぅ」


 なら何度も打ち付けてくるその剣、ぶった切ってやる!

 一気に氣をショートソードに纏わせて二合、三合と打ち付けてくるお父様に合わせるようにして、ここだっ!

 あれっ!?剣が急に軌道を変えてっ!?


「見え見えなんだよ!いつも言っているだろう!お前の剣はまっすぐすぎるとな!」


 くそ!さっきまでの動きに合わせる気でいたから完全に今の僕は死に体だ!入れられるっ!


「……まずは一本だ」

「っ!はい……」


やられた……

完全にお父様のペースだ。流れを変えないといけない。魔物どもとの戦闘と変わらない、やるかやられるかの気持ちでいかないと……


「さぁ、後がないぞ、カイト。もっと見せてみろ」

「……はい、わかりました。次は、いただきます」

「……そうか」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「おいおいおい、あれで5歳かよっ!?カイトの坊主相当使えるじゃねぇか!」

「っ!あれは、魔力ではないな。あれは……」


 やっぱりカイトって5歳とは思えない力よね。なんか普通に魔物倒していたからあれが普通の5歳児なのかと思ったけれど、違うみたい。うん、良かったわ。私の感覚が正しいみたいで。

 それにしても森の中とは変わって動きがぎこちないわね、カイト。やっぱり人との相手はまた違うのかしらね?


「あぁ、あれは闘気、なんだろうな。かなり特殊な才能だ」

「闘気、ですか?」

「そうですね。リーファ様のようなこの森に住まう、魔力を糧としていることの多い精霊様にはなじみがないのかもしれませんね。あのような才能を持つものは大して力を使わずに山奥に隠居しているような武人であったり、戦場にいることが多いですからね」

「そうなんですね……」


 闘気、ね。カイトは勝手に氣って呼んでるって言っていたものね。魔力とは違う力っていうのがあるのね。お母様なら知っていそうだから聞いてみようかしら。カイトのことも紹介しないといけないしね。


「にしてもアランのやつも結構がっつり振ってるじゃねぇか。大丈夫かぁ? 坊主は」

「とはいえ、受け切っているではないか。あれはもう戦士としてはかなりのものかもしれないぞ。あぁ見えてまだ余裕もありそうだしな」

「確かにそう見えるがなぁ。どうにもあんな小さな坊主が実剣を振って戦っているのを見るのはどうにも、なぁ?」

「同じ年頃の子供のいるお前なら余計にそうだろうな。私もわからなくはないが素直に感心しているよ。カイト君は素晴らしい才能の持ち主のようだ」

「でも、アラン、だったかしら?カイトのお父さんにいいようにやられているようだけれど?」

「はっはっは!さすがに経験が違いますよ。リーファ様!5歳児に負けるような奴はこの隊にはいませんって」

「そうですね。さすがにそれはありませんよ」

「ふーん、そういうものですかねぇ……」


 多少は寝たけれど、ほとんど夜通し戦って森を中層から抜けてきて万全の用意をしてきた大人と戦うっていうのだからすでに不利だったと思うけれど……

 それにやっぱりさっきから受けるばかりで何かをうかがっているばかりだし。森の中ではむしろ積極的に攻撃していた感じなのだけれど……


「お、仕掛けるな坊主。でもあれじゃなぁ……」

「あぁ、あの子はどうやらわかりやすい性分のようだな」

「あ~、そういうところは確かにありそうでしたね」


 私から見ても確かに何かしか消そうってのは丸わかりよ、カイト……

 でも、あれを当てられたら確かにあのお父さんもただじゃすまないと思うけれど、良いのかしらね? あっ……


「ほらっ、しっかり読まれてやがる。ま、まずは一本だな」

「子供であれだけできれば十分すぎるんだがな、どうにも何か焦っているようだな……」


「カイト……」


 私たちの横で目にいっぱいの涙をためながら戦いぶりをずっと見つめている人がついって感じで自分の子供の名前を呼んでるわね……

 ……ずいぶんと愛されているようね、カイト。私でも分かるわよ。あなたはちょっと真面目過ぎるのかもしれないわね?そういうところもかわいいけれどね。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 認めて、もらわないと。僕だってやれるってことを。もうそれしかない。あれだけのことになってしまったんだ。力を見せる。そう、それでいいんだ。


「次はもらいます。お父様……」

「かかってこい。どこまでやれるのか試すといい。存分にな」


 くっ……。集中しろ、海斗。大丈夫だ。今度は様子見は無しだ。お父様はきっとすごく強い。それがちゃんと分かったんだ。


「はーーーー」

「っ! これは……。そうか、お前はここまで闘気を扱える戦士に……。それにその構えは……?」


 お父様が何かぶつぶつ言っているようだけど、まずは集中だ。そう、道場でもやっていたように正眼に構えて、氣を研ぎ澄ますんだ。そして構えろ、防御を念頭にはおかない火の構えを。目の前にいるのはまさに僕が今超えなくちゃいけない壁なんだから、壁ごと叩ききってやるっ!


「行きますよっ!」

「っ!これはっ!!」


 その瞬間先ほどのような速度をゆうに超えた速度で迫り、ショートソードが振り下ろされた―――


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「2本目だな。ってもまぁ、さっきの焼き増しってところだろう。リーシュの心臓には悪いだろうが、こっちとしてはさっきよりは安心してみていられるな」

「だろうな。しかし、カイト君の表情はさっきよりも真剣そのものって感じになってきたな」

「……?」


 うーん、カイトあなた何をする気なのかしら?なんだか私を助けてくれてた時のような余裕は全然ないし、でもすごく気合が入っているのはわかるけれど。


「ん、なんだあの構え。アランはあんな剣術使ってたか?」

「いや、そこはお前の方が詳しいだろう……。それにあの構えは王国では珍しい構えじゃないか?片足を引いて剣を上に持ち上げて天を衝くような構えだな……」

「構えってそんなにいろいろあるんですね?」

「えぇ、そうですよ。私たち人間族は特にいろいろ考えないとほかの種族にもともとの部分で劣ることが多い種族ですしね」

「ほんと、人間族は努力を惜しまないですよね」

「はっはっは!そういってもらえると嬉しいですなぁ」

「えぇ、それはもう……。っ!!」


「な、あれはっ!」「どうなってんだ、ありゃ……」「カイトっ!アランっ!」


 なにあれっ!今までよりもずっと早かった。本当に光のような速さで一瞬でカイトのお父さんに迫って、気づいたらもう剣を振り下ろしていたわ……

 それにお父さんの剣、綺麗に切れちゃってる……


「おい、今アランのやついくつ障壁出してたか分かったか?」

「あ、あぁ。とっさだったが4枚は張っていたと思うぞ……」

「だよなぁ。あいつが障壁4枚も出しても貫通して量産品とは言え鉄でできた剣を綺麗にぶった切るやつなんかいるか……?」

「私だってそんな5歳児聞いたことも見たこともないさ……」

「あ~。すごいやる気ね、カイト……」

「……」


 あなたのお母さんは驚きがいろいろ超えて表情消えてるわよ……

 大丈夫よね?この人?倒れたりしてないし、まだ平気、かしらね……


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「っ! カイトっ! お前、ここまで……」

「ふぅぅぅぅ」


 くそっ、何かに阻まれて届かなかった……!それに何とか何かをぶった切って伸ばした先でお父様にうまく剣をいなされた。これがこの世界での技を持つ人との戦いなのか……。でも……!


「2本目は、とられたな。お前に本当に一本取られたのはこれが初めてだな。お父さんもさすがにびっくりしてるよ。お前の成長には……」


 そういいながらなぜかお父様の表情は苦しそうだった。どうしてだ……?剣は結局届かなかったんだからどこも痛くないだろうに……


「次も決めます。僕の実力を出し切って見せます!」

「そうか、そんなに頼りないか……俺たちは……」


 ん?後半何を言っているかよく聞こえなかったけど。次も決めて僕の実力なら魔の森の中でもやっていけるってところをちゃんと認めてもらおう。そうすれば堂々と修行ができるわけだしね!


「これはもう使い物にならないな……。トラマー! 一本頼む!」

「あ、あぁ! ほらよっ、一応備品だ! ちゃんと使えよ! 隊長!」

「分かってる! さぁ、最後だ。次も同じようにはいかないぞ?」

「でしょうね。でも、僕だってあれしかないわけじゃありませんよ」

「だろうな……」


 しかし、三度向き合った僕とお父様の緊張を打ち破るように、声が飛んできたんだ―――


「カイトっ!大変よっ!森がっ!!」


 えっ、リーファ!? 森って!? あれ、なんだ!? ずいぶん遠くの方だけどこの気配は!?


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「まぁ、あれだ。次で決まるな」

「そうだな……」


 もう一本備品らしい剣を大事に使えと言う割にはふつうに投げているけれど、あれはいいのかしらね?まぁ、なんにせよ次で終わるのね。早くカイトを休ませてあげたいところだけれど、皆さんすっかり興奮してるわね。なんかほかの人たちもすっかり手を止めて遠巻きでこっちを眺めているみたいだし、仕事はいいのかしら……?


(―――ァ!……―――ファっ! ―――リーファっ! 聞こえますかっ!?)


 あら!? これは、お母様! やった! やっと繋がったんだわっ!!


(お母様っ! 私です! リーファですっ!! 良かった! やっと通じて! 中層の様子を見に行ったら急にお母様とのパスが途絶えてしまって……)

(えぇ、それはもう心配したのですよ? いけないっ! 今はその話ではないのですっ! 今あなたは外周部にいるのですよねっ!?)

(え、そ、そうですが?)

(なんてことでしょう! このタイミングに間に合ってよかった! よくやってくれました、リーファ!)

(え?え??)

(森のダンジョンが溢れましたっ! すぐにそこにいる人間族の守り人の方たちに知らせるのですっ! 危ないと!)

(それって、スタンピードっ! でも、あそこはそんなことが起きるようなダンジョンじゃっ!!)

(事情は分かりませんが、今は先に対応しなくてはいけません! 早くっ!)

(っ! 分かりましたっ!)


 お母様とやっと繋がったっていうのに、なんだかやなことがいっぺんにやってきている感じね。でもどうしたら……知らせるといってもここの人たちに対処できるものなの……?


「――様? リーファ様! どうかなさいましたか?」

「っ! 大変!!」

「うぉっ! どうしたんですかい! 急に!」

「大変なの! 森が! 森が!」

「とにかく落ち着いてください! 森がどうしたんです?」

「えぇ、ごめんなさい……。森の深層、樹海迷宮がスタンピードを起こしました」

「スタ……はぁっ!?」

「なんですって!?」

「とにかく準備をっ!このことはわれらが母にして魔の森の管理者の一人、大精霊ユシルからの知らせです!」

「マジかよ……」

「まずい! ここにはリーシュさんもいるっていうのにっ! おい、大変だ! スタンピードが来るっ! 隊を編成するぞっ!」


「カイトっ!大変よっ!森がっ!!」


「えっ!? リーファ!?」


 早く何とかしないといけないわ! ごめんねカイト、あなたを休ませてあげられるのはもう少し先になりそうよ……


「カイト……アラン……」


 このお母さんも守らないといけないしね。

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