第7話 森の平和

「「「おやすみなさーい」」」

「はい、おやすみなさい。」


お父様とお母さまに挨拶を済ませてそれぞれの部屋に戻る僕たち。

実は1人に1部屋もらってるんだよね。結構いい暮らしだよね。他と色々比べてみたことはないから知らんけども…

さて、寝ますかね。


――――――――――――――――――――


………くわっ!

…いや、やってみただけなんですけどね。

夜も更けてまさに深夜って感じかな。まぁ、ここの人たちって寝るの早いんだわ。感覚的には日が暮れて食事を終えたら寝るね。お父様は時々事務仕事とかもしてるみたいだけどそれでも基本的には寝てる。あ、あと夜の大仕事も夫婦そろってしてることもある。まだまだ現役だからね、仕方がないね!


「そろそろ、みんなも眠っていそうかな~?…よし。寝てるな。ぐっすりだ」


これでも、氣の放出が今のところ苦手なだけで、氣の感知とかは結構広い範囲をできるようになってきたんだ。我が家の中ならまるまる収まるくらいには感知できるね。うちってどれくらいの大きさなのかって?!普通の2階建ての木造の家だよ。まぁ、一応この村の村長みたいな地位だからそれなりに大きいけどね。

ん?気配感知はどれくらいなのって?そうだなぁ、上下に10メートル、水平方向に50メートルくらいは余裕かな。もっといけてる気もする。僕、3歳なんだぜ?はっはっは!自分が怖いぜ☆


「さてと、それじゃ、一狩り行ってきますかね!」


着替えを済ませて、気配を殺し家を出た海斗は自分の得物をとって森へと向かう。


「目に氣を巡らせれば視界も割とはっきりするんだよね~。マジ便利!」


海斗はからというもの、それこそ四六時中氣を練り続けていた。それにより氣を体内で巡らせることは自在にできるようになっていた。そのため外は真っ暗でも、僅かな月あかりと目に氣を巡らせることで夜目を利かせることが出来るようになっていた!ってね。


「さてさて、うーん、今日もいるみたいだなぁ。うじゃうじゃ。フフ」


氣による気配感知を薄く広く伸ばすとそこらじゅうに感じる魔物たちの気配。自然と口角が上がるのを感じていた。


あ、因みに今回の得物は鉈だよ!裏の倉庫にあるんだ。氣を纏わないで持つとさすがに重いんだけど、というか持てないんだけど、氣を纏って持つ分にはこれくらいが長さも含めてちょうどいい。


そして、この世界には普通に魔物と呼ばれている生物がいる。日本で言ったらゲームとかアニメとかでしか見なかったような奴らだけどね。夜が活動時間の個体も多い。だからこの村、というか外周部と呼ばれるところでは夜番として森の境に簡素な小屋を建てているみたい。でもって、そこで寝ずの番をしているってわけ。


「今日も見張りちゃん、おっつ、おっつ~」


何て言ってはいるけど、気配をしっかり消せば、まず気取られないような距離から森に入る。森の中は月明りも届きにくいし足元も悪い。こんな中を難なく歩くにもやっぱり氣を使った夜目とか気配察知が役に立つんだ。もうすでに夜な夜な森に出かけている僕にとってはこんな道は十分に把握できるし、家の庭のようなものだね。(どやぁ)


「まぁ、この森自体になんというか大きな氣を感じるんだよね。だから余計に足元も獣道とかも把握しやすいんだよねぇっと、お、これは…」


この気配は前にもやったことがある魔物だな。2…いや3体か。


気配のする方角に進みつつ、念のため風下になるように位置取る。


「まずはブラックドッグどもか。慣らしにはちょうどいいね」


ブラックドック。名前の通り黒い犬って見た目なんだけどこいつらはだいたい2~3体くらいでうろついて、格下と感じるらしい相手に襲いかかってくる、そんなやつらだ。


まぁ、見た目は確かにどう考えても雑魚だよね。3歳だし…


取りあえず始めようか。

氣を練る。

自らの肉体全体を薄く覆う。

神経を研ぎ澄ます。

右手に持った鉈にその氣を神経を伸ばしていく。

肉体と得物を完全に把握する。

呼吸を、整える。


準備はできた。

この集中の名前は知らない。

これが正しいかもわからない。

でも、肉体が、精神が、氣がこれでいいと言っている。

僕は、俺はこの感覚に従うのみ。


「フッ!」

「ぎゃうっ!?」


まずは一体。横並びになっていたブラックドッグの一番手前にいた個体を襲う。

一息で距離を詰めて、氣によって切れ味を増した鉈による斬撃で確実に首を刈り取り命を絶つ。


「はぁ!」

「くぅぅん!」


続けざま、2体目を氣を充実させた左足で蹴り飛ばし、3体目に集中する。


しかし、さすがに3体目は海斗の襲撃に気付いて牙を剥く…


「ガァッ!」

「遅ぇよ!」


しかし時すでに遅く、ブラックドッグの右に回り込んだ海斗の下段から振り上げた鉈で首を狩られる3体目。


「グルルル…」

「どうした?すっかり弱り切ってるじゃないか。あの蹴りだけで這う這うの体ってか?」


睨みあう1人と1匹。人語を解すほどの個体ではないが海斗のその煽りを感じ取ったブラックドッグが襲い掛かる。


「グルァ!」

「はぁ!!」


顔めがけて跳び掛かってくるブラックドッグの左に流れるように回り込み、右手の鉈を振り下ろす。


「ふぅ、さてと。夜はまだまだあるな。次の獲物だ…」


1分とかからず、3体のブラックドッグを屠った海斗。その瞳はいまだぎらついていた。


こうして森の夜は今日も平和に過ぎていく。


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