第56話 いたずらな風
七海と共にショッピングモールに降り立った俺達は、正面でバァン! とお出迎えする巨大スヌーピーに口をあんぐりと開けた。目算では……ヒト何人分だ? 五、いや十人以上分はあるのではなかろうか。
そんなスヌーピーが人工芝の上に気持ちよさそうに寝転がっていた。
「大きい……! 圧巻だなこれは……!」
「わぁ~! かわいい可愛いかわいい可愛いかぁわいいぃ~!」
もう目からハートマークたっぷりにスマホを構えて撮りまくる七海。
俺もスマホを取り出して、そんな風にはしゃぐ七海を撮ってご満悦。
可愛い者が可愛いモノを見てわちゃわちゃと喜んでいる……
澄み渡る青空を見上げて、俺は。
(尊い……)
と心の中で呟いた。
「ねぇヒロくん! 限定ショップ見たい! スヌーピーの!」
「はいはい」
ついていくよ。どこまでも。
そんな俺達は気の赴くままにショッピングモールを闊歩し休日を楽しんでいた。
子連れや愛犬家に優しいこのモールはスロープやエレベーターが充実している一方で、アスレチックなどの遊具や腰を下ろせる階段、ベンチなども多い。
お昼どき。混み合ったモール内でテイクアウトしたチーズ山盛りハンバーガーを手に休める場所を探していると、ふと七海が木製の階段を駆けあがる。
「ヒロくん! こっちこっち!」
見上げると、登り切った先の踊り場のベンチが空いているようだ。
「先に行って場所とってるね!」
ジュースを手にしていた俺を気遣ってか、七海は小走りに階段を駆け上がった。
瞬間。ふわりとあたたかな風が吹いて……
(――あ。)
スカートの中が、見え――
……あれ? 見え、ない……?
これが単なる「残念でした」で終わるなら話は早いのだが。
その尋常ならざる肌色面積に俺は顔が熱くなる。
(ちがう、アレ、見えないんじゃない! パンツが見えないだけなんだ……!)
かといって履いてないなんてわけもなく。
俺がここまで動揺しているのは、見覚えのある腰のリボンのせいだった。
(七海ちゃん……姉ちゃんにプレゼントされたあの下着、普段使いしてるのか……!?)
あんな過激な紐Tを。
つまり、さっき一瞬見えた肌色はお尻……
え。待って。それって、さっきまでお喋りしてたときとか電車で隣に座ってたときもしれっとアレを履いていたってことになるよな……?
思わずぐいーと視線を逸らす。
見れない。見れない。階段の上がまともに見れない……!
「――ヒロくん」
遠くから呼ぶ声がして、恐る恐る顔を上げる。
そこにはきっと、風のいたずらなどに気づかずいつも通りの七海が「早く~!」と手を振っていると思っていた。
だが……
見上げた七海は顔を真っ赤にしてスカートを抑えていた。
ぷるぷると恥ずかしげに潤む瞳が大きくなって……
「……見、え……た……?」
声が、震えている。
「――あ。いや……その……」
言葉を濁すということは、つまりそういうわけで。
赤面して視線を下に向ける俺に、七海は「そ、そっか……」と呟き、静かに階段を下りてくる。ランチを手にする俺の隣まで来ると、シャツの裾をちょこんと握って。
「……今日、ね。ウチ、両親いないんだ。だからさ、このあと……」
ばくばくと、心臓の音が大きくなる。
「……ウチ、来るよね……?」
このときの俺たちは、ふたりとももうハンバーガーどころではなくなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます