第54話 紐T
休日の朝に美少女の隣で目を覚ます……これ以上に幸福なことがあるだろうか?
――あるんだなぁ、これが。
それは、目の前の彼女が『彼シャツ』だったときだよ……
齢十七(童貞)にしてそれを学んだ俺は数奇な運命の持ち主なのではなかろうか?
とかいう、何の意味も持たない思索にひとり耽る俺は、すぅすぅと寝息を立てる七海を起こさないように、そっと抱き寄せた。
仮にも彼氏彼女なんだ、いくら寝込みに手を出すといっても、これくらいは許されるだろう。
滑らかな髪を撫でて、背中を撫でて、腰を抱き寄せて、髪に顔をうずめて……なんてしていたら、ふとあることに気が付いた。
腰を触ったときの感触が、なにかおかしい。
(ん……? なに、この凹凸……?)
撫でた腰に違和感を感じてもう一度指でなぞると、くびれのあたりにちょこんとリボンのような結び目があった。
その存在に気づき、思わず赤面する。
(七海ちゃん……これ、紐じゃん……!)
彼シャツの下は、紐パンだった。
しかも、背中を撫でたときに違和感を感じずにどこまでも滑らかだったのを思い出すと、ノーブラであることは当然の事実なわけで……
とはいっても、七海のノーブラは以前、花火大会の夜にこっそり夜這いされたときに経験済みなので(それに、毎朝「おはよー!」と部屋から挨拶されるときもノーブラだし)そこまで驚きはしないが、こんな紐パンなんてセクシーな下着に触れるのは初めてだった。
というか、七海ちゃんが紐パンをはいていること自体が初めてっぽい……
(姉ちゃんの奴、なんてものをプレゼントしてるんだ……!)
あまりに心許ない布面積のソレに、動揺が隠しきれない。
(……っ!)
俺は息を殺した。
ここで興奮して息を荒げようものなら、七海を起こしてしまうだろう。
考えてもみろ。もし朝起きて、目の前にいる彼氏が腰なでなでして紐パンに興奮してたらどう思う?朝からドン引き確定なんじゃないか?
『えっ。ヒロくん……なんでそんなに息荒いの……? えっ……キモ……(引き)』
(……っ! 死に、たいっ……!)
七海ちゃんのことだから、きっと「キモ」は言わないでいてくれるだろうが、内心では引きまくってもおかしくない。
でも、でも……!
もうちょっとだけ、触りたい……!
今まで散々我慢してきた俺も、一応男の子なわけで。
やっぱり触りたいんですよ。彼シャツの下のすべすべを。
さわさわしまくって、なでなでしまくりたいんです。はい。
(まだ寝てるし、もう少しなら、いいかな……?)
高く積んだ積み木を崩さないかの如く、そーっと、そーっとシャツの下に手を伸ばし、腰とお腹の辺りさする。
(わ。すべすべ……)
やっぱり何度触っても、七海の肌は滑らかだった。きめが細かくて、しっとりしてて、いつまでも触れていたい触り心地。それでいて……
(ふにふにだ……)
決して太っているわけではないが、がりがりというわけでもない。
七海の腰はいい感じにむっちりとしていて、果てしなく柔らかくて――
ふにふに……
ふにふに……
どこまでも触っていられてしまう……
(はぁぁ……! なにこれ……超きもちいい……!)
抱き寄せた身体からはいつもと少し違うけど、相変わらずいい匂いがする。
(あれ? けど、この匂い……なんか懐かし……)
そして、気が付いた。
(――あ。ウチのボディソープだ)
懐かしいどころか、自分からも毎日同じ匂いがするんだから当たり前だ。
だが、七海が自分と同じ香りをさせているかと思うと、それだけでどこか嬉しく感じてしまう。
(お揃い、か……)
遊園地ではストラップをお揃いで買ったりしたけれど、七海が『お揃い』にしたがる気持ちが少しわかった気がする。
「――ふふ」
思わず口元を綻ばせ、俺はもう一度七海を抱き寄せた。胸元に手を添えてくぅくぅと寝息を立てる姿が可愛くて、もにゅ、とシャツ越しに触れる胸が柔らかくて、太腿がすべすべで……
(はぁ……やっぱり俺の幼馴染は最高だ……)
あたたかい至高の感触に包まれながら我を忘れて撫でくりまわしていると、更に異変に気が付いた。
(……あれ? 腰の下は、太腿じゃない、よな……?)
……尻、どこにいった?
全部が全部すべすべ過ぎて忘れかけていたが、尻にあるはずの布地はどこだ?
探すように肌の上をまさぐると、細い紐を一本、見つける。
(……ん?)
「……んっ……」
そこで、七海が目を覚ました。
「ん……」
ぼんやりとした眼のまま俺の胸元でしばし瞬きとしたかと思うと、顔をうずめてもぞもぞと膝を動かしている。
「ヒロくん……そこ……」
「なに? どうしたの、七海ちゃん……?」
「あの……ソレ……あんまり引っ張らないで……」
「え? ソレって、どれ……?」
「……ひゃんっ……!?」
(!?!?)
急にびくり! と身体を跳ねさせた七海に驚いて、俺は思わず手を離した。
その拍子に、パチン、と小さな音がして、また――
「……っ!! はぅぅ……っ!?!?」
「えっ、ちょっと、七海ちゃん!?」
慌てて問いかけると、胸元で息を荒げていた七海が真っ赤になった顔をあげる。
潤んだ瞳がいつもより一層大きく見えて、それでいて見たことのないくらいに色っぽくて……
「ひ、ひろくん……」
「なに……?」
「そこ……紐、食い込んで……ダメ、なの……」
「え……?」
「んんッ………!」
太腿に手を挟み、パンツを抑えるようにして身をよじっている七海に、改めて視線を向けると――
(うそ、だろ……?)
そこにあったのは、白い紐だった。
腰にあるのは、リボンだ。
だからこの紐は……
(Tバック……だと……?)
朝起きたら、彼シャツの下は『紐T』だった。
「こ、ことはお姉ちゃんにもらった下着……こんなの履いたの初めてで……私、慣れてなくて……」
「………………」
「ここまで布地が少ないと、やっぱり恥ずかしいね……あはは……」
笑顔で誤魔化してはいるが、顔は真っ赤で視線は伏し目がち。瞬きの回数も尋常じゃなく多い。「初めてだ」というその下着は動く度に食い込んでしまって、七海は内心それどころではないようだ。
かくいう俺も、それどころではない。
「変な感じ………着てるのに、全然着てないみたいで……でも、これ、ちゃんと下着なんだよね? 一応、前は隠れてるし……?」
「でしょ?」と伺うように上目遣いで見上げられたところで、ソレが『紐T』だと分かった以上、俺には直視できない!
「ねぇ……似合ってる、かな……?」
照れを隠すように「えへへ……」と笑った七海に、俺は、
『世の中には、着てる方がエロい下着もあるんだな……』
とは、言えなかった……
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