第49話 おしおきキッス(※微えっち注意)
唐突だけど、俺は上より下の方が好きなんだ。
何が、って?
彼女とイチャつくときの話。
だってその方が上からじゃれてくる七海が猫みたいで可愛いし、柔らかい重みが程よく気持ちいいし、重力でぴたっと密着する柔らかさが何ものにも代えがたい歓びを――
と。眼前に唇が迫った今考えるべきことではなかったな。
『罰として、私がヒロくんをベロチューでギッタギタのメッタメタにしてやるんだから! 隠してること全部、話したくなるくらいにね!!』
そうのたまった七海は俺をベッドに押し倒し、秘密を吐かせようと彼女なりの拷問をしかけるようである。
(ギッタギタのメッタメタでなく、ペロッペロのチュルッチュルの間違いでなくて?)
これをご褒美と受け取った俺は敢えて黙秘し口を閉ざした。
俺にのしかかって顔を数ミリまで近づけた七海は手始めに軽く唇をつけ、最終確認と言わんばかりに問いかける。
「ほんとに言わなくていいの? これで最後らよ?」
唇をつけたまま喋られると、ふわふわとこすれて物凄くくすぐったい。思わず吹き出しそうになったが、ぐっとこらえて俺は首を横に逸らした。
否定の意思を受け取った七海はそのまま舌を捻じ込んで絡め始める。
「んっ……」
最初は小手調べのつもりなのか、舌先を少し遊ばせては角度を変えてもう一度。
ぺろぺろ。くちゅくちゅ……
(七海ちゃん、じゃれてる……可愛い……)
お次は舌の裏をぬらり、となぞってキスを繰り返し、唾液が溢れそうになる手前で唇を離した。
僅かに糸を引く唇をペロリと舐めて、七海はもう一度問いかける。
「はぁ……話す気に、なった?」
俺も濡れた唇を開いて答えた。
「 全 然 」
「むっ……」
ぴくりと眉間にしわを寄せ、七海はすぅ、と息を吸い込むと今度は強引に舌に噛みついてきた。
「むぐ……!」
まるで、どこまで舌が入るのか試すような、喉の奥まで届きそうな攻撃。ベロチューは初めてではないとはいえ、ここまで強引にされたのは初めてだ。
今日の七海は猫ではない。ネコ科の肉食動物だ!
「はむ……ちゅぅう……」
唾液が口の端を伝うのも気にせずにがっつく七海に、動揺を隠しきれない。
(七海ちゃん……! 本気なのか……? くそっ。エロすぎる……!)
まさか、ここまでやる子とは。
為す術もないまま貪られていると、七海はおもむろに唇を離した。
「ぷはぁ……! はぁ、はぁ……どう? 息、続かないでしょ?」
「はぁ……はぁ……」
たしかに、返答ができないくらいには疲弊している。というか、蕩けさせられている。
「ふふっ。私ね、中学の頃、少し水泳してたんだよ。肺活量には自信があるの」
(それ、今言う必要あった……? てゆーか、競泳水着姿見たいなぁ……)
「ヒロくんが吹奏楽をしてるといっても、その程度……運動においてはね、文化部は運動部に敵わないんだよ……?」
七海的には、セッ――は運動に入るらしい。
だが、吹奏楽部をなめるな……!
「誰が、敵わないって――――むぐぅ!」
「んっ………………ほら、敵わない♪」
(敵わないのは、キミが七海ちゃんだからだってば……)
「ふふ。ヒロくんの負け~」
意味の分からない理屈を並べるドヤ顔っぷりは大層愛らしいが――
「七海ちゃん、ちょっとその話あとにして……集中できないから……」
お返し、とばかりに頭を抱き寄せて口をつけると、僅かに細められた目が「受けて立つ」と強気に語っていた。
お互いに頬が上気し視界が潤んでぼやける中、思う。
(七海ちゃん……これ、ちょっと……強すぎだろ……)
表情を蕩けさせたまま何度も舌を絡ませる七海は満足して終わらせる素振りがなく、その快楽に果ては見えない。いや、むしろ満足はしているが、更に先を求められているのか?
(これじゃあギッタギタのメッタメタっていうか、クッタクタのメッロメロだな……)
「んんっ……ぷはぁ……ヒロくん、まだぁ……?」
(それは、こっちの台詞……)
「まだイってくれないのぉ……?」
(お、俺は遅漏じゃないよ。多分……)
と。いかん、変換を間違えた。
この場合、「言ってくれないのぉ?」ってことだよな。
どうしよう。本当だったらホワイトデーまで内緒にしておきたかったけど……
「ふぇ……わたし、もう……」
――『イきそ……』
(……!?!?)
倒れ込むようにして耳元で囁かれ、激しく上下する柔らかい胸の圧が限界を知らせていた。
俺は思わず上体を起こす。
「な、七海ちゃん待って……! それはさすがに俺が保たない――!」
「はぅ……ヒロくん……んっ……♡」
ぴくり、と俺の胸元でシャツを握りしめる七海に、俺は計画の全てを暴露した。
この戦い(?)、試合に勝って勝負に負けたのは七海か、はたまた俺なのか――
わーい! これでホワイトデーは、遊園地で仲良くデートができるぞぉ!
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