第29話 テスト期間とタピオカ
秋になり、あの夏の暑さは何処へ行ったのかと思うくらいに過ごしやすくなってきた今日この頃。俺と七海は二学期を迎え、いよいよ期末試験も大詰めというところだった。
「ねぇヒロくん?今日の漢文、どうだった?」
「漢文はまぁ、悪くなかったと思う。基本の文法さえ押さえていれば史実や思想にまつわる部分はほぼ暗記でいけたし、その辺は今回世界史とも範囲が被っていたから……」
「わぁ……ヒロくんて相変わらず頭イイんだね……私はイマイチ……」
「でも、昨日一緒にやったとこ出たでしょ?」
「うん。『あっ。これ、ヒロくんとやったやつだ!』って思った!そこはできたよ!」
満面のにこにこ顔が、もぉ~!ぐぅ可愛い。
昼過ぎの人がまばらな駅前を今日のテストの感想などを言い合いながら帰宅する。今までだったらテストの後なんてただ『早く帰れてラッキー』とか『明日のテスト勉強、嫌だな』くらいにしか思っていなかったが、七海と一緒というだけでこうも景色が違って見えるとは。
だって、平日の昼間でいい感じに人の少ないショッピングモールはぶらつくだけで優越感さえ感じるし、いつもなら混んでるタピオカミルクティーの店も今なら並ばずに買える。
(テスト期間か。これはこれで悪くないかもな……)
そんな、明日のテストの心配なんてどこ吹く風で甘さ控えめ氷少なめミルクティーをタピっていると――
「あのね、ヒロくん。明日でテストも終わりでしょう?そしたら、その……一緒にデートに行かない?」
自分から誘うのはなんだか恥ずかしいのか、タピオカをちゅうちゅうしながら膝を合わせる七海。赤くて太めのストローを咥えたまま上目がちに伺ってくる様子がそこはかとなく小動物っぽくて可愛いが過ぎる。だが、現在も放課後デートの真っ最中であるにも関わらずこうして改めて誘って来るということは、余程行きたいところでもあるのだろうか。
「いいけど、七海ちゃんから誘ってくれるなんて珍しいね?どこ行きたいの?」
「あのね?ここ……」
ちょい、と差し出されたスマホを覗き込む。
「……レインボーパンケーキ?」
七色で着色された七段重ねの、これまた女子の願望の究極を突き詰めたような『映え』に極ぶりなスイーツだ。
「うん。これが気になるなぁっていうのもあるんだけど、それよりも原宿へ行きたいの」
「原宿?今までデートの候補地に挙がったことなんてなかったのに、急にどうして……?」
「それは、えっと……こ、コスプレ衣装を見たくって……というか、欲しくて……」
恥ずかしそうに顔を赤らめて俯くあたり、ちょっとキワドイやつが欲しいということなのか。そうなのか? なぁ、そうなのか!?
「でっ、でもね! これは下見の一環でもあるの! 実は、こないだクラスの
「ああ、それでメイド服を見に行きたいってことか」
米島、グッジョブだ。
あいつはノリが軽いっていうかパリピっぽいとこがあって今まで近寄らんにしていたが、それがまさかこんなところで実力を発揮してくれるなんて。嬉しい誤算。
「あとね、『メイド喫茶は他クラスもやるだろうから、できればメイド服以外も考えておいて』って言われたから、色んなのを見てみたいの。何があるかなぁ?コスプレって、やっぱりバニーちゃんとか?」
「バニっ……!?!? げほっ! ごほ!」
「ひ、ヒロくん大丈夫!?」
「はぁ、はぁ……だ、だいじょうぶ……」
思わずタピをリバースするところだった……!
あああ……! それにしても、七海ちゃんは相変わらず日本の文化への理解が偏っている気がする。それが悪いとは言わないが。
「七海ちゃんのバニーなら、見てみたいかも。文化祭とは別で」
「……別で?」
「学校でバニーちゃんは絶対!!ダメだからね?」
「ダメなの?」
ダメに決まってんだろ!!そのロリ巨乳な悩殺プロポーションで何言ってんの!?バニーなんか着たら、胸が!背中が!太腿が!ウサちゃんの尻尾が!あああああ!!
「げほ、げほっ! と、とにかくバニーちゃんはダメ!!」
は~……鼻からタピ出そう。
「う~ん、じゃあ、メイド服と、それ以外に似合いそうなやつ選ぶの、手伝ってくれる?」
「そりゃもちろん」
這ってでも付いて行きますよ。
「よかった!ひとりじゃどんなのがいいかわからなくって。ヒロくんがいれば安心だね!それじゃ、テストが終わったら次のお休みの日に。約束だよ?」
(は~……明日のテスト、もうどうでもよくなってきた……)
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