第27話 ぱふぱふ


 夏祭りで楽しくデートした日の夜。彼女に会いたいなぁと思っていたのが伝わったのか、それとも俺の日頃の行いが余程良いのか。七海の方から会いに来てくれた。すぐ隣の、ベランダから。


「と、とりあえず入って。こんな時間だし、自宅に帰ろうにも外に出たのがバレたら怒られちゃうだろうから」


 それに、出かけた理由が隣家の幼馴染の家に夜這いだなんて、何があってもバレるわけにはいかない。七海のご両親は俺達の交際を良く思ってくれているようだから、できればそんないかがわしいと思われそうな問題を起こして印象を悪くしたくはない。俺は突如としてやってきた七海を窓から招き入れ、自室に通した。


「ふふっ。夜だとまた部屋の印象が違うね?」


「そ、そうかな?」


 なんだかそわそわと落ち着かない俺をよそに、ショートパンツにキャミソールという寝間着姿のままうきうきと周囲を見渡す七海。俺が先程まで寝ていたベッドに目を付けると、ごろりと横になる。そして両腕をこちらに向かって広げた。


「……ん。」


「ん??」


 うずうずとした視線に首を傾げていると、七海はじれったそうに足をばたつかせる。その度にゆるっとしたショートパンツの隙間から中身がチラついて直視できない。いくら親密になったからって未だに気になるもんはしょうがないんだ、だって太腿が白くてすべすべなんだもん。どうやったって意識するだろ。こういうのは、慣れとかそういうんじゃないんだよ。


「も~う!ヒロくん鈍いなぁ!こっち来て一緒に寝よ?」


「いや、それはわかってるけど……」


 こうも無防備にベッドに寝っ転がられると動揺と興奮を隠しきれない。だが、そんな踏ん切りがつかない俺の様子に痺れを切らしたのか、七海はうつ伏せになって枕に顔をうずめると、するりと腕を伸ばしてベッドの前に佇んだままの俺の手を引いた。


「……おいでよ?」


「うっ……」


「ここ、ヒロくんのベッドだよ?持ち主が寝ないでどうするの?」


「そうだけど……」


「本当なら、『おいでよ?』はヒロくんの台詞でしょう?」


 ジトっとした視線。どうやら俺があまりに奥手過ぎることに遺憾の意を示しているらしい。枕にくっつけたままの頬を膨らませ、可愛いが過ぎる。


「……ん。この枕、ヒロくんの匂いがする……」


 目を閉じてすんすんと枕に鼻を押し付ける様子がどこか蠱惑的だ。


「こないだ旅行行ったとき、イチャイチャしてくれたでしょ?」


「うん……」


「アレ、またして欲しい……」


 それは俺だってそうだけど……


「あのときはふたりきりの旅行だからってハメを外しちゃったから……でも、今日は向かいの部屋に姉ちゃんだっているし、廊下の奥には両親の寝室だってあるのに……」


 万が一あのときのように『ひゃんっ♡』みたいな可愛い声出されたら、絶対来てるのバレちゃうじゃん。いや、サイアク俺が夜中にAV見てたってことにすれば言い逃れでき……それもどうなんだ?こんな時間に大音量でAV見る奴いないだろ。逆に何隠してんだって、怪しまれるわ。

 そんな俺の葛藤もなんのその、七海はくいくいと腕を引く。


「ねぇ……こっち来て?」


 枕から半分覗く、睫毛の奥のうるうるとした上目遣い。


(ああもうっ……! こんなの断れる男いないだろ!?)


「……ちょっとだけだからね? 腕枕するくらいなら……」


「うん!」


 いそいそとタオルケットを広げる七海の横に寝そべって、俺達はしばし今日見た花火やお祭りの話で盛り上がった。腕にじんわりと伝わる七海の熱と頭の重み。シャンプーをした後の髪の香りがタオルケットに隠れるようにして包まるふたりの空間を満たしていって、それはもう夢見心地な……


「ねぇ、ヒロくん?」


「なに?」


「もう寝ちゃった?」


「ん? まだ寝てないよ」


 フツーに考えて、寝れるわけないからな。


 そんな下半身的事情を隠しつつしれっと答える。すると、七海はもぞもぞとタオルケットの中で身体をよじり始めた。どうやら体勢を変えようとしているらしい。

 さっきから気になってはいたんだが、こう……一緒に寝そべっていると谷間が強調されてヤバい。薄い生地のキャミソールの下は絶対にノーブラだし、横になると重力が働くからどうしても両胸が寄せられてぎゅうっとなるし。今、それが目の前にあるわけで。それらが解消されるなら、まぁ……と思っていたのも束の間。


「ん~。私、うつ伏せで寝ようかな?」


「いいんじゃない?」


「でも、それだとせっかくヒロくんのところに来たのに一緒に寝てる感が無い……」


(そ、そういうもんなのか?)


 よくわからないけど、七海は俺に寄り添って寝たいようだ。はぁ、可愛い。だが、体勢としてはうつ伏せで寝たいと。はいはい、わがまま可愛い。人見知りだから外ではこんなわがまま言わないけど、俺の前だとたまに無茶を言ってこうしてムッとやきもきしたりする。そんな、俺にしか見せない素顔的なところがまた可愛い。


「七海ちゃんが寝やすいなら、どんな姿勢でもいいんじゃ……?」


 言いかけていると、七海は思いついたようにぱぁっと顔を輝かせて俺の上に跨った。


「そうだ、こうしよう!」


(えっ……?)


 ひょいと腰のあたりに乗っかると、そのまま頬をすり寄せるようにしてぺたっとうつ伏せになる。俺の上に、ダイレクトに。


(うっ、やわらか……しんなりしてて猫みたい。でも……)


 まぁ、言うまでもないがダイレクトに胸が当たってる。てゆーか乗ってる!もにゅってなってる!しかも当然の如くノーブラなのが感触だけでわかる!!


(あああ……!どうしてこうなった……!)


「えへへ。これなら一緒に寝てる感ある~♪」


「…………」


(そ、そりゃあ、これだけ密着してればな……!)


 望みが叶ってご満悦な七海。ぶっちゃけ俺はそれどころではない。ほぼ裸同然な胸の感触もそうだけど、七海が乗ってるソコはもはやふんにゃりしてない大事なトコなんですが……


(もぞって動かれると擦れてヤバい……!なんなら跨られてる下からの眺めもヤバイ!!)


「な、七海ちゃん?その……も、もう少し上に乗ってくれない?せめて腹……腹に乗って……!」


「えっ? あ、ごめん。重かった……?」


(そうじゃないけど……!! むしろその重みが心地いいくらいだけど!!)


 七海はもぞもぞと身体を起こすと今度は腹部に乗り直す。


「これで大丈夫かな?」


 ぴとっとうつ伏せに張り付くと、俺の目の前にFカップの巨乳が迫って――


 ……もぎゅ。


(……!!)


 視界が暗転した。


「ん~。ヒロくんの頭抱えて寝ちゃお♪」


 ぎゅう。


 抱き枕よろしく俺の頭を抱え込む七海。体勢としては先程より少し上に来るから、位置的に七海の胸元に俺の頭があることになる。俺にひっつきたい七海としてはまぁ、当然そうなるんだろうが……


(息が、できない……!!)


 上からかかる胸の圧と、抱き締められる圧。そして顔面を包み込むおっぱい。


(なんだコレ……! ふわふわしててもちもちしてて、なんだか甘くていい匂い……!)


「んふふ。私、ヒロくんの匂いって、好きだな?」


「それは、どうも、こちらこそ……」


 もはや返事が心ここにあらず。


(あ~~……たぷんとした重みが気持ちいい……!冷房のせいか肌がひんやりしてて、それでいて包まれてるとじんわりあったかくなってきて……)


 その感触と幸福感に抗えずに微動だにせず固まっていると、耳元できょとんとした声がした。


「ヒロくん……おっぱい好きなの?」


「……!!」


 俺の鼻息はそんなに荒かっただろうか。速攻でバレた。


(ヤバイ!おっぱいに顔うずめて喜ぶとか、さすがにキモがられるよな!?でも男なら当たり前だし今更隠せない!どうしようどうしよう……!)


 胸の中であたふたともごついていると、七海は少しだけ上体を起こす。そして、あろうことか両乳でもにゅもにゅと俺の顔を挟み始めた!


「男の子って、こういうの……好き、なんだよね?」


 むぎゅむぎゅ。


「ど、どう? 気持ちいい……かな?」


 もにゅもにゅ。


「はい、ぱふぱふ~♪って……ヒロくん?」


「…………」


 ああ。俺もう、今日が命日でいい。


「あ、あれ? ダメだった? おーい、ヒロくん! な、なにか言ってよ~!! ひとりだけノリノリで恥ずかしいよ~!」


 想定外に無反応な俺に、顔を真っ赤にしながら七海は乳を離した。無限に続き沈み込むふわふわとたぷたぷから解放された俺は一言……


「ダメじゃ、ない……」


「そ、そう?」


「気持ちいい、よ……」


「なぁんだ、よかったぁ!」


「七海ちゃん。その……もう一回やって……くれる?」


「えへへ、喜んでくれた? いいよ! いつでもしてあげるね?」


 にこっと微笑む姿が慈愛に満ちて……もう、天使だ……



 ちょっぴり積極的だと思っていた俺の彼女は、俺の想定以上に結構ノリノリな彼女なのだった。

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