第15話 雨と濡れ透け
結局、俺はふたりの下着選びを最後まで見守ることはできなかった。だって出てくる単語全部が胸に関するものしか無いんだもん。当たり前だけど。あんな会話に耳をそばだてておいてまともでいられる男子高校生なんていられるわけないだろう?俺はいたたまれなくなって、入店早々の『わぁ~!このレースのやつ可愛い!』『先輩、それCですよ。入らないでしょ』を耳にした瞬間その場を離れた。
今になって思えば、これでよかったんだと思える。だって七海がどんなのを買ったのか知ってたら、絶対に『今日アレ着けてるのかな?』って思うだろうから。それだけで授業なんて耳に入るわけないって。
◇
翌月曜日。夏休みを目前にして七海と学校へ行くのもあとわずか。コンクールのせいで七月いっぱいは部活があるけど、それが終われば初めて過ごす七海との夏休みがやってくる。
(一応付き合ってるんだし、プールとかはテッパンだよな?お盆にばあちゃん家に帰省する以外は特にこれといった予定も無いし、七海ちゃんは結局俺以外に友達が少ない。勿論、予定もがら空きだ。彼氏として、一緒に夏を満喫しないと……!)
とはいったものの、俺と七海の間には常に幼馴染ムードが垂れこめているせいか、嬉しいことに一緒にいるのが自然な俺達。改めてデートに誘うことは思った以上にハードルが高いように思われてしまう。
(急に『プール行こう?』なんて言ったら引かれるかな?下心が見え見えでイヤがられる?)
かといって夏休みなのにどこにも誘わないのはどうなのか。悶々としながら下校していると、急に強めの雨が降ってきた。
「わわっ!今日晴れの予報だったのに!傘持ってないよ~!」
「梅雨明けたとか言ってたよな!?何これゲリラ豪雨!?とにかく、文句言ってもしょうがない!家までダッシュしよう!」
「うん!」
七海の両親は共働きで帰ってくるのは早くても19時過ぎ。俺達は放課後いつもそうするように、揃って七海の家に転がり込んだ。
「ふぇ~、びしょ濡れだよぉ……」
「ほんと、ひどい目に遭ったな……あ。お邪魔しまーす」
「ヒロくん、誰もいないよ?」
「いや、なんとなく。そこは礼儀的に」
「ふふっ、おかしなヒロくん!」
「それより、早く拭かないと風邪ひくよ。七海ちゃんほら、頭貸して」
「きゃっ♡くすぐったい!」
ポケットから取り出したハンカチでわしゃわしゃと七海についた水滴を拭っていくが、手のひらサイズのハンカチではあまりに心許ない。というか、焼け石に水だった。
「私、タオル取ってくるね!」
パタパタと脱衣所に駆けて行く七海を玄関で大人しく待つ。すると、バスタオルを二枚手にした七海が帰ってきた。家の中が濡れないように玄関にちょこんと腰かけた俺の元に駆け寄ると、膝立ちの状態でバスタオルをぶわっと広げる。
「ヒロくんのことも拭いてあげるね!」
「いや、俺は自分で――」
「わしゃわしゃわしゃ~!」
「ちょ……!七海ちゃんくすぐったいって!」
「さっきのお返し!」
「ははは!やったな!」
俺は傍に置いてあったもう一枚のバスタオルを手にわしゃわしゃし返した。髪を拭き終わってふと視線を下に映すと――
(……あ)
これでもかというくらい、七海の胸元が透けていた。白のブラウスがボディラインに沿ってぴったりと張り付いて、大きな胸がより大きく見える。というか、立体的に、煽情的に、その谷間を映し出していた。
ハーフカップっていうのか?やたら面積が少ないように思える下半分に、上半分はレースに彩られたデザインの下着。こう言ってはアレだが、ちょっと走ったらズレて乳首見えちゃうんじゃないのソレ?みたいな心許なさだ。ああ、ズレないように上半分がついてるのか……って。ひとりで納得してる場合じゃねーよ。
(ちょ……!七海ちゃんてこんな色っぽい下着着けてるの!?)
思わずタオルを動かす手が止まり、視線が釘付けに。その様子に気が付いたのか、七海の手も止まった。
「――あ。」
恥ずかしそうに俯き、俺同様に胸元に視線を凝らして赤くなる。
「ご、ごめんね!透けちゃってたみたい……!こういうとき、やっぱり紺は目立つね……?」
「いや、謝ることじゃないって。俺も気づくのが遅れてごめん……」
「「…………」」
「ねぇ、ヒロくん?」
「な、なに?」
「この下着、どうかな?こないだよしりんちゃんと一緒に行ったときに買ったの」
「……!」
(あいつ……!なんてものを七海ちゃんに着せやがる!)
いや、この場合はむしろグッジョブなのか?脳内で自問自答が止まらない俺の顔を、七海はおずおずと覗き込んだ。
「ねぇ……似合ってる?」
「いや、それは……」
思わず視線を逸らす俺に何を思ったのか、七海はつつつ……とブラウスを首元までたくしあげて追い打ちをかける。真っ白な腹部が露呈し、その胸元が目の前に晒しだされた。僅かに濡れた紺色のブラジャーに、雨粒のついた胸。そしてどこか心細そうな七海の上目遣い。
「ヒロくん……こういうの好きじゃない?」
「……!?」
「やっぱり、ちょっと大人っぽ過ぎたかな?」
『てへへ……』と少し残念そうにブラウスを元に戻そうとする七海を、俺は抱き締めた。
「……!?ヒロくん?」
「七海ちゃん……似合ってる。凄く似合ってるけど、そういうのはダメだよ……」
俺の理性が、吹き飛ぶからさ。
「ふえ?だ、だめ?」
「うん、ダメ……だって、透けちゃってるじゃん」
「……あ、うん」
「他の人には、見られたくないな……」
「ヒロくん……」
「それに、そんなに前脱いだら、風邪ひいちゃうよ……」
「う、うん……」
七海の前を見ないようにしばらくぎゅうっとしていると、冷えたブラウス越しに七海のあたたかさが伝わってきた。その感触がどうしようもなく色っぽくてその場から動けないでいると、痺れを切らした七海はそっと身体を離して問いかけた。
「ヒロくん……お風呂、入る?」
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