第14話 JKの買い物
(確かに『JKっぽい遊び』とは言ったが……!『興味ある』ってそっちかよ!)
「……先輩?なにか問題でも?」
「いや、別に……」
(なんなの?JKってこんな気軽に友達と下着買いに行くものなの?ここで否定したらモンペならぬモンスター束縛彼氏認定される系?)
でも、よしりんはさっきから七海の胸しか見ていない。明らかに新しい『おもちゃ』を見つけた目つきをしている。
「じゃあ、また後日。あ、連絡先渡しておきますね?」
「う、うん……!ありがとう!」
◇
学校から最寄りの駅までよしりんと三人で下校し、俺と七海は反対方向のホームに手を振った。電車に乗り込むよしりんを見て、満足そうな七海。
「えへへ……友達、できちゃった。これもヒロくんのおかげだね!」
「七海が嬉しそうでよかったよ」
「お買い物、今週の土曜にどうかって」
「へぇ、どこ行くの?」
ピロリンと早速届いたメールの内容をそれとなく伺うと、七海はさも嬉しそうにスマホで口元を覆った。
「横浜!美味しいジェラートのお店があるから、そこに行こうって!」
「横浜、ね……」
(だとすれば、最近吹奏楽部の女子の間で話題になっていたあの店か……?)
「ふふっ、楽しみだなぁ!」
「でも七海ちゃん、人見知りな方だよね?よしりんと会うのは二回目だけど大丈夫なの?」
正直に言えば心配……っていうかなんていうか興味あるっていうか。俺もついて行きたい。だが、ショッピングの目的が
(まさかよしりんの奴……これが狙いで?)
「…………」
すっげー、心配。
だが、そんな俺の横で、七海は咲くような笑顔を見せるのだった。
「大丈夫だよ!よしりんちゃんはヒロくんの後輩だもん!きっと優しいよ!」
◇
明くる土曜日、お昼過ぎ。俺は帽子にデニム、Tシャツという、これでもかってくらいに目立たない服装で横浜駅に立っていた。視線の先にはそわそわと、フリルのスカートを揺らしたサマーブラウス姿の七海が改札方向に視線を凝らしている。可愛らしい小さな茶色のポシェットからスマホを取り出し、時刻を確認しているようだ。
(よしりんの奴……さては遅刻だな?)
結局、七海が心配でついてきてしまった。傍から見ればストーカー。勿論これが褒められた行為でないことは重々承知している。だが、姉の琴葉に相談した結果帰ってきた答えが『え~!なにそれ楽しそう!私も七海ちゃんのふわとろおっぱい触りたい!!』だったので、女子同士の買い物でも油断ならないと判断した俺はやや離れたところから七海を視界におさめ、今に至るというわけだ。
(ごめん、七海ちゃん……でも、相手がよしりんだと思うといてもたってもいられない俺の気持ち、わかってくれ……)
届かない想いを念じながら様子を伺っていると、改札の向こうからショートパンツに半袖シャツ姿のよしりんが姿をあらわした。元から細くて小柄なよしりんがああもラフな薄着を纏うと余計に華奢に見えてしまう。だが、すらっとした体形が引き立ってとても似合っていた。そんなよしりんは『遅れてすみません』と一礼すると七海を引き連れて若者がよく行くショッピングモールへ足を向けたのだった。
「七海先輩、喉乾いてません?私スタバの新作フラぺ飲みたくて。ちょっと寄ってから行きましょうよ?」
「わぁ~!あの苺のやつでしょ?実は私も気になってたの!」
にこにこと女子トーク全開でスタバに入るふたりを、向かいのテナントのマックの窓際から伺う。
(七海ちゃん、あんなに楽しそうに……)
俺の気にし過ぎだったのだろうか。よしりんはちょっぴり遅刻はしたものの、日本の生活に慣れていない七海を率先してリードするようにスタバで注文をこなし、話に花を咲かせているようだった。会話の内容は聞き取れないが、終始笑顔の七海を見ていればそれくらいわかる。
フラぺとケーキを片手にしばらくお茶を楽しんだふたりを確認し、俺は帰ろうかと席を立った。
(この調子なら大丈夫そうだな。流れ的にはこのあとショッピングして、
「…………」
(どういう風に選ぶんだろう?やっぱ可愛いのがイイとか、肌触り重視とかあるのか?七海ちゃんのことだから大きいサイズのが無くて困ったりとか、『誰に見せるか』とか意識して買ったりするのかな?)
「…………」
(『誰に』って……俺に?)
は、はわわ……!
結局、ダメとはわかっていても好奇心と欲望に負けて俺はもう少しだけ様子を見守ることにしたのだった。
◇
スタバで念願の新作フラぺを楽しんだ私は、七海先輩と若者向けのブティックが並ぶ一角にやってきた。結局、軽く話した感じだと七海先輩はちょっと人見知りな気はあるけど基本的にに素直でイイ子なことしかわからず、茅ヶ崎先輩との馴れ初めも『ヒロくんとは小っちゃい頃から一緒だったの♡』以上のことは聞き出せなかった。
(女子だけで彼氏がいないところならグチのひとつでも出てくるかと思ったけど……見た目どころか中身まで天使だなんて。信じらんない。天は二物を与えるってこと?)
茅ヶ崎先輩は、どうやら相当なアタリを引き当てたらしい。ってゆーか、こんな美少女が自分を慕う幼馴染だなんて、男だったらそれだけで人生とんとん拍子でしょ?『可愛い嫁のメシが旨けりゃそれで幸せ(サラリーマン川柳)』はパパの持論だし。それでいて勉強もできて楽器の才まで持っているなんて、やっぱり先輩はズルい……
(まぁいいや!今日はとにかく情報収集!いい機会だから茅ヶ崎先輩のことアレコレ聞いちゃおう!って……我ながら恐ろしいくらいに前向きな思考。まさかとは思うけど、陽キャって、陽を呼ぶのかしら?七海先輩、恐ろしい子……)
私は、自分では認めたくないけど自分でも認めざるを得ない程には茅ヶ崎先輩に惹かれていた。春の新入生歓迎会。あの演奏を初めて耳にした、あの瞬間から――
「ねぇよしりんちゃん!これとかどうかな??」
明るい声のする方に振り返ると、控えめなデザインの白いブラジャーを手にした七海先輩が。
「でかっ……!え?てか何ですかソレ?お椀??メロン??顔埋まるんじゃないですか??ちょ、七海先輩サイズなに――」
(Fかよ……)
ぴらりと捲ったタグに、思わず『うげぇ』とため息が出る。
(天は三物を与えるってか?)
私の手にしたブラジャーは、悲しいことに『アゲ寄せB』。寄せて上げればかろうじてCに見えなくもない、貧乳JKの強い味方。
「……先輩。なに食べたらそんなになるの?」
「何って……なんだろう?」
「アメリカって……やっぱハンバーガー?ステーキ?チェリーパイとアイスクリームドーナツマシマシ?むしろベジタリアン?」
「なにその偏見~!」
「いいから教えろや!」
こちとらチーズ、鶏肉ささみ、キャベツ食べて日夜がんばってるんだぞ!
イラっとしてゆさゆさ揺すると胸がぷるんぷるんっして揺れるわ揺れる。
(こんなんぶら下げて体育とか、男子の視線半端ないだろうなぁ……)
ぶっちゃけ羨ましい。けど、彼氏だっていう茅ヶ崎先輩が色々心配になっちゃうのはちょっとわかるかも。
先輩に七海先輩を『彼女だ』って紹介されて『七海ちゃんと友達になってあげて?』って言われたときは『なんだこのデリカシーなし
本当はこんな、敵に塩を送るような真似したくない。けど、茅ヶ崎先輩のあんな姿を見たら断れるわけもなかった。だから、これが今の私にできる最善。
(でも、やっぱ……)
ちらりと、『じゃあこれはどう?』なんて楽しそうな七海先輩とフェイスマスクか?ってくらいに馬鹿デカいブラジャーが目に映る。
(茅ヶ崎先輩も、巨乳が好きなのかな?ふたりは付き合ってるんだよね?だったら、今日買ったブラを茅ヶ崎先輩が見ることも……?)
私は、茅ヶ崎先輩がそういう方面にイケイケじゃないのを知っている。ふたりの様子を見る限り、おそらくまだCには至っていないだろう。だって、茅ヶ崎先輩は七海先輩のことを宝物みたいな目で見るから。
それは、ちょっとした出来心だった。
「なんですか、その機能性ばっかり重視した色気のないやつは」
私は七海先輩が手にした無難な白ブラを放り捨て、『大きめサイズ』と書かれたコーナーの中で一番フリフリでセクシーなやつを手に取った。下半分がカップで、上半分がレースの透け感たっぷりめなやつ。
「黒じゃあさすがにブラウスから透けて見えるから、ピンクにしときましょう。いや、先輩は肌白いから紺も似合うかも。でもやっぱ紺も透けるかな……?」
「透けるって……!えっ、コレ学校に着ていくの!?」
「自宅でひとり悦に浸ってどうするんですか。彼氏いるんだからこれくらい着こなしてみせてくださいよ。どうせ放課後はイチャイチャデートするんでしょ?」
「ふえっ!?いや、その……ヒロくんとはまだそういう関係じゃあ……」
「将来そうなることを見越して、今日は自分に投資しておきましょうよ?」
そう言って、七海先輩に強引にセクシーブラを押し付ける。
「あとコレも」
セットのデザインのレース紐パンもおまけに付けた。
「えっ、あっ。ちょっとよしりんちゃん!?」
「はいはい、レジ行くレジ~♪巨乳美少女はその胸を着飾る義務があるんですから!」
「でも、こんな……!恥ずかしいよぉ!」
「いいから行ってこいっ!!」
そう。それはちょっとした出来心。
「今度、感想……聞かせてくださいね?先輩♡」
(……あ。試着させんの忘れたわ。まぁいいか。また今度来よう!)
巨乳のブラジャーを選ぶのは、案外楽しかった。
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