第7話 質問

Mさんに連れられて、庭園の見える旅館のような風情のある綺麗な和室に移動した。


「ささっ、ここに座って。」


Mさんに言われるように、座布団に座る。

畳の藺草のいい香りがする。なんか、懐かしい感じがするというか。とても心が安らぐ。


「はい、お茶どーぞ。」


熱い緑茶を淹れてくれて、Mさんも机の向かい側に座るとズズーッとお茶を飲み始めた。


「まったく、説明がちょっと下手だったなぁ、茂上君。ごめんよ少年。うちの更正員って口下手で個性的なのが多くってね。でも悪気はないんだ。皆いい人達なのだよ。」


(「あんな事言われて、いい奴だって言われても信じられないんだけど。」)

あんな怪しい集団にいきなり、うちの更正員になれだの何だの言われても。

逆にどこを信じろと?

俺はそう思いながら熱いお茶をズズーッと啜る。


「さて、リーダーから言われた通り質問に何でも答えちゃうよ!さぁどーぞ!カモン!」


身を乗り出して両手を広げそう言うMさん。


「………じゃあ、復讐屋マコトってなんだ?」


「そもそも復讐屋っていうのはね、君たちの住む世界にも実際ある仕事なのだよ。その名の通り、依頼者から報酬を受け取り、その依頼者の標的に対する復讐を請け負う仕事さ。まぁつまりは、依頼者の恨みを僕たちが代わりに晴らすってことだね。


表上ではそういうことになってるけど、僕たちの本当の仕事は、先ほどリーダーが話してくれたように、『怨魂』という君が以前見たあのバケモノになる原因を浄化して、その人間が壊れてしまわないように阻止、あるいは防止する。そして尚且つ、『信念の御魂』という欠片を集める、というのが僕たちの仕事だ。」


「その、怨魂についての説明はこの前聞いたから分かるけど、『信念の御魂』ってのは?」


「『信念の御魂』は、僕たち生きる人間を守ってくれたり力を与えてくれたりする魂が具現化したものだよ。普通の人間には見えないのだけどね。

でもね、それがある日突然消えてしまったことによって怨魂が一気に溢れ出して、人間に良くない影響を与えているんだ。


「よくない影響……………………。」


「人間は思いの塊で成り立っている。負の感情が多ければ多いほど、怨魂にとっては好都合なのだよ。

怨魂の目的は何なのか、まだよく分からないのだけどね。

でも怨魂に完全に飲み込まれると、最悪死ぬ。あの男の子のようにね。」


「……………………………!!」

(「そんな、おとぎ話のような事が現実にあるって言うのか………………?!」)


信じられなかった、でも実際この目で男の子がバケモノになって、力を使って死んでしまったのを見てしまったから信じざるを得なかった。


「じゃあ、俺は何でそんなに復讐屋マコトの一員にならなくちゃいけないんだ?第一、俺にはMさんのような強い力は持っていない。戦えるような人間じゃない。」


「それは…………………………『君が選ばれたから人間』で『戦える人間』だからだよ。」


「『選ばれた』?俺が誰に?」


「……ごめんよ。それは僕も知らないんだ。」


「そう、なのか……………………。」

一瞬間があったのが少し気になったが、とりあえず流した。


「力の事だけど、大丈夫。君にもあるよ。ちゃんと君の心の臓に。心があれば、信念があれば、君は戦える。ただ、自分で気づいてないだけだよ。」


「……………………………。」


(「本当かよ……………。俺にそんな力、絶対ないに決まってる。」)

やっぱりどうしても、信じられない信じたくないという自分がいる。


でもそこまで信じたくないと思うのは何故だろう?それもまた分からない。



「けど、その選ばれる人間っていうのの条件の一つは『特別な復讐心をもつ者』なんだろ?俺はそんな復讐心持ってない。」


「そうだね、確かに今の君を見るとそうは見えない。不思議だねぇ。

でも君が選ばれたことに変わりはないんだけどね。」


「そんなこと言われてもなぁ…………………………………。」


「まぁとにかく、これから少年には復讐屋マコトとして活動してもらうから

よろしくね!」


「まだ俺はなるなんて言ってない!」


「君はまたあの男の子のように、人が自分の前で死ぬのを見たいのか?」


「!」


一瞬Mさんの雰囲気が変わって驚き、身震いした。


「いいかい?君には人を救える力を持っていると言っているんだ。力がないから、及ばないから、救いたくても救えない者だっている。そう思えば、力を持っている君は幸せだと思わないのかい?その手で、何十人何百人と救えるのかもしれないんだ。


あの時、命を無駄にするな。最後まで諦めるな。と言ったのは誰だい?」


「……………………………。」


「こんな脅しをしたくはないが、やらないのなら殺す。それとも今日まで生きてきて見たり聞いたりしたものの記憶をすべて消すしかないが?」


「分かったよ、やるよ。やればいいんだろ?俺には向いてないと思うけど。俺の力で人を救えるのなら、協力する。」


「本当かい?!嬉しいよ、ありがとう少年!」


俺に飛び込んで抱き着いてきたMさんは、顔を摺り寄せてきた。

「おいっ!俺は男に抱き着かれても全然嬉しくないんですけど!」


「えっ、君、中々大胆なこと言うねぇ~。女性になら抱き着かれたい、と?」

ニマニマとにやけ、俺をイジるMさん。


「~~~~~~~~~~!!!!!!!」

俺はMさんの頭に何発ものチョップをかます。


「あ~っ!ごめん!ごめんよってば~~~~~っ!!!でももっとやってーーー!!!」


「喜ぶなっ!!この変態!!」


(「さっきまであんなに真剣な顔してたのに、やっぱり俺を脅すための演技だったんじゃないかよ!」)


YESと返事しなければ良かったと後悔した俺だった。

































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復讐屋マコト 笹原絢斗 @gannko

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