第6話 復讐屋マコト

心地良い風が俺たちを包み込み、やさしい鈴の音が鳴り響き、祠から光が降り注いだ後、俺たちは何処かへ飛ばされた。


目を開けると、何百期もの漆黒に塗られた鳥居が立ち並んでいた。

黒い鳥居なんて、見たことがない。

でも、とても美しくて神聖な空気感があった。


(「ここは一体どこだ………………?」)

興味深々につい、きょろきょろと見回してしまう。


(「まさかここ、あの世じゃないよな……………………。」)


Mさんは死神なんじゃないだろうな。と疑いの目を向けたが、Mさんはなんとなく俺の考えてる事を察したようで、

「大丈夫。ちゃんと僕たちの拠点に向かってるから。あの世じゃないから、安心してくれたまえ。一様。」


「一様?!ホントに大丈夫なんだろうな…………?」


「本当に大丈夫だから、心配しないでくれ。まぁ強いて言うならば、現世とあの世の中間地点のようなものだよ。死にはしないし、死んでないから。」


本当かよ………。と思いつつ漆黒に塗られた鳥居を一基ずつ潜っていく。


しばらく潜り続け、最後の一基を潜ると和風デザインの洋式スタイルの格好いい建物が建っていた。


「す、すご………………………。」


俺は口をあんぐりと開け、呆然と立ち尽くす。


ホントに最近は驚かされてばかりだ。この人と出会ってから目まぐるしく、いろんなことが起き過ぎている。

こんな、おとぎ話の中ような場所があるなんて。


(「この人もしかして、疫病神なんじゃ……………………」)


と心当たりの記憶を辿り、白々しさ満載のMさんを見つめる。


「少年着いたよ。ようこそ、復讐屋マコトの本拠点へ!」


室内も予想通り、とても趣があって格好いい。


「復讐屋………………?なんだそれ?」


「そのことについても、後で話すから。さぁ入った入った。」


Mさんに背中をグイグイ押されて、どんどん奥へ入れられる。


「まずは、ここの一番偉い人に会ってもらおうかな。」


(「ここは会社なのか?それとも何かしらの組織みたいな?全く分からない…………………。」)


頭の中でああだろうか、こうだろうか、と予想・分析を始める。だがここでは俺の知ってる知識や常識は通じないのは分かってるから、もう流れに身を任せよう…………と、半ば諦めた俺であった。


「失礼しまーす。連れてきましたよー。」とMさんが誰かを呼ぶ。


「…………………………あぁ。」


とても貫禄のある声で返事が返ってきた。

そこには、明らかに只者ではないオーラを放つ男と、その隣に立っている賢そうな男がいた。


「鴻悠真君、よく来たね。立て続けに色々な事が起こって驚いたろう?」


「あ、いえ…………………………………」


この人の前にすると何となく、頭を下げたくなる。

この人はここのリーダーなのだと、敬わなきゃいけない人物なのだと直感で分かった。


「彼は茂上健二。ここでは一番偉い立場の人だよ。うちのリーダー。

 そしてその隣にいるのが、伊藤泰彦君。茂上君の次に偉い人だよ。」


伊藤さんという人が、ペコっと会釈をすると俺もつられて頭を下げた。


「きっと君は今、聞きたいことが山ほどあると思う。そこを申し訳ないが、まず俺の話を聞いてほしい。」


「…………………………はい。」


「いきなりだが、君にはこの復讐屋マコトの更正員になってもらう。」


(「…………………ん?」)


何を言ってるんだろうか。この人は。


「怨魂に憑かれた人間を救い出し、その怨魂を浄化する。そして、『信念の御魂』というものを見つ出して、それを回収してほしいんだ。」


「ちょっ、ちょっと待ってください!!」


俺は話が勝手に進むのを阻止する。自身の動揺は止まらいが。


「俺がその…………復讐屋マコト?っていう組織の一員になって…っていうのはどういうことですか、そもそもいままで俺が見たあのバケモノとか一体何なんですか?!」


「……………落ち着いてくれ。ちゃんと順に話す。」


俺は胸の内に溜まっていたものが一気に溢れるように、質問攻めしてしまった。

ハッとして我に返り、息継ぎを取り戻す。


「よし。冷静に自分を落ち着かせてよろしい。」


そして話を戻した。

「もう一度言うが、君には復讐屋マコトの更正員になってもらいたいんだ。いや、ならなくてはいけないんだ。」


「……………だとしても、なんで俺なんですか?他の人じゃダメなんですか?」


「あぁ。『これは君の運命なんだ。』とでも言えば、聞こえはいいのかもしれない。だがこれは誰でもできる仕事ではないんだ。」


「はぁ…………………………。」


そういえばあの騒動の時、あの女の言ってた事を思い出した。


〈私たちは神様でも、正義のヒーローでもない。〉と。


「復讐屋マコトの一員になる者には、ある条件が共通している。」


「条件?」


「それは…………………。」


ゴクリ、と喉につっかえるものを一度飲み込む。


「『誰よりも強く、特別な感情を持った復讐心を抱いている者』と『自分の信念に強い熱情をもつ者』だ。あとはその本人の素質。」


(「は………?復讐心…………?熱情……………………?」)


「そしてその条件に、君は完全に当てはまったんだ。」


「…………………………すいません。よく分からないです。」


「分かっている。無理もない。だが君は選ばれた。」


「じゃあ俺は、その。誰よりも強い復讐心を持っているから、この組織の一員に選ばれた。って言う事ですか?」


「そうだ。」



納得がいかず、茂上さんの座っている書斎の机に乗り出す。


「待ってください。それはないです。俺は誰かに対して復讐してやりたいなんて人いません!それに俺にはそんな、Mさんたちのような特別な力は持っていない。」


「それは『ない』のではなく、『知らない』あるいは『気づいていない』という可能性は?」


「だから本当に俺、そんな心当たりないんですって!」


復讐心だの、更正員になれだの、勝手にあれこれ決めつけられて流石に腹が立ってきた。

俺は口調を強くして言う。


「冗談はいい加減にしてくれませんか?」


「冗談で人は死ぬのか?だとすれば、人間という生き物はとっくに滅亡でもしてるだろうな。それと、冗談で君の助けられなかった少年は死んだのか?」


「…………………………!!!!!」


冗談で言ってないというのは、この人の目を見れば分かる。

だが、そんな醜い感情で力を発揮できるなんて、全然嬉しくない。

認めたくなかった。俺は違う、と。


「この復讐屋マコトは国の秘匿の団体なんだ。俺たちの存在を知っているのは総理とその秘書、他数名の政府の官吏のみ。もちろん俺たちの存在を世間に知られてはならない。公言に言った場合、殺してその人物に関する記憶を世間から一切消す。」


俺は今、『殺す』と言われたことよりも『記憶を消す』というワードに引っかかったが、とりあえずおとなしく聞いた。


「とにかくそういう事だから、心づもりしておいてくれ。他にもっと知りたいことがあればMに聞いてくれ。」


「……………はい………………………。」


「少年。あっちに別室があるから、そこで話をしようか。」


俺は何も言わず、ただ頷きMさんの誘導についていった。















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