第5話 入口

あの騒動から数日経った。


でも、体感としてはまだ昨日のことのように感じる。


あの後院内に戻ったのだが、Mさんの言う通り、本当にあんな事が起きていたのかと疑うくらい、あの続々と運ばれてきた患者たちは順調に元気になっていったそうだ。


俺はMさんと約束した通り、あの出来事と彼らについてのを話をしていない。


誰かにあの事を話したくなる衝動がたまに来るが、そこをぐっとこらえる。

まだこの年で死にたくはないし。


俺はあの騒動の後、独自であの男の子や担当医の身元を受付の事務員さんに調べてもらったり、男の子が入院していたという病棟へ赴いて、そこの医師や看護師の人たちにあの男の子について聞いてみた。


院内のいろんな人たちに聞き込みしたが、2人についての情報は一切入ってこなかった。

しかも、「そんな人はこの病院にはいない」とばかり返答されるのである。


もちろん、個人情報を簡単に他人に教えられない。という理由もあるのかもしれない。

だが、少なくとも医師の名前くらいは上がってくるはずだ。


2人は死んでからどうなったのか。その家族はどうしてるのだろうか。あるいは2人のそれぞれの家族は自分の身内が死んだことは知っているのだろうか。


様々な疑問がここ数日、ずっと頭をよぎり続ける。


これもまた、「怨魂」というものの影響なのだろうか?


おかしな状況というと、どう考えてもあれしか原因が思い当たらない。


うーん、うーん、と悩ませていると、

「おいっ!悠真!!聞こえてるのか?!」


「うわっ?!びっくりしたー。」

加藤だった。全然気付かなかった。


「お前大丈夫かよ?最近なんかずっと上の空だけど。なんかあった?」


一瞬ギクッとしたが、「何もねぇよ。」と普通に装う。


「お前なんか、隠し事してね?」


(「妙に鋭いな、コイツ。」)

「別に?何も。」


「……………………………………あー分かった。告って振られたんだろ?」


(「こいつを一瞬でもすごいと思った俺が馬鹿だったわ………………。」)


「違う。」


「先生に叱られたんだろ!」


「お前じゃあるまいし。」


「えーなんだろなー。じゃあ……」


こいつと話してると悩んでることとかが吹っ飛んでって、なんでいままでこんなモヤモヤしてたんだろ?と馬鹿馬鹿しくなっていくんだよなぁ。


こんな何気ない会話が、今の俺にとってどんなに救いのことか。

(「こいつに心を救われるなんてな…………………。」)


「まぁ、なんかあったらいつでも話せよなっ?話すとスッキリするしさ。」


「あぁ。」


俺は少し考えてから、加藤に尋ねてみた。


「最近さ、この医大か病院の方で亡くなった先生とかいたっけ?」


「亡くなった先生、ね…………………。俺の知る限りでは知らねぇなぁ。

 その亡くなった先生に何か用でもあったのか?」


「いや、そういう訳じゃないんだけどさ。なんとなく、先生が減った気がして。」


「なんだそれ。俺を怖がらせようとでもしてるのか?第一学生ごとき俺たちが、そんな病院内の細かい事分かるわけないだろ?まぁ、俺の科の方でも一様聞いてみるけどさ。」


「サンキューな。」


「おうよ!」とニカッと笑って返事した加藤と途中まで一緒に帰り、医大の最寄り駅前で別れた。




(「さて、夕飯何つくるかなー。」)

俺は大学に入学してからは一人暮らしで、自炊や洗濯、掃除を全て一人でこなす。

最初は大変だったけど、慣れたものになってきた。

人並みには出来ているのではないかと思う。


「今日の夕飯は、豚の生姜焼きでも作るか。」と決めて足りない材料がなかったか思い出そうとした。


「やぁこんにちは、お兄さん。いや、こんばんは。かな?」


後ろから声を掛けられ振り返ってみると、長身の美形の男が立っていた。


一瞬誰だか分からなかったけど、間違いなく彼だった。


「あ」


「やぁ少年。ご無沙汰だね。」


Mさんだ。相変わらず綺麗な顔で、通常通りニコニコとしている。


服装は和服で、とても色気のある大人っぽい風貌をしている。

しかしこんな目立ち様なのに、誰も振り返りもしないなんて。これもまたおかしな話だ。


ともかくそれよりも、聞きたいことがたくさんあるのだ。

「あんた、今まで一体どうしてたんだよ!」


「まぁまぁ落ち着き給え。この後ちゃんと話すから…………」


「この後じゃなくて、今すぐ話せ!今すぐ!」


するとMさんが、

「あぁ。今僕の姿は君以外、誰にも見えてないよ。それと、ここをちょっと離れた方が良さそうだね。君、変な目で見られてるから。」


「………!」


言われてみれば、端から見れば独り言を話してる、ヤバい奴だと思われかねない。


「とりあえず、向こうに移動しようか。」


少し恥ずかしさを思いつつ、Mさんが歩む方向へついていく。






「……………………………どこまで行くつもり、なんだ?」


「あと少し、だよー。」


あと少し。とか言ってたけど、ここ山なんですけど。

なんで話するのに登山してるんだよ。

しかも、結構ここ急斜面なんだけど。ちゃんと人が歩くための道じゃないんですけど。


ここは、病院の窓から見えるここら辺では唯一の御岳山という山だ。


「他に人が登るためのルートとかないのかよ…!」


「この山の険しさのように、これもまた人生だね!」


「意味わかんねぇよ!!」


「まさかっ、本当は普通に人が歩くための整備された道があるんじゃないのか?!」


「………エヘヘ~(∀`*ゞ)」


「エヘヘ~(∀`*ゞ)、じゃねぇよ!やっぱりちゃんとした道があったんじゃないか!」


なぜこんな所にまで来なきゃいけないのか、という怒りとここ数日色々と悩まされた怒りと相変わらずの変態野郎に、流石にイライラし始める。



「なんで山奥にまで来なきゃいけないんだよー?」


「ここを登った頂上にある所が、僕たちの本拠地の入口だから~。」


「入口ぃ?」


闇雲にひたすら足を前に前に踏み出し、コツコツと登っていく。

Mさんはめっちゃ笑顔で嬉しそうに登っている。

また変態モード発動か?


「あ、ほらほら。見えてきたよ~。」


Mさんが指差す方を見ると、祠と墓があった。


お参りさせるために、こんな所まで来させやがったのか。とキレそうになったが、後ろを振り返ってみると、それはもう広大な大地と息を吞む程に綺麗な夕日が登っていた。


「すご……………………………。」


「ふふ、とても美しい所だろう?」


自慢げなMさんにムッとしたが、これは確かに自慢したくなるのも当然だ。


「ここに僕たちの本拠地があるんだ。詳しくはこの中で話すから、こちらに。」


「この中って、こんな小さな祠にどうやって?」


「おーい、僕ですー!通して~!」


すると、山の木々がざわざわと音をたて始め、やさしい風が俺たちを包み込む。

祠からは心地の良い鈴の音が、チリーン、チリーンと音を立てている。



すると俺たちは、光に包まれ異空間に飛ばされた。























































































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