第4話 白い悪魔の女
男の子は光の粒となって消えた。
きっとこれは死んでしまった、ということなのだろう。
なんとなく、あの最後の表情を見て感づいた。
けど、まだ長く生きられる可能性だって、病を治せる方法だっていくらでもあったのに。
いくらあの子が死にたいと、殺してほしいと言ったって、あんな場所で、あんな時に死ぬべきではなかった。
生きる可能性を勝手に終わらせ、死への道を選ばせたあいつ等が許せなかった。
何も出来なかった俺にも責任はある。
けれどあんな最後はないだろう。
悲しすぎる。あの子が可哀そう過ぎる。
何度も心の中で疑念と後悔を叫んだ。
この結果に納得のいかなかった俺は女の胸ぐらを掴み、怒濤を浴びせる。
「なんで殺ったんだ!他にあの子を助けられる方法がいくらでもあったはずだ、もっと長く生き永らえたはずだ!なのになんであの子の命を勝手に終わらせたんだよ?!」
「…………………。」
「おい!なんとか言ったらどうなんだよ?!なぁ!!」
女は黙ったまま、瞬きせず俺をじっと見つめる。何か見透かされているようで、このまま見つめていたら、何処かへ吸い込まれてしまいそうなくらいに。
「落ち着きたまえ、少年。彼女だってこんな結末を望んでいたんじゃない。だから彼女に当たるのはやめてくれないか。」
「あんたもあんただ!何で俺が救急にあの子を運ぶのを妨げたんだ!」
「さっきも言ったろう。彼は既に手遅れの状態だった。僕たちに何か助ける方法があったとしても、彼はもうだめだった。」
「知らねぇよ!あんたらの都合なんて!」
すると、女がやっと口を開く。
「では、あの子に、生き地獄を味わえ、と?」
「………は?何だと…………?」
「彼は苦しんでいた。悲しいと叫んでいた。でも、そんな彼の心の声を聞こうとしなかったのは、意向を汲んでやれなかったのはどこの誰?」
「?!」
「あなたの言うことは、綺麗事だ。自分の手を汚してまで、何かを、守り抜いたこともない甘ったれが、一丁前に、偉そうなこと、言わないで。」
あの子の気持ちを察することの出来なかった貴女にも、あの子の親も、あの子の医者にも落ち度がある。」
「は?!あの子の担当医はともかく、あの子の親や俺も悪いっていうのか?
それに偉そうなのはどっちだっての。」
「………………………………………………………………。」
「おい!また、だんまりかよ!!」
「2人とも、ストップだ。気持ちは分かるが、ちょっと落ち着き給え。」
Mさんが仲介に入り、俺たちを宥める。
「こんな状況で、逆に何で落ち着いていられるんだよ!!」
「君、少なくとも医者の端くれであるならば、冷静になるというのは必要な事なのではないのかい?」
少し顔色を変え、真剣な顔でMさんは注意した。
「………………っ!!」
手のひらを合わせ、パン!と手を叩き、この最悪な空気を少し軽くして、気を取り直す。
「コホン。とにかく、少年にはまた後日改めて説明するから、今日の所は戻りなさい。あっ!そうそう。ちなみに、病院に溢れかえっていたあの患者達。もう皆元気になってると思うから、薬を運んでいく必要はないよ。」
「……………どういう事だ?」
「今回の騒動の元凶である、あの子の中にいた怨魂を、とりあえず浄化することができたからね。根源を浄化すれば、周囲の被害は綺麗に何もなかったかのように一掃されるから。今頃はもう、院内は落ち着いていると思うよ。」
これを聞いてほっとしたが、そうするとまるで全てあの子が悪いみたいな聞こえになってしまうから、俺は何も言わなかった。
「あと、これは一番大事な事。僕たちの事、さっきの出来事は他言無用でお願いするよ。他の人間に言ってしまったら、君を殺さなくてはいけなくなるから。」
普通に「殺す」というワードが出てきて、一瞬奈落の底に落ちたかのような心地になったが、頷いて約束した。
頷くとMさんはいつもの調子でニコっと笑って、「助かるよ。」とだけ言った。
Mさんは女の方を見て
「沙織ちゃんはどうする?一旦事務所へ帰るかい?」
「……………いいえ。あの子の、約束を、果たしに。」
「…………そうかい。僕も手伝おうか?」
「…………………………いいえ、私一人で。お気遣いありがとうございます。」
そう言うと、女はフッと何処かへ消えた。
「………………………真面目だなぁ。」
少し憐れみを持ったような目で、Mさんは女を見送った。
約束?何のことだ、と思った最中、Mさんが
「さっきも言ったが、また後日。日を改めて、我々の事情を話そう。君はもうこちらの関係者になることだしね。今度僕から迎えに行くから、また会おう。少年。ではっ!」
そしてMさんも何処かへ消えていった。
本当に今日は、色々あり過ぎて疲れた。
大学で片付けの作業をしてから家に帰ると、ベッドに飛び込み、夕飯も食べずにすぐさま眠ってしまった。
俺はこれから、今日よりもっとすごい世界を知ることになるのである。
今日はまだその前兆に過ぎなかった。
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